2025年1月の糖尿病ニュース
養生七不可と糖尿病運動療法
前半は看護師長音喜多が担当します。
昨年9月京都で開かれた第29回日本糖尿病教育・看護学会学術集会参加報告です。
メインテーマは「糖尿病看護のカタチ~伝承と創出」で
基調講演は「ケアのわざとその継承―守破離(守・破・離)の知恵から」と題して西平直先生から講演がありました。ケアには目に見える手法(ワザ)と目に見えない土台があり、後者は人間性、品格と呼ばれるもので直接伝達出来ず守破離のように非言語的コミュニケーションとして自然に身がつくものであるということです。何かを学ぶときは型を「守」り、教科書的基本型を体得した後学んだ事と違う可能性から迷い始める段階「破」を経てから初めて「離」、即ち型にとらわれず自在に使いこなし自分自身と向き合い日々の生活の中で心の揺れをモニタ化しプロセスを習得していくということでした。
ウィキペディアよると守破離とは日本の茶道や武道などの芸道・芸術における子弟関係のあり方の一つで、離の段階で流派が生まれるとのことでした。余談ですがKindle上に寿司魂「昭和45~46年大阪万博と守破離」という漫画を見つけ守破離が身近になりました。
☆日本糖尿病療養指導士合同シンポジウムでは「高齢者1型糖尿病をどう支援するか」がテーマでした。私達クリニックでも最も大きな課題のひとつです。
土田由紀子先生が一人暮らしや老々介護、認知機能低下や活動低下、インスリン療法の難渋、意欲低下またサルコペニア、フレイルと様々な問題を抱えるなどその中で外来看護師が訪問看護師との「看看連携」が大切と話されいろいろ勉強になりました。
☆市民講座は内藤裕二先生の講演でした。杉田玄白「養生七不可」を腸から紐解く、そして幸福を招く腸内細菌の育て方というお話でしたが、「養生七不可」については本も読みました(1)。1801年70才を機に玄白が健康を保つ為七つの心得とした長生きの秘訣が書かれてありました。
- 昨日非不可恨悔(昨日の失敗後悔しない))
いつまでも悔恨が続くと愚かにも天寿を縮める - 明日是不可慮念(明日の事は心配しない)
無益に心を労して心が平安でなく鬱々した日々は愚かなこと - 飲与食不可過度(食べるのも飲むのも度をこさない)
その品をめでて、味を楽しむものでなく身体を養うため飲み食べる - 非正物不可苟食(変わった食べ物を食べない)
不自然なものは食べない、魚、鳥の肉新鮮でない物は最も食べてはいけないがただ新鮮なものを品数少なく食べるのが良い - 無事時不可服薬(何でもないのにむやみに薬を飲まない)
たいていの病は薬でなく自然の力で治癒するものである - 頼壮実不可過房(元気だからといって無理をしない)
- 勤動作不可好安(楽をせず適当に運動を)
これが一番大切 まめに身体を動かして、安逸に流れない
この賢食術を実践していく手掛かりを学びわかりやすかったです。
最後に系統的な教育の場が外来、地域に移行しコロナ禍を経て何が自分に出来るか模索し
日々患者さんに寄り添ってその人らしい生活が出来るよう関わり、支援して行きたいと強く思いました。
後半は院長大橋が担当します。
1月25日、日本糖尿病学会「糖尿病学の進歩」2日目に出席しました。私も上記(1)を読み勤動作不可好安;運動の勧めが印象に残り運動関係のシンポジウムを楽しみました(会場は満員の盛況でした)。学会テーマ「100年のライフコースを俯瞰する糖尿病診療」に沿った形で高齢発症の糖尿病(中年期ごろ発症した人が高齢になった場合ではなく)では血糖値が多少高いよりも筋肉の減少が健康寿命に影響するという話がありました。80才ぐらいになると筋肉つけるために体重増やせと言っても食べられず無理なので若い頃(60才台ぐらいから?)から食べることを奨励していくという意見は全く同感です。そのうえで有酸素運動のみならず(が無理でも)、レジスタント運動、バランス運動、ストレッチングを勧めていきます。運動の見える化について古くは万歩計でしょうか、今回はアプリ、エクササイズゲージが紹介されました。スロートレーニングは日本糖尿病眼学会との合同企画と重なり聴き逃しました。
その合同企画では最新の眼内注射、レーザー治療、白内障手術、硝子体手術動画を見ることができました。白内障手術の条件(施設によって術前HbA1c基準が異なり10%以下ならOKの場合もあり)、眼科手術後角膜障害、糖尿病診療時緑内障について注意点(網膜症と反対に増加している、道路全体は見えていてもある一台の車が見えないなど視野欠損の実例、眼圧が正常でも起こりうる)、黄斑浮腫(増殖性網膜症より視力障害の原因になる)など勉強になりました。一般的な緑内障である原発開放隅角緑内障と糖尿病の関係も興味深く聞きましたがまだ不明点が多いそうです。網膜虚血と炎症について2024年の文献紹介がありました。
シンポジウム「糖尿病医療学の神髄2025」は沖縄の情緒ある歓楽街とガイドにある桜坂(劇場)で開催されました。昔夜訪れたときのディープな印象と違ってのんびりと散策できる街でした。今回はことばについて普段聞けない講演がありました。よく見られるカルテ記載「(患者さんが)拒否 」と書いてはいけない、例えば「今のところ希望されず」など
と書くべきと言われた気がします(メモをとり忘れました)。手術拒否、インスリン拒否などいろいろ状況が思い浮かびますが考えさせられました。
参考文献
- 特定非営利活動法人、杉田玄白・小浜プロジェクト編・発行: 養生七不可指南書、杉田玄白に学ぶ長生きの秘訣.晃洋書房2024年3月
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