今月の糖尿病ニュース

2025年2月の糖尿病ニュース

HbA1c、平均血糖(AG)とグリコアルブミン(GA)

おおはしクリニック 今月はアメリカ糖尿病学会(ADA)の糖尿病ケア基準(Standards of Care in Diabetes)2025年版が手元に届いたので改訂のまとめ中心に 目を通しました(のち裏表紙を見て笑顔のDeFronzo先生にびっくり)。食事・運動療法と並んで重視されるようになったという睡眠、MASLD代 謝機能障害関連脂肪性肝疾患の治療アルゴリズム等に注目しましたが、持続血糖モニター(CGM)から求めた平均血糖(AG)、HbA1c、グリコア ルブミン(GA)間の関係に関心があり(透析中と同様HbA1c値が血糖値以外の要因で変動しやすい)妊娠時血糖マネージメントから読みました。 すでに(2017年の論文から)妊娠経過中HbA1cとeAG(HbA1cから推定されるAG)関係は変化するため持続血糖モニター(CGM)から求めたAG を使うのがよいとされていましたが、TIR5%の増加が巨大児、新生児ICU入院を減らすと新しいCGMのエビデンスが追加されていました。なお CGMは1型のみならず(まだデータ不足ながら)2型糖尿病、妊娠糖尿病の妊婦にも個別に適応を考慮すると書かれています。ただし1型糖尿病妊 婦におけるTAR25%未満、TIR(63~140mg/dl)70%以上、レベル1TBR(63未満)4%未満、レベル2(54未満)1%未満の目標%値はまだ定 まっていません。

おおはしクリニック それではGAはどうでしょうか?昨年ブラジルある地区の住民(ヨーロッパ系85%アフリカ系14%アジア系1%)対象にGAの基準範囲が提案されまし た(1)。全体で10~13.8%で、米国9.9–14.2%、中国10.4–13.9%のデータと近似していましたが日本、韓国、南アフリカのデータは上限が 1~3.7%高く報告されています。妊娠有無別では妊娠時10.6–14.7%、非妊娠時10.0–13.3%、妊娠経過中の変化は16週12.9%、37週で12.4% と差が僅かな為基準範囲は全期間同一とされました(因みに日本人では妊娠初期12.0-16.6、中期11.8-16.6、後期11.3-15.3(Hiramatsuら)です)。
しかし妊娠糖尿病の診断にGAカットオフ値13.1を用いると感度53.7% 特異度70.7% AUC0.625と不良でした(他の研究でもGAは妊娠糖尿病の診断、 児の転帰予測には不適としていますがSugawara らはGAカットオフ値13.6–14.7が新生児合併症予測に有用と報告しています)。
一方2型糖尿病ではGAカットオフ値14.2で感度84.8% 特異度97.6%でした(1)。

おおはしクリニック GAとCGM由来AGの関係についてGRADE研究(2022年NEJM誌に結果発表されたエントリー時メトホルミン内服下平均HbA1c7.5 %の被検者に 対して2剤目は何がよいか4種薬剤の比較)被検者4314名のうち2018~2020年にリクルートした1749名にCGM検査(定期検査日の2週間前装着) を行い結果が発表されました(2)。1454名が解析対象になり非ヒスパニック系白人(NHW)・黒人(NHB)、ヒスパニック系白人(HW)、その他(ア ジア系含む)4群に分けAG・HbA1c関係の人種差検出を主目的とし、GAもCGM直後に測定されました。GA:AG:HbA1cは全体で15.3:135:7.0 、その他で15.7:142:7.2、NHWで14.5:131:6.8、NHBで16.1:125:7.1、HWで15.4:142:7.1でした。
eAG/A1c Conversion Calculator (professional.diabetes.org)に比しA1cが相対的に高いと思いますが論文中にはコメント見つけ られませんでした。GAとHbA1cは反映期間の相違はあるにせよ概ね相関したことから人種差は赤血球またはアルブミンの代謝回転というより糖 化(グリケーション)の違いから生じる可能性を考察しています。文献(2)から図を引用します。アジア系を含む群はオレンジです。AはHbA1c とAG、BはGAとAGです。

透析中の糖尿病ではどうでしょうか? 日本透析学会のガイドラインには「GA<20、心血管リスクが高く低血糖を避けたい場合はGA<24」と透析中血糖マネージメント指標にGAを推して いますが、Diabetes Care誌今月号には糖尿病を持つ人の個別治療の一環として透析中の予後を見据えた研究推進意見があり、GAは研究数 (確証)が少なく推薦できない、CGMは有望と書かれていました(3)。しかしこの分野でGAに関するパイロットスタディーも行われているようで 末期腎疾患では糖尿病有無別HbA1cに差がなくても(5.5 vs 5.3)GA、CGM(TIR、TAR)上有意差があったという報告がありました(4)。
文献(4)から補足図を引用します。
おおはしクリニック GAの糖尿病(前糖尿病も?)診断カットオフ値設定はアジア系で先行していることが書かれていました(5)。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Al-LahhamYら:GA、1,5-AG/GA比、GA/HbA1c 比の基準範囲と1型、2型糖尿病、妊娠糖尿病のカットオフ値: 横断研究. Biomedicines 2024, 12, 2651
  2. Nathan DMら:AGとA1cの関係は人種グループに渡って異なる: GRADEランダム化研究の下位調査. Diabetes Care 47: 2155–2163, December 2024
  3. Klein KR, Lingvay Iら:透析依存腎不全における血糖マネージメントと個別糖尿病ケア. Diabetes Care 48: 164–176, Feburuary 2025
  4. Kaminski CYら:末期腎疾患があり薬剤治療なしで6ヶ月以上HbA1c<6.5%が続く糖尿病(Burnt-Out Diabetes)におけるCGM、HbA1c、フルクトサミン、GAによる血糖コントロール評価. Diabetes Care 47: 267–271, Feburuary 2024
  5. Bergman M, Abdul-Ghani M, DeFronzo RAら:血糖異常検出法Review, Diabetes Res Clin Pract 165:108233, July 2020
2025年2月


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