2024年9月の糖尿病ニュース
糖尿病網膜症の話題
糖尿病網膜症に脂質代謝異常が関与することは日本糖尿病眼学会(1)、米国糖尿病学会(ADA)(2)のガイドライン等にも記載されていますが、
今年のADA学術会議シンポジウム「網膜症への全身投薬」で新たにフィブラート系薬剤の効果が報告されました。また眼科領域はAIの適用範囲
が広い(日本眼科学会Webサイト)そうですが、実際の臨床でも網膜症スクリーニング受診率向上へ繋がったということです。
(2)から抜粋です(一部(1)から)。
網膜症のリスクを高める要因には糖尿病の持続期間、慢性高血糖、腎症、高血圧、脂質異常症がある。
降圧は補助的な治療として網膜症進行を減らすが120以下に下げても上積み効果はない。
脂質異常症のある場合、とくに軽症非増殖性網膜症においてフェノフィブラートは網膜症進行を遅らせる可能性がある。
専門家の少ない地域から専門家へ遠隔読み取りを依頼する網膜写真や米国FDA認可AIを用いるプログラムは、アクセスを容易にする適切なスク
リーン戦略である。必要時タイミングよく包括的な眼検査が受けられるパスが備わっていなければならない。異常があればフォローアップは対
面式で行う。AIは従来のスクリーンにとって代わる代表例である。現在3種のFDA認可AIアルゴリズムがある。ほとんどの保険が適用される。
前向き多施設臨床試験でも診断正確性が文献化されているが、有効で理想的な方法はまだ十分確立されていない。スクリーン結果を文書化して
専門家に送るべきである。
最初のスクリーンは1型糖尿病では5年以内に、2型糖尿病では診断後すぐに。妊娠糖尿病では不要だが妊娠を計画している場合、妊娠した場合1型、
2型糖尿病ともその段階で受ける必要がある。なぜならある研究では15%が妊娠中新たに網膜症を発症、非増殖性網膜症(NPDR)の悪化が31%に、
NPDRから増殖性網膜症(PDR)への進行が6.3%に、PDRの悪化が37%に見られたためである。妊娠患者は非妊娠患者に比較し1.60~2.48倍の糖尿病
網膜症進展リスクがある(1)。
汎網膜レーザー光凝固療法は高リスクPDR、場合によって重症NPDRの視力喪失リスク軽減に適応される。日本では蛍光眼底造影で無灌流領域を
検出し早期治療で重症化予防をする基本姿勢がある(1)。
抗VEGF硝子体内注射はPDRの一部に汎網膜レーザー光凝固療法の合理的な代替手段であり視力喪失リスクを軽減する。日本では黄斑浮腫のない
例に保険適応ない(1)。
抗VEGF硝子体内注射は中心窩を含む視力を損なう黄斑浮腫例のほとんどに第一選択である。中心窩を含まない黄斑浮腫には直接/格子状光凝固
治療も推奨され、経済的負担が少なく長期間の頻回通院が必要ない(1)。
黄斑焦点/格子状光凝固とコルチコステロイド硝子体注射は抗VEGF治療無効または非適応黄斑浮腫例に合理的な治療である。
上記メタアナリシス・総説によると2007年のFIELD研究、2010年のACCORD Eye研究ごろから脂質異常症治療薬フェノフィブラートの網膜症 に対する効果へ注目が集まったことがわかります。リスク軽減はいずれも約30%ですが。試験対象者の網膜症有無と重症度、効果指標が網膜症 進行、光凝固導入率、黄斑浮腫関連、硬性白斑、視力、生活の質など何を用いているか、また追跡期間にも注意が必要です。また脂質低下作用 以外の作用機序も想定されるが脂質異常症のない人に適応があるかは不明としています。
今年のADAシンポジウム演題の一つLENS trial は上記論文になっていますが
スコットランドの国家プログラムDiabetic Eye Screening (DES)プログラムを持いたランダム化前向き試験でプライマリーアウトカムはreferable
(眼科医での精査必要)な網膜症発症または硝子体注射、レーザー、硝子体手術治療です。FIELD試験結果と矛盾はありませんでした。
糖尿病網膜症臨床の重要なポイントは無症状な時期からの早期発見早期治療であることは言うまでもありません。地理的、あるいは経済的にス クリーンをうけるのが難しいケースもしばしばありますがAIを利用して若年糖尿病のスクリーン率を上げたという論文です。今年のADA学術会 議では白人と非白人比較(ACCESS2)が紹介されました。
参考文献
- 日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版). 日眼会誌124(12):955-981, 2020 年12月
- ADA Professional Practice Committee:網膜症、神経障害とフットケア:糖尿病標準ケア2024. Diabetes Care47: S231-S243, January 2024
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