2024年8月の糖尿病ニュース
胆汁酸代謝と腸内細菌
腸内細菌と健康の話題は「腸活」を筆頭にとてもポピュラーで、例えば食物繊維と短鎖脂肪酸(SCFA)の関係、ヨーグルトや発酵食品などによ
るプロバイオティクス療法などがよく知られています。今月のDiabetes誌巻頭言からです。
「腸内細菌叢(GM)と2型糖尿病との関連性は過去20年間で進化してきました。GMを構成する種が糖尿病患者とそうでない人で異なることを示唆する
十分なデータが浮かび上がってきました。しかし、明確に定義された微生物学的特徴は明確に特定されていません。さらにGMが人間の代謝にどの程度
影響するか、または影響を受けるかは不明のままです。そこで米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)が後援する3つの主要な糖尿病専門誌編
集者は2023年EASD年次総会で国際専門家フォーラムを開催しました。」(1) 内容は2024年9年Diabetes、Diabetes Care そしてDiabetologia誌
に同時掲載されました(2)。
SCFA、プロバイオティクスの他、便移植、腸管バリア、小腸内細菌叢研究課題、メンデルランダム化解析、全ゲノムメタゲノミクスのディープシーケ
ンシングなど身近な話題、重要項目、難解な項目多数ありましたが今回は省略して、本年米国糖尿病学会で印象に残ったGMと胆汁酸代謝関連2演題
(3)(4)の紹介と参考となる項目を抜粋してみました。その前に胆汁酸について文献(5)からです。
「胆汁酸と腸内細菌の関連性についての研究は歴史が古く,1960年代にはすでに主要な胆汁酸代謝が明らかにされていた。しかし近年の
解析技術の革新により、解像度が高い研究が行われるようになり、胆汁酸と腸内細菌 の新しい機能が次々に報告されている。宿主の胆汁
酸プールは腸内細菌の多様性や増殖を制御し、腸内細菌は胆汁酸を代謝することで宿主の生理機能へ影響を与えていることは確実である。
この意味で、胆汁酸はヒトと腸内細菌の間の複雑なクロストークの言語として機能していることが推察できる。」 (5)
「胆汁酸は元来,食事から腸管に流れ込む脂質を吸収するために腸管に分泌される消化液であるが、近年その抗菌作用から腸内フローラの組成を
改変する作用で、もう一つはホルモンのような機能である。」(5)
「肝臓で17種類の酵素によってコレステロールからケノデオキシコール酸(CDCA)やコール酸(CA)といった一次胆汁酸が生合成される。さらに
一次胆汁酸はグリシンもしくはタウリンに抱合された抱合型胆汁酸へ変換され胆嚢に蓄えられる。食事摂取に応答して胆汁酸は胆管から十二指腸へ
と分泌され,胆汁酸は腸管内で脂質をミセル化しリパーゼによる分解を受けやすくすることで,食事成分中の脂質や脂溶性ビタミンの吸収を促進する。
胆汁酸の約95%は小腸下部で再吸収され,残りの5%は腸内細菌の代謝を受けながら糞便へと排出される。腸内細菌の働きによって生産される胆汁酸
の種類は50種類以上存在する。腸内細菌による代表的な胆汁酸代謝には,脱抱合反応,脱水酸化反応,脱硫酸抱合反応および,酸化および還元反応
を含む異性化反応がある。」(5)
「宿主から分泌された抱合型胆汁酸はグリシン基もしくはタウリン基が脱抱合され一次胆汁酸に変換される。一次胆汁酸CAやCDCAは7位の水酸基の
脱水酸化により,それぞれデオキシコール酸(DCA),リトコール酸(LCA)といった二次胆汁酸へと変換される。また,CAやCDCAの7位の水酸基
が異性化されたウルソコール酸(UCA)やウルソデオキシコール酸(UDCA),DCAやLCAの3位の水酸基が異性化されたiso-DCAやiso-LCAへと変
換する。このような胆汁酸の代謝は,腸内細菌の酵素のみによって触媒され宿主の酵素では起こらないことから,腸内細菌に依存した代謝となる。」(5)
