今月の糖尿病ニュース

2026年1月の糖尿病ニュース

膵管腺癌(PDAC)・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と糖尿病

おおはしクリニック 糖尿病発症後2年間はPDAC発症率が3〜6倍、糖尿病が2年以上続くと1.5〜3倍といわれています(1)。糖尿病に伴う高血糖状態等が膵癌のリスクになること(1)、膵癌が何らかの機序で新規に糖尿病を発症させること(2)両方向があるといわれています。後者は慢性膵炎、重症急性膵炎後、嚢胞線維症等外分泌性膵疾患に続発する糖尿病とあわせて膵性糖尿病またはType3c糖尿病と呼ばれています。後者に関連して2024年2月このニュース欄で慢性膵炎と膵癌による膵性糖尿病(PDAC-DM)では膵臓ポリペプチド(PP)欠乏があり肝インスリン抵抗性と関係ありPP測定が新規発症糖尿病(NOD)においてPDAC-DMと2型糖尿病の鑑別に有用かもしれないというDETECT研究論文を取り上げました。(米国ではNIHが2015年糖尿病、慢性膵炎、膵癌間知見のギャップを埋めるため学術団体共同体(CPDPC)を設立しました。)今回そのDETECT研究の一環として、NODを代謝レベルでPDAC-DMと2型糖尿病の鑑別できないか食事負荷試験(mixed-meal tolerance test :MMTT)を行いました。PDAC-DMの早期診断(無症状、一般画像診断陰性)が目標です(3)。
DETECT研究被験者は外分泌性膵疾患なし、慢性膵炎、PDACの3群を糖尿尿新規(3年以内)発症、長期糖尿病、糖尿病なし3群にわけ全9群ですが今回はNODかつ2型糖尿病97名とNODかつPDAC28名で比較を行いました。インスリン感受性はMMTT時松田インデックス(ISI)他、インスリン分泌はIGI(第一相分泌)、oral disposition index、AUC(インスリン値カーブ下面積)他で評価しました。結果です。PDAC-DMでは2型糖尿病に比し IGIが約81%、oral disposition indexが約40%有意に低く、CペプチドやインスリンのAUCも大幅に低下していました。ISIは2型糖尿病でPDAC-DMに比し61%有意に低下していました。以上よりPDAC-DMは強いインスリン分泌不全が中心、2型糖尿病はインスリン抵抗性が中心で同じ「高血糖」でも原因が根本的に異なることがわかり、膵がんがインスリン分泌を強く障害している可能性が示唆されました。2016年6月このニュース欄ではPDAC-DMはインスリン抵抗性が特徴と書きましたが被検者によっては膵癌発症前のインスリン抵抗性が残っている可能性、すべての膵癌が同じ性質ではない可能性、耐糖能正常者と比べればインスリン抵抗性の可能性などが考察されています(3)。なお膵癌自体が耐糖能を悪化させるなら手術後(膵体積は減りますが)耐糖能が正常化するかは(2)で論じられ肯定する論文を引用しています。その他PDAC-DMは2型糖尿病に比し インスリンクリアランス(分解)が高く、 食後グルカゴンが約50%高いこともわかりました。GLP-1はむしろPDAC-DMでやや高くGIPは両群で差がないことからインクレチン不足がインスリン分泌低下の原因ではないと考えられました。

ところで長年の糖尿病にPDACを合併した場合急激な血糖コントロールの悪化という形になり(1)でも軽く触れていますが上記両方向が混在しわかりにくく、また十分な研究が不足しているそうです(2)。要約すると以下です(Copilot)

