2024年12月の糖尿病ニュース
脳とダイアベティス(糖尿病)
本年米国糖尿病学会学術講演会(ADA2024)のシンポジウム「それはすべて頭の中にあります;全身代謝の中枢神経系制御」がDiabetes誌に掲載 (1)されたのを機に研究の歴史と最近の話題を調べました。同じADA24のシンポジウム「GLP-1関連薬の体重減少メカニズム-動物実験からの新しい洞察」はそのひとつです。マウス後脳の実験でGIP受容体アゴニストとアンタゴニストの作用脳領域、細胞種類が異なるということが示されましたが、脳インクレチン受容体活性化の下流で何が起こるか、そしてどの回路が関与しているかは不明のままだそうです(2)。
また脳内でもGLP-1は作られるためそれを刺激し全身投与のGLP-1関連薬と組み合わせたらどうなるか?という話もありました。
食欲が生じる仕組みの解析は19世紀後半に進みだしました(3)。1854年Claude Bernardの論文は現在でも引用されています(1)。腫瘍や事故で脳の一部を損傷した人や脳の一部を破壊した実験動物の摂食行動を解析することで視床下部が重要であることが次第にあきらかになりました。1940年台からは視床下部神経核の役割について検討が進み1970年台には糖定常説がでましたが体重を一定に保つ現象の説明がつきませんでした。1980年台後半遺伝子解析技術が急速に進歩した結果、1994年レプチンが発見されブレークスルーになりました。弓状核にその受容体が多く存在すること、インスリンも弓状核に働いて摂食抑制効果をはっきすることがわかり、弓状核は腹内側核と外側核とともに摂食中枢と呼ばれるようになりました。弓状核にはPOMCニューロン(αMSH生成、レプチンで活性化)とAgRPニューロン(AgRPとNPY放出、レプチンで不活化)が存在します(3)。
今年の日本糖尿病学会年次学術集会(JDS2024)において「神経系による代謝・炎症制御」
というシンポジウムがありました。興味はあるものの複雑で敬遠しがちだった分野ですが今抄録を読むと少し身近になった気がします。高脂肪食が視床下部PNOCARCニューロン神経(回路)を介して過食に関係、光のあたり方・寒冷・食事制限・ストレス等条件の違いにより視床下部Nos1ニューロンが脂肪利用を調節、栄養素に応じて様々な神経伝達物質を放出する腸内分泌細胞EECs-迷走神経―報酬系などわかりやすく書いてありました。
他にもAgRP発現ニューロンHdac6阻害による肥満治療、シンポジウム「最新研究で明らかになった環境と代謝との知られざる接点」「インクレチン:何がわかっていて、何がわかっていないのか?」「臓器間ネットワークによる代謝制御」と脳に関連する話題は大変豊富でした。
(1)より代表的な図を引用します。
内外様々な講演で引用されるDeFronzo先生の2008年Banting Lecture(4)中「2型糖尿病病因Ominous Octret:不吉な八重唱」(今年の学会では副腎を加えたNoxious Nine:有害な9にするとも聞きました)によると膵β細胞・筋・肝・脂肪細胞・胃腸組織・膵α細胞・腎についで最後に登場した脳ですが「おそらく最も重要」と書かれています。
参考文献
- Mirzadeh Zら: Brain Defense of Glycemia in Health and Diabetes健常と糖尿病における血糖の脳防御.Diabetes 73:1952-1966, December 2024
- Gutgessel RM、Timo Müllerら:2重、3重インクレチンベースの共アゴニスト:肥満と糖尿病のための新しい治療法. Diabetes Ther 15:1069-1084, April4 2024
- 新谷 隆史:体重を一定に保つ分子機構と肥満レプチンによる摂食制御とレプチン抵抗性. Kagaku to Seibutsu 56(11):725-731, 2018
- DeFronzo RA:Banting Lecture; From the Triumvirate to the Ominous Octet三頭政治から不吉な八重奏まで:2型糖尿病治療のための新しいパラダイム. Diabetes 58: 773-795, April 2009
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