文献(3)より;インスリン抵抗性は肝胆汁酸輸送を緩慢にする
文献(4)より;ランダム化前向き研究において便中胆汁酸レベルは地中海食の効果(体脂肪・血中脂質)に関連していた。GMは二次性胆汁酸の主調節因子である。
以下文献(2)からです。
①胆汁酸:12α-ヒドロキシル化胆汁酸のレベルの増加と6α-ヒドロキシル化胆汁酸の濃度の減少はインスリン抵抗性に関連しており、2型糖尿病の人々
に起こる。胃バイパス手術後に6α-ヒドロキシル化胆汁酸濃度の上昇が観察され、2型糖尿病の寛解を予測できる。6α-ヒドロキシル化胆汁酸の循環レ
ベルは、腸内の特定のクロストリジウム種のレベルと共変動することがわかっている。肥満手術後に全身胆汁酸濃度の上昇とGLP-1の放出を刺激する
腸内シグナル伝達が実証されており、食後の増加が特に重要であることがわかった。しかし、胆嚢摘出術を受けた一部の個人では誇張された胆汁酸反応
が見られ、GLP-1およびインスリン反応のさらなる増加と関連している。2型糖尿病の人々では、メトホルミンはBacteroides fragilisの減少を通
じてグルコース代謝を改善することが示されており、これは腸内のグリコースソデオキシコール酸濃度の上昇とFXRの阻害に関連している。
②ダイエット、GM、糖尿病の関連
十分に管理された食事介入でもばらつきのある影響が観察され、GMの個人間変動性が高いことを考えると、GMの食事反応は高度に個別化されている。
精密または「個別化された」栄養学は、食事介入の設計に使用できる個人固有の反応予測特徴を特定することに基づく進化する分野である。GM組成に
関する個人データや、血液バイオマーカーや食生活などの他の情報を使用して、機械学習アプローチを適用して、標準化された食事に対する食後の血糖
反応を他の予測方法よりも高い精度で予測してきた。これらの研究により、GMの特定の組成がその宿主の特異的な応答に寄与することが明らかになった。
(つまり、食事に対する応答は異なる細菌の存在下で異なる)。したがって、GMは、少なくとも部分的には、人間の代謝の不均一性を決定する。GMは変
更可能で代謝活性が高いため、より正確なライフスタイル介入と新しい治療法の可能性を提供する。
③今後の課題
GMの変異と動態が2型糖尿病に及ぼす長期的な影響をよりよく理解するためには、前向き研究が重要である。
参考文献
- D'Alessio DA:腸内細菌叢と糖尿病:新たなトピックの明確さと新しいパートナーシップとジャーナル特集の紹介. Diabetes73: 1389-1390, September 2024
- Byndloss Mら:腸管細菌叢と糖尿病:研究、翻訳、臨床応用-2023Diabetes, Diabetes Care, Diabetotologiaエキスパートフォーラム. Diabetes73: 1391-1410, September 2024
- Haeusler R: インスリンシグナリングと胆汁酸トランスポートと代謝. 「Metabolite Transport and Molecular Metabolism」Sunday 23 June 2024, 第84回アメリカ糖尿病学会学術集会シンポジウム
- Gao P, Wang DD: 腸管細菌代謝と胆汁酸、地中海食と心代謝リスク:DIRECT-PLUS Trial. 「The New Frontier in Risk Profiling for Diabetes-Blood, Guts, Glory」Friday 21 June 2024, 第84回アメリカ糖尿病学会学術集会口演
- 田中優, 中山二郎:“胆汁酸”を介した腸内細菌と宿主のクロストーク胆汁酸が宿主と腸内細菌の関係を紐解く鍵になる. Kagaku to Seibutsu60(2):79-88, 2022
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