2025年3月の糖尿病ニュース
糖尿病におけるMASLD/MASHと肝線維化
2020年にMetabolic Associated Steatotis Liver Disease (MASLD)と言う概念が提唱されました。様々な病因の脂肪肝の総称を
Steatotic liver disease(脂肪性肝疾患SLD)とし、原因・病態 により5つに分類しそのうちの一つが、従来のNAFLDとほぼ同等な代謝
異常関連脂肪性肝疾患MASLDです(他はアルコール摂取量が多い(女性140~350 g/週,男性210~420 g/週)MASLDで別個にMetALD,ア
ルコール(上記以上)関連肝障害,原因特異性脂肪肝,その他原因不明の脂肪肝)。 MASLDの有病率は欧米諸国では20~40%、アジア諸国では
12~30%、日本では10~30%と報告されています(1)が、2型糖尿病のある人に限ると米国では70%以上にNAFLDが合併しています(2)。
MASH(代謝異常関連脂肪肝炎)は従来NASHと呼ばれていた疾患で定義は組織学的に炎症と肝障害障害(風船様変性)を伴った脂肪化が5%以
上あるものとして線維化有無は問いません(2)。MASLDの半数以上はMASHを合併しています(2)。
肝線維化は組織学的にF0~4の5段階に分けられF1:軽度、F2:中等度または有意、F3:重度または進行、F4:肝硬変です。米国では2型糖尿
病を持つひとの12~20%にF2以上の肝線維化または肝硬変リスクのあるMASHがみられます。
日本肝臓学会編:NASH・NAFLDの診療ガイド2021によると、(2型糖尿病ではなく)国民全体で人口の約30%がNAFLDで,そのうち約10%が
NASHと推定され、NASHのうち肝線維化が進んだF3以上の割合は約20%、またNASHでは約7年に1段階,NAFLでは約14年に1段階の肝線維化の進展が想定され、NASHの場合代謝性疾患合併で加速します(3)。以上より2型糖尿病は肝線維化のリスクが高いことになります。また
「MASLDとMASHは相互移行がありMASLDの一部に速度は遅いものの進行する可能性があることがわかりAnguloらは、肝臓線維化が 唯一生命
予後に関わる病理所見であると報告し た。欧州、本邦からも多数同様の報告がある。この点を重視し、生命予後に最も関連する病理所見は肝
線維化であり,線維化の程度に応じて経過観察方法・治療法を考慮すべきである」
ため、診断治療につき調べました。
日本消化器病学会,日本肝臓学会編:NAFLD/NASH診療ガイドライン2020では肝線維化の評価にFIB-4インデックスの他、線維化マーカー
(ヒアルロン酸、IV型コラーゲン7S、M2BPGi、オートタキシンなど)、NFS(NAFLD線維化スコア)を用いています。FIB-4インデックス1.3
以上では消化器科紹介することに加え2.67以上では脳・循環器専門医へも紹介検討することが示されています。
消化器専門医では二次スクリーンとしてエラストグラフィー(Fibrosacn, MRエラストグラフィー)を行います。例えばLSM(VCTE:vibrat
ion-controlled transient elastographyによるliver stiffness measurement) ≧8.0の場合F3以上の可能性があります。米国
ではこの時点になってから肝臓専門医へ送るとしています(2)。代替えとしてELFテスト(≧9.8)も提案されています(2)。ELFテストはエラ
ストグラフィーの前に行う(9.5以上を認めてから専門医に送る)スリーステップアルゴリズム(4)もあるそうです。ELFテストは2024年保険
適応になったそうです(j-smarc.org)。他男性の場合F2以上,女性の 場合F3以上の場合肝発癌する可能性あり,半年~1年おきの腹部超音
波検査も考慮することも提案されています。
治療に関しては(2)からアルゴリズムの図を引用させてもらいました。肥満と糖尿病の薬物療法が区別されていること、SGLT2阻害剤が(まだ
データ不十分として有望ながら?)糖尿病のF1に限定されていること、MASH(F2~F3)にFDAから認可された甲状腺ホルモンレセブターβ作
動薬(Resmetirom)が挙げられていることが目につきます。
日本消化器病学会,日本肝臓学会編:NAFLD/NASH診療ガイドライン2020には多数の候補薬が挙げられていました。
高血糖が体重増加とは無関係に肝線維症を悪化させる「糖尿病性脂肪性肝炎」という用語が提唱されていて、たとえばSU剤も有効な理由として、
難解でしたが興味深く読みました(5)。
参考文献
- 徳重 克年:非アルコール性脂肪性肝疾患診療のポイント―改訂(日本消化器病学会,日本肝臓学会編)NASH/NAFLD診療ガイドラインを踏まえて―. 日本内科学会雑誌 113(3):404-410, 2024
- ADA Standards of Care in Diabetes:MASLDとMASH. Diabetes Care 48: S59-S85, January 2025
- 竹井 謙之:NAFLDの病態と治療. 日本内科学会雑誌 111(9):1959-1968, 2022
- 中島 淳ら:エラストグラフィの進歩―肝臓蓄積脂肪量の定量方法の進歩と肝硬度測定の最近の進歩―. 日本内科学会雑誌 113(1):39-50, 2024
- Sako S, Takamura Tら:糖尿病に関連するNAFLDにおける肝線維症の軌跡と遺伝子発現プロファイル. Diabetes 72: 1297-1306, September 2023
>>糖尿病ニュースバックナンバーはこちらから |