今月の糖尿病ニュース

2024年3月の糖尿病ニュース

緩徐進行性1型糖尿病(SPIDDM)

おおはしクリニック 昨年、「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準」および「SPIDDM疑い例への治療介入に関するステートメント」が日本糖尿病学会1型 糖尿病における新病態の探索的検討委員会から報告されました。
実際のGAD抗体陽性2症例をもとに考えてみました。


症例1;50才台女性 10年ほど前から血糖高めとは言われていたが他科治療中高血糖指摘HbA1c6.9%と判明、内科精査の結果GAD抗体陽性 指摘 DPP4阻害剤開始。5ヶ月後通院の便より当科初診HbA1c6.0% 空腹時血糖124・Cペプチド5.7、GAD抗体83.7U/ml、抗IA-2抗体陰 性、橋本病合併、2型?糖尿病家族歴あり。BMI33よりGLP-1およびGIP/GLP-1受容体作動薬に変更するもA1c、体重ともに不変、また嘔気 強く中止、中止後約3ヶ月HbA1c6.3%随時血糖153。


症例2 ;40才台男性 1年4ヶ月前他科治療中高血糖判明、近医内科通院開始。1年前HbA1c12にてインスリン強化療法開始、8%台まで下が るもインスリン離脱目標にSGLT2阻害剤、ピオグリタゾン、メトホルミン併用しインスリン単位数減量。しかしHbA1cは悪化傾向になり当科 初診HbA1c10.6 %、空腹時Cペプチド1.4・血糖238、そしてGAD抗体2000U/mlと判明、単純性網膜症、尿中アルブミン/クレアチニン39.4、 糖尿病家族歴あり。


両症例とも糖尿病診断時直ちにインスリン治療は必要ありませんでした。症例2においては診断後4ヶ月目にインスリン治療が必要になったものの 空腹時CPRは1.4ありました。
以上より両症例ともSPIDDM(definite)ではなくSPIDDM疑(probable)と診断されました。
Probableを設けた理由としてすべてインスリン依存状態になるわけでないこと、DPP4阻害剤などにより進行抑制する可能性が挙げられています。
他2012年版SPIDDM診断基準との相違点はGAD抗体、膵島細胞抗体(ICA)に限定していた抗体に今回IA-2抗体、ZnT8抗体、インスリン自己抗体 (IAA)も盛り込まれたことですが急性発症1型糖尿病と海外におけるLADA(緩徐発症成人自己免疫性糖尿病)の診断基準への整合性を考慮した とあります。急性1型糖尿病との整合性はインスリン治療必要までの期間を3ヶ月(LADAでは6か月)に、Cペプチドレベルを0.6に区切ったことに も反映されています。


症例1について年齢、境界型糖尿病が10年近く続いていたこと、糖尿病の家族歴、BMI高値、空腹時Cペプチド高値、DPP4阻害剤、GLP-1および GIP/GLP-1受容体作動薬処方、症例2について空腹時高血糖時のCペプチド評価法、GAD抗体高値、糖尿病診断後1~2年で糖尿病性網膜症・ 腎臓病ありについて文献的に考察してみました。
人種差があるので参考になるか不明ですが、LADAについての文献(1)からの抜粋です。


2010年から2018年にかけGAD抗体の特異性が向上した。
GAD抗体高値(具体的な閾値はまだ不明)の場合低BMIでメタボリック症候群になりにくくUKPDSではインスリン治療必要になることが多かった。 しかしCペプチドレベルで判断する方法がより勧められている。
GAD抗体は甲状腺自己免疫予測因子であり、IA-2抗体は中国ではセリアック病リスクである。
LADA、特に過体重例ではTCF7L2遺伝子多型との関連が報告されている。
Cペプチド測定時の血糖は80~180mg/dlであるべきだが随時または食後でもよい。
治療方針はCペプチドレベルを基に行うことが提案されている。0.3nmol/L(0.91ng/ml)未満は1型糖尿病に準じて、0.7nmol/L(2.11ng/ml) 超では2型糖尿病のADA/EASDアルゴリズムで、その中間はグレイゾーンでSUは避けること、DPP4阻害剤、メトホルミン適応は上記SPPIDMステー トメント同様であり、動脈硬化性心血管疾患、心不全、CKDも考慮して治療方針を決める。6ヶ月毎にCペプチド測定も勧められている。大規模臨 床試験が必要でガイドラインではないことを前提としているがSGLT2阻害剤、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬も使用可能としている。


おおはしクリニック DPP4阻害剤は免疫機序で有効(2)の可能性があり通常の1型糖尿病ステージ2(3)対象の(追試)臨床試験(4)も進行中のようです。 抗CD3抗体teplizumabがステージ2のみならず発症直後の1型糖尿病のβ細胞機能を維持する可能性(NEJM2023年10月26日)も伝えられて おり合わせて注視したいと思います。

参考文献
  1. Buzzetti Rら:国際エキスパートパネルからのコンセンサスステートメント:LADAのマネージメント.Diabetes 69: 2037-2047, October 2020
  2. Awata Tら:SPIDDMインスリン非依存期のDPP4阻害剤シタグリプチンの長期効果の可能性:オープンラベルランダム化対照パイロット試験. Diabetes Ther 8: 1123-1134, 2017
  3. Insel RAら:無症候期1型糖尿病のステージ化:JDRF、内分泌学会、アメリカ糖尿病学会の科学的声明.Diabetes Care 38: 1964-1974, October 2015
  4. Jaquellyne Gurgel Penaforte-Saboiaら:PRE1BRAZILプロトコール: DPP4阻害剤アログリプチンのステージ2-1型糖尿病進行抑制へ効果と安全性評価目的ランダム化対照試験. Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity 17:857–864, 2024
2024年3月


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