今月の糖尿病ニュース

2024年11月の糖尿病ニュース

身体活動・運動と1型糖尿病;その2:個別化?

おおはしクリニック 2016年11月、このコーナーで学会ポジションステートメントから1型糖尿病を持つ人(PW1D)の運動療法について書きました。以下抜粋です。

身体活動とスポーツについて;
血糖コントロールに適した運動の種類、タイミング、強度、長さに関しては十分なデータがない。

身体活動時における食事とインスリンの調節;
空腹時など基礎インスリン下状態では30~60分の運動時は炭水化物10~15g、食後など追加インスリン併存下では1時間あたり炭水化物30~60g補給が必要。追加インスリンを減量する場合、注射後90分以内に開始する運動30分間なら運動強度に応じ25~75%(軽~強)、60分間なら50~75%(軽~中)。基礎インスリンを減量するなら20%の減量。
CGM(持続血糖測定)/CSII(持続皮下インスリン注入)と運動; CSIIは運動中基礎インスリン注入速度調節が可能。しかしインスリン吸収が早まる可能性があり、またコンタクトスポーツには向かない。CGMは低血糖回避に有用だが血糖変動の時間差などが問題になり普通の指先穿刺法を併用する必要。

おおはしクリニック 今月はDiabetologia 誌に新しい研究情報(1)を見つけ前回から8年経っているので調べてみました。研究の概要です。
年令19~66才、A1c5.6~9.2%、BMI18.6~43.0、最大酸素摂取量16.2~50.8、朝食/インスリン比0.6~5.0U/炭水化物10gのPW1D40名(男24/女16)をインスリン製剤の違い(aspart vs超速効aspart)、運動開始時間の違い(食事開始後60分vs 120分)による4通りにブロックランダム化し最大酸素摂取量60%(中強度)のエルゴメーター運動を行い比較しました。朝食は炭水化物男性65/女性50g、脂質同18/16g、蛋白質25/25g カロリー530/460kcal、インスリンは通常量の50%を食事2分前に打ちました。血糖測定にCGMは使用されず10分ごとの採血が行われました。
結果は超速効aspartの方が運動中の血糖降下が少なく、60分後開始の方が運動前の血糖上昇が抑えられ運動中の血糖降下が少なく、両因子の相互作用はないというもので従来のガイドラインをインスリン種別、運動タイミング別に記述させるほどではないと考察しています。(私見ですがグラフにすると40人の血糖・血中インスリン平均値時間経過4群間差よりも個人差が大きく感じられました。)

運動の種類、強度、継続時間、食事の内容、性差、年齢、心肺機能、運動時間帯、運動開始時血糖値・トレンド等を加味するとすべてのPW1D にあてはまるガイドライン作成は今の所大変かもしれません。CGMのアラート機能の利用、ハイブリッドクローズドループ療法(HCL)の登場など着実に進歩していますが、まだ予期せぬ身体活動時などはHCLのアキレス鍵(2)だそうです。例えば(肉体)労働者が該当し、日常業務では重いものを持つこともあれば階段を登ることもあり、また作業時刻の急な変更もあり計画された運動より複雑な為です。
PW1Dから仕事中に低血糖起こさないように高血糖気味に調節するということを時々聞きますがテクノロジーの進歩を期待しつつ当面は一人一人きめ細かく対処が必要と思います。


おおはしクリニック

参考文献
  1. Molveau Jら: 1型糖尿病を持つ人(PW1D)の食後運動由来低血糖リスクに対するインスリンのタイプ(超速効vs速効)と運動タイミングの影響を評価する:ランダム化対照試験. Diabetologia 67: 2408-2419, November 2024
  2. Perkins BAら: 1型糖尿病の運動方策を単純化するためにテクノロジーを応用する. Diabetologia 67: 2045-2058, October 2024
2024年11月


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