今月の糖尿病ニュース

2024年6月の糖尿病ニュース

Pathway to Stop Diabetes(糖尿病を止める道筋)

おおはしクリニック 第84回米国糖尿病学会年次学術集会(ADA)に出席しました。今年5月の日本糖尿病学会学術集会テーマは「糖尿病のない世界を目指して・・」として活発な議論が行われましたが、ADAでも以前から“Pathway to Stop Diabetes”というプログラムで研究をバックアップしているようです。初日早々、21日金曜日午前に同タイトルのセッション があり南カルフォルニア大学のKathleen A Page先生が“Early Encounters(早期遭遇)—Diabetes Exposure Before Birth Shapes Brain Pathways and Metabolic Risk(出生前糖尿病暴露が脳の経路と代謝リスクを形成する)”と題して講演トップバッターを務めました。ステージ中央でゼスチャーを交えたプレゼンテーションもユニークで魅力的でしたが内容が私には斬新でした。小児または青年期発症の2型糖尿病(YOD)は15年前の2倍に増えているそうで(日本も世界ランクでは中間)、放置すれば糖尿病をもつ人は減らないことになり、また妊娠糖尿病が遺伝子とは独立してYODのリスクということがわかっていました。受賞研究はこれに着目、7~11才小児91人を母の妊娠糖尿病(GDM)有無(+-)別に分け、空腹感をコントロールする脳内視床下部の糖摂取後の血流を調べました。するとGDM+では血流が増加(肥満に繋がる所見)しており、さらに重要な点はGDM診断時期が26週以降ではGDM-と差はなく26週以前のGDM+にのみ見られたことです。同様に妊娠中期以降でなく早期GDM特有の所見は快楽を感じる脳内報酬系の食品Cue(写真や匂い)に対する反応(増大)にもみられました。関連セッションとして24日月曜日には妊娠早期GDMをどう扱うかLancet共催のシンポジウム、妊娠早期GDM治療に関するディベートがありました。GDMは血糖のみならず妊娠経過中のインスリン分泌・感受性変化も考え早期から治療すべきかとは思いましたが、まだ長期予後など臨床研究では結論が出ていません。


おおはしクリニック YODに関するシンポジウムも開かれました。日本内分泌学会ホームページによると25才未満診断糖尿病の11.5%が単一遺伝子異常であるMODY(若年発症成人型糖尿病)で、MODY3(HNF1A遺伝子変異)が多数を占めます。シンポジウムではMODY カリキュレーターではYODでもMODYと診断されうること、単一遺伝子異常以外にYODではrare variant(低頻度の遺伝子変化)が5倍、common variant(高頻度の遺伝子変化)が3.4倍みられることが発表されました。そのほかメトホルミン・インクレチン効果不良(GLP-1製剤は有効)、治療による糖新生抑制不良などの特徴も述べられました。質疑応答でYODの原因は遺伝か社会的要因かどちらが大きいかと質問がありましたが、「まだわからない、難しい問題」と回答がありました。


おおはしクリニック GLP-1(/GIP)製剤・SGLT2阻害剤の新しい話題、難治性2型糖尿病と高コルチゾール血症、早期1型糖尿病・NASH(脂肪肝)新薬の話題、糖尿病と肺、AKI(急性腎障害)、境界型糖尿病の大規模臨床試験、クローズドループインスリンポンプのmissed bolus(食前インスリン打ち忘れ)時の反応・アルゴリズムなど臨床家である私にも話題豊富でしたが、オンデマンドを利用して振り返ってみようと思います。


2024年6月


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