今月の糖尿病ニュース

2025年11月の糖尿病ニュース

心不全とCKM症候群 / 時間毒性と経済毒性

おおはしクリニック 主要な心電図異常である異常Q波、心室内伝導遅延、左室肥大のみならず検診でよくみられる軽度な心電図異常ST-T変化、軸偏位などは糖尿病があり心血管疾患リスクファクターを持つ人に多く見られ(GRADE研究では研究開始時全体の57%)、心不全発症のリスクファクターになります(1)。また心不全は糖尿病に合併する心血管疾患の中で最も多いともいわれています(1)。そこで糖尿病診療上心不全予防として血糖・血圧・脂質管理、心電図・BNPモニター以外なにが重要か検索したところCKM症候群の話が出てきました。 CKM(心腎代謝症候群)は、2023年秋米国心臓協会(AHA)により新たに提唱された疾患概念で、肥満や糖尿病などの代謝リスク因子、慢性腎臓病(CKD)、および心不全・心房細動・冠動脈疾患・脳卒中・末梢動脈疾患などの心血管疾患(CVD)に起因する健康障害と定義されます。
次の4つのステージに分けられます(2)。

  • ステージ1:体内に過剰または機能不全(耐糖能障害または前糖尿病として現れる)の脂肪組織が蓄積する。BMIは必ずしも高くなくてもよい。
  • ステージ2:高血圧、高コレステロール、糖尿病などの代謝リスク因子と中等度から高リスクのCKD(糖尿病・高血圧以外の要因も含めて)が併存する。
  • ステージ3:無症候性CVD(動脈硬化性心血管疾患または心不全)がある状態で大変高リスクのCKDが併存する
  • ステージ4:CVDの診断を受ける。
臓器間相互作用やステージ分類がメタボリックシンドロームにない特徴で包括的に効果が期待されるSGLT2阻害剤やGLP-1受容体作動薬の活用を促進する意義、診療科の連携、社会的問題(医療へのアクセスなど健康格差)が提起されています。連携について
2023年6月のアメリカ糖尿病学会ではCardiometabolic disease(CMD)センター設立の話題がありました。2025年日本循環器学会の心不全診療ガイドラインが改訂されましたがCKD、肥満がリスクに挙げられておりCKM症候群と共通するものがあります。また2024年日本内科学会雑誌113巻9号CPC(臨床病理カンファレンス)において多彩な症候がもはや一般概念のようにCKM症候群として総括されています。

糖尿病に合併する心不全のメカニズムと代表的な心不全治療薬SGLT2阻害剤の作用機序について(3)からの抜粋です。
炎症が直接心筋に影響を及ぼし心機能不全をひきおこす;IL6 とTNFαは心筋細胞のミトコンドリア機能を障害し酸化ストレスとアポトーシスを引き起こす、高血糖によるNLRP3 インフラマゾールが IL1β と IL18放出のもとになり線維化をひきおこし心筋を硬化させる、 TGFβ シグナル伝達は miR133 や miR30のような心特異的 microRNAs のダウンレギュレーションとともに 細胞外マトリックス蓄積を促進し線維化を高める。これら相互接続されたメカニズムがまとまり心筋リモデリング、拡張不全から心不全、とくに HFpEF に進行する。
SGLT2 阻害剤は全身の炎症を減少させる;炎症誘発性サイトカイン MCP1、CXCL10、IFNγ、 hsCRP、 IL6、TNFを抑え抗炎症シグナル伝達を行うIL10、アディポネクチンを増加させる。さらにオートファジーの回復、小胞体ストレス軽減、SIRT1の活性化による低栄養下状態模倣を改善する(3)。

おおはしクリニック 2024年の日本内科学会講演会で「腸内細菌と心血管疾患」と題する招請講演がありました(4)。心不全患者ではBilophilaが増加しており血中トリメチルアミンN-オキシドTMAOの増加に関与し心不全を悪化させるそうです。またTMAOは炎症の促進、血小板凝集亢進、腎臓の線維化促進から心血管イベントを増加させる可能性が述べられています。
CKM症候群と腸内細菌の関係について、2024年Kaseらが提唱した腸内細菌叢に対する食事指数(DI-GM)を用いた研究がありました(5)。DI-GMは腸内細菌叢に好影響悪影響をあたえる14食品の摂取状況を調べ点数化したものです。アボガド、大豆製品など10品目が十分に摂取できていれば1点、肉類、高脂肪食品など4品目の過剰摂取がなければ1点、計0~14点となります。CKM症候群リスクは例えばDI-GM6点以上は3点以下に比し23%低い結果でした。
心不全は多数のリスクファクターに影響をうける多因性慢性状態だとすれば、これらと腸管細菌叢のバランスが乱れた状態とどう結びつけるかが重要です(6)。

おおはしクリニック 看護師長音喜多です。時間毒性と経済毒性について30回糖尿病教育・看護学会学術集会がつくば国際会議場で開催されWeb聴講しました。
医療において
時間毒性とは治療、通院などにかかる時間的拘束
経済毒性とは診断・治療関連費用や仕事休業を余儀無くされた時の収入源から生じる経済的問題を意味するそうで(仕事休業は時間的拘束の影響もありますが)、癌診療においてとくに研究が進み医療経済的アプローチでは、がん死亡による労働損失を算出し、経済的にもがんの予防や早期発見、治療によって死亡を回避する事の重要性が言われています。
糖尿病診療でも必要な知識として本田和典先生の教育講演がありました。
癌診療においてはオンライン診療、遠隔治験の活用など通じて患者、医療者、社会が連携して課題を解決する道筋が示されました。糖尿病診療では1型糖尿病におけるインスリンポンプ療法などは成人ではかなり高価で断念する人も多く、単価は驚くほど高くない検査治療も何十年も継続するため時間・経済的負担は同等かもしれません。
1型糖尿病の発症前予知・治療開始研究等の発展、2型糖尿病では出来るだけ早期から徹底的に対策を立て合併症診療を防ぐなど医学医療面の課題もありますが、言うまでもなく社会的背景も意識して診療にあたることが重要と感じました。


参考文献
  1. 新潟大学広報(医歯学系総務課担当)2023年5月29日:糖尿病患者の100人に1人は「治っていた」~4万8千人の患者データ解析で明らかになった「寛解」の頻度と条件~
  2. Pop-Busui Rら: 早期2型糖尿病における心電図異常と心血管自律神経障害の有病率とランダム化血糖低下治療における発症率の違い:GRADEコホート. Diabetes Care 48: 1960-1970, November 2025
  3. Ndumele CEら: CKMヘルス:AHA(アメリカ心臓病協会)からのPresidential Advisory. Circulation 148: 1606-1635, 2023
  4. Ghafoury Rら:CKM症候群全体のリスクファクターとしての残存炎症の役割:2型糖尿病をもつ人の重荷を紐解く. Diabetes Ther 16:1341–1365, 2025
  5. 平田健一ら: 腸内細菌と心血管疾患. 日内会誌113:1525-1532, 2024
  6. Zhao Yら: 一般成人集団における腸内細菌叢の食事指数とCKM症候群との逆相関. Sci Rep 15(1): 40834, Nov 19 2025
  7. Zhao Sら:心不全に対する腸内細菌叢のインパクトを暗号解読する. Genes Dis 12(6):101592, Mar 6 2025
2025年11月


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