  • 結論の全体像:新規発症糖尿病(NOD)と膵臓がん(PC)、特に膵管腺癌(PDAC)との関連は一貫しているが、長期にわたる2型糖尿病(T2DM)とPDAC発症の関連は混在した証拠で示されている。
  • リスクの傾向:空腹時血糖の上昇に伴いリスクは連続的に増加し、正常→前糖尿病→糖尿病の順でPDACリスクが上がる。NODでのリスクは特に高い。
  • 大規模研究とメタ解析の結果:長期糖尿病でのPDACリスクは概ね小〜中等度(相対リスクやハザード比で約1.4〜2.2程度)と報告されている。PDAC関連死亡率の上昇(RR ≈ 1.67)を示す解析もある
  • 交絡と限界:肥満やインスリン抵抗性(IR)といった共通の背景因子や、抗糖尿病薬の影響が交絡要因となり得る。いくつかの集団ベース研究では長期糖尿病とPDACの関連を認めない結果もある
  • 因果性の検討(Mendelian randomization):MR研究は結果が一致せず、プール解析では非常に小さいが有意なオッズ比(OR ≈ 1.08)が示されたものの、因果関係を確定するには不十分であり追加研究が必要。

おおはしクリニック 一方、長年の糖尿病で急激な血糖悪化をみた場合、MRCPなどPDACスクリーニングを行っていくとIPMNがよく見つかるので調べてみました。
IPMNとは膵嚢胞の一種で、膵管の中に発生する膵嚢胞性腫瘍です。主膵管と交通のある径5mm以上の嚢胞を分岐型、主膵管径が5mm以上のものを主膵管型、両者の特徴をもつものを混合型と呼びます。Tanakaらによると腹部超音波スクリーニングに基づくIPMNの発生率は20代で0%、30代で0.2%、70代で6.6%でした。偶発的に発見された嚢胞の約80%が分岐型IPMNでした。したがって特に高齢患者において医療経済的視点上、多数のIPMNの中から高リスクを特定することが重要です(4)。2024年の国際ガイドライン(4)では超音波内視鏡の有効性(この点については消化器専門医にご確認を)を述べながらも手技、施設面等考慮しMRI/MRCPまたはMDCTを最初の検査に推挙しているようです。チャートにまとめられていて「悪性を強く示唆する所見」として閉塞性黄疸を伴う膵頭部嚢胞性病変、造影される嚢胞内の充実成分、主膵管径10mm以上、「悪性の疑いを示す所見」として嚢胞径30mm以上、主膵管径5~9mm、造影される5mm以下の壁在結節、肥厚または造影される嚢胞壁、リンパ節腫脹、膵管径の急な変化と抹消の膵委縮、年間2.5mm以上の嚢胞サイズ増大が挙げられています。フォローアップの方針、終了判断も書かれていますが複雑なためここでは省略します。ここで糖尿病内科医として見落とせないのは「過去1年間の急激な血糖の悪化または新規糖尿病発症」がCA19-9上昇、急性膵炎発症とともに「悪性の疑いを示す所見」に入っていることです

その点を具体化するIPMN malignancy prediction (IMAP) スコアリングシステム(5)が提唱されていることにも注目です。糖尿病があれば1点、3か月以内にHbA1cが1%以上上昇していれば2点、他年齢65才以上(1点)、CA19-9が37以上(2点)、5mm以上の壁在結節(1点)、嚢胞壁肥厚(1点)、主膵管径5~10mm(1点)10mm以上(2点)合計1~2点、3~5点、6点以上の3グループに分けて評価するとしています。
このスコアの位置づけは消化器科でないとわかりませんが血糖の動きが重要という点が確認できました。
今後膵性糖尿病の発症メカニズム解明が待たれます。


おおはしクリニック

参考文献
  1. Yang Jら: 糖尿病における膵癌早期診断と治療:バイオマーカースクリーニング法の包括的レビュー. Diabetology & Metabolic Syndrome 17:176, 2025
  2. Roy Aら:糖尿病と膵臓癌:双方向の交通を探求する. World J Gastroenterol 27(30):4939-4962, Aug14,2021
  3. Toledo FGSら: 膵癌関連糖尿病と2型糖尿病はグルコースホメオスターシス多面性において異なる. Diabetologia 68: 2854-2866, December 2025
  4. Ohtsuka Tら: IPMNの管理に関する国際的なエビデンスに基づく京都ガイドライン. Pancreatology 24(2): 197-324, March 2024
  5. Kobayashi Mら: IPMN悪性予測スコアリングシステムの開発. PLoS ONE 19(10): e0312234, October 17, 2024
2026年1月


>>糖尿病ニュースバックナンバーはこちらから

▲ ページ先頭へ