今月の糖尿病ニュース

2025年4月の糖尿病ニュース

1型糖尿病における蛋白質摂取の血糖への影響

おおはしクリニック 今月はDiabetes Care誌からの要約です。
糖尿病のない人または2型糖尿病では蛋白質を炭水化物と一緒に摂ると血糖上昇が抑えられることはよく知られています。 これはインクレチンホルモン分泌などを介してインスリン分泌が高まること、胃内容排出が遅れるからと言われていますが1型糖尿病では これと異なりよく誤解されています。インスリン分泌が絶対的に不足しているためインスリンとグルカゴンの濃度比に依存する内因性糖産生 が亢進し血糖は上昇します。一方1型糖尿病では、低血糖症と運動に対するグルカゴン反応が低下(または消失)します。これはおそらく、 α細胞のグルカゴン分泌がβ細胞からの上流パラクリンシグナルに大きく依存しているため(膵島内仮説)、これは1型糖尿病の人々には存在し ないからです。対照的に、アミノ酸に対するグルカゴン反応は、膵島内のコミュニケーションとは無関係に起こるので、1型糖尿病の人々では 無傷のようです。

アミノ酸は静脈内注射ではα細胞に直接グルカゴン分泌刺激、消化管経由ではインクレチンを介して間接的にも刺激します。
1型糖尿病において低血糖(高インスリン低血糖クランプ下)に対するグルカゴン分泌は完全に低下するも経口アミノ酸摂取で回復、 アミノ酸のグルカゴン反応は正常血糖より低血糖時の方が大きく低血糖拮抗作用の目覚まし効果様という報告があります。

1970年台にはタンパク質の摂取が1型糖尿病の人で血糖値の緩やかで軽度かつ持続的な上昇を引き起こすことが示され、現在一般的に血糖値 は摂取後約3.5時間でピークに達し、超高蛋白食(蛋白質40-75g)では12時間も上昇したままなどのデータがありますが、同じ蛋白質でも吸 収の違いや摂取時の血糖値により異なってきます。摂取した蛋白質の吸収率とアミノ酸組成は、食後の血糖反応の重要な決定要因ですが、 一般的な食事性蛋白質源の吸収率は、特に1型糖尿病では十分に研究されていません。1型糖尿病、2型糖尿病のデータの大部分が介入として ホエイプロテインの使用によるものなので食事性蛋白質源、それらの吸収、および結果として生じる糖調節効果に関するデータが今後必要です。 1型糖尿病に特異的な蛋白質の「グリセミック指数」(すなわち、「アミノグルコゲン指数」)を開発することは、将来の研究において有益である 可能性があります。因みに蛋白質組成のグルカゴンと血糖反応に対する反応を調査した研究は発表されていません。血糖に対するタンパク質の 影響(特に食後初期)は、脂肪と炭水化物の含有量に対する反応の変動性によって隠される可能性が高いため米国・欧州糖尿病学会コンセンサス 報告等では、高タンパク食後3時間のグルコースレベルをモニタリングして、追加のインスリン調整が必要かどうかを判断することを推奨してい ます。

おおはしクリニック 夜間の低血糖は1型糖尿病の人々にとって大きな懸念事項です。夜間の低血糖は、翌日の血糖コントロール障害と関連しているという報告も あります。高蛋白(25%)の夕食は、低蛋白(15%)に比べて、夜間の血糖降下イベントが有意に減少(32%対5%)、50gのホエイタンパク質 を摂取すると、グルコース投与の必要性が一晩で約2.5倍減少などの臨床研究があり有望ですが、更なる自由生活下研究が必要です。
1型糖尿病の運動誘発性低血糖は皮下投与インスリンの性質上、運動によるグルコース利用の急激な増加を補うほど急速に循環インスリンを 減らすことができないことから起こります。1型糖尿病の現在の運動ガイドラインでは、低血糖リスクを軽減するために炭水化物の摂取を推 奨していますが、吸収の速いタンパク質の摂取も運動中の血糖調節を改善するかもしれません。1型糖尿病患者において蛋白質摂取後グルコ ース濃度の緩徐、持続かつ中等度増加効果は、自動インスリン注入(AID)を使用している者に有益です。運動誘発性低血糖予防のために現在 推奨されているプロトコールでは血糖値の大幅な急上昇をおこすことがあり、これはAIDシステムからのインスリン注入を増加させる反応を 引き出し場合によっては逆説的に低血糖リスクを増加させる可能性があるからです。
一般集団において国際スポーツ栄養学会による現在のガイドラインでは、回復を促進し、運動への適応反応を高めるために、 蛋白質1.4-2.0g/kg体重/日を摂取することを推奨しています。したがって、1型糖尿病患者の血糖管理に蛋白質摂取を使用することは、 現在の運動栄養ガイドラインからの大幅な逸脱を表すものではありません。アミノ酸によるグルカゴン分泌の刺激が運動誘発性低血糖の予防 に有効であるという理論と一致して、低用量の組換えヒトグルカゴンの皮下注射がインスリンの減量よりも運動誘発性低血糖の予防に効果的 であることが示されています。
純粋なタンパク質摂取が運動に対する血糖反応に直接的な影響を与えることを検討した研究は1型糖尿病では2つしかないそうです。 食事性蛋白質の増加は70 mg/dL下回るグルコースで過ごす時間の割合(TBR)が減少、運動後の夕方に50gのホエイプロテインを摂取する と、夜間の平均グルカゴンレベルがほぼ2倍になり、血糖値が一晩中持続的に増加したなどです。これらの研究は、1型糖尿病患者の運動誘 発性低血糖を軽減するための戦略として、タンパク質摂取の潜在的な有効性を示しています。しかし今後さらに多くの詳細な研究が必要です。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Dao GMら:1型糖尿病における蛋白質摂取の血糖への影響. Diabetes Care 48: 509-518, April 2025
2025年4月


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