2026年7月の糖尿病ニュース
インクレチン・グルカゴン受容体作動薬の複雑性
GLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)とGLP-1/GIP受容体作動薬(チルゼパチドなど)は血糖、体重低下作用のみならず心血管系保護作用があり今や糖尿病・肥満症治療に欠かせない薬となった一方、下痢など消化器副作用、経口製剤の内服煩雑さ、サルコペニア不安など課題も残されています。今年の米国糖尿病学会(ADA)では同系統薬の代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)・睡眠時無呼吸症候群・変形性関節症への効果、除脂肪体重維持、副作用軽減・容易な内服方法(Orforglipron)による生活の質向上が議論されました。

テキサス大学SouthwestメディカルセンターJaime Almandoz先生 講演(ADA2026)より引用
セマグルチドとアミリンアナログの配合薬(CagriSema)の臨床試験成績では特に除脂肪体重維持が強調されました。多重受容体作動薬も注目されておりGLP-1/グルカゴン受容体作動薬(Survodutide)はMASLDとの関連中心に議論されました。SYNCHRONIZE-MASLD試験(nature medicine誌6月7日発表)では2型糖尿病を持つ被験者も38.4%含まれていましたがHbA1cベースライン値は6.2±1.1%でした。離脱率は19.9%、プラセボ4.3%でした。2型糖尿病(食事運動療法のみで平均A1c7.9±1.1% 罹病期間2.5±4.4年)を対象にしたGLP-1/GIP/グルカゴン受容体三重作動薬(Retatrutide)TRANSCEND-T2D-1試験結果は6月6日Lancetに同時発表されました。治療薬群91%が満了、A1cは有意に改善し12mgのプラセボとの差は-1·12% でした。
興味深いのは動物実験ではありますがGLP-1受容体欠損マウスでもRetatrutideの効果
は正常マウス相当の減量、血糖降下作用があることで、GIP・グルカゴン受容体二重作動薬BWB3054でも、同様な効果が認められました。消化管への副作用はGLP-1受容体ベースの治療薬に共通すると考えられており臨床応用において大きな障害となるためGLP-1なしで創薬できれば消化器系副作用軽減が期待されることに大きな意義があります(1)。
今年のADAでは「グルカゴン受容体活性化パラドックス:高血糖に対する戦いにおいて味方か敵かThe Glucagon Agonism Paradox: Friend or Foe in the Fight against Hyperglycemia」というディベートが企画されました。
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そのまえに簡単に整理しておくとグルカゴンの主な作用は
- 臓で糖新生・グリコーゲン分解 → 血糖上昇
- 食後状態でインクレチンとして働きGLP-1受容体活性化を通じてインスリン分泌促進
- 脂肪酸酸化、細胞内脂肪分解、脂質産生低下
- 肝アミノ酸代謝および尿素産生
「グルカゴンは敵」の演者はDeFronzo先生で主として肝糖産生の面とグルカゴン受容体拮抗剤の血糖改善エビデンスなどから論じられ糖尿病予防効果はあるかもしれないが糖尿病に対してはどうかという立場に立って講演されました。もっとも企画当初は「グルカゴンは味方」サイドで依頼があったそうです。また、Charles Dickens(ディケンズ)著 「A Tale of Two Cities(二都物語)」はフランス革命のころのイギリスとフランスの話で書き出し「最良の時代にして、最悪の時代だった。知恵の時代であって、愚味の時代だった。・・・・・・・口やかましい一部の識者この時代を理解するには良きにつけ悪しきにつけ、最上級の言葉の対比に照らすほかはないと説いた。」が有名とのことですが、今回のディベートはDeFronzo著、二都物語だと前置きして話を進められました。また文献(1)に対して「I was shocked」と述べられ、まだまだ未知のことが多い分野と評されました。
以下は論文の考察からです。
「重要なのはGIP・グルカゴン受容体二重作動薬による肥満予防効果が血糖コントロールを犠牲にするものではないということです。グルカゴン受容体シグナル伝達の強い直接制御下にある糖新生遺伝子G6pcの肝臓発現の増加を誘発しなかったことも注目に値します。これらの結果は、持続的なGIP受容体作動薬がグルカゴン受容体作動薬治療による高血糖活性を相殺できることを示唆しています。GIPおよびGLP1によるグルカゴン緩衝作用が、共通のインスリン分泌促進によるものか、それとも独自のメカニズムによるものかは、まだ明らかになっていません。」(1)
グルカゴン受容体作動薬はまだ国内で承認されていません。海外でも同様と思います。
参考文献
- Perez-Tilve D, TschöpMHら:GIP・グルカゴン受容体二重作動薬は肥満げっ歯類の体重を正常化する. MOLECULAR METABOLISM 108 :epub April 15 2026
- Gastaldelli A: 糖制御からエネルギー消費と脂質酸化へ:肥満とMASLDにおけるグルカゴン受容体活性化作用の新たに浮上した役割. Journal of Hepatology 83: 1250–1252, December 2025
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