今月の糖尿病ニュース

2024年2月の糖尿病ニュース

慢性膵炎と糖尿病

おおはしクリニック 今月は慢性膵炎と糖尿病についてです。
慢性膵炎(CP)の最も一般的な合併症の1つは、CP関連糖尿病(CP-DM)の発症です。CPの成人の横断的分析では、CP-DMの有病率は一貫して30〜40%の範囲にあります。新規発症糖尿病の97%が2型糖尿病、1.1%が1型糖尿病、1.6%が膵臓疾患後糖尿病、その16%がCP-DMという報告があります(1)。
CP-DMは、2型糖尿病と比較してインスリン治療への進行が早く、重症低血糖リスク、心血管疾患リスク(MACE)、全死亡率を2型糖尿病単独と比較したデンマークの調査によると、重症低血糖リスクは5.27倍、MACEは1.01倍、全死亡率は1.54でした(3)。
2型糖尿病とCPはどちらも膵臓がんのリスク増加と関連しているが、両者合併例ではさらにリスクが高くなります。CP-DMでは、特に女性で、2型糖尿病と比較して全体的ながん死亡率が増加します。以上の背景からCP-DMの発症予防・診断について研究が行われています(1)。
最初の論文(1)はCP発症前(前DM)、CPと同時(DM)、CP発症後(後DM)に診断された糖尿病の特徴を縦断的に分析して、CP-DMの個別化医療に結び付ける試みについての報告です。
過体重/肥満・男性・非アルコール性の病因は三者全てのDMの有病率の増加と、ヒスパニック系・総胆管狭窄・膵外分泌機能不全(EPD)は前DMおよびDMと、急性膵炎合併症・膵萎縮はDMおよび後DMに関連していました。 年齢・その他の人種・糖尿病の家族歴は前DMのみと関連していました。黒人・膵臓手術・膵臓石灰化は、後DMにのみ関連していました。
注目すべきことに、EPDは前DMとDMに関連しており、これは2型糖尿病の病態生理学が外分泌の基盤を持っているか、糖尿病がEPDに寄与している可能性を示しています。
今後は臨床的特徴に遺伝子マーカーを追加することで予測能向上が期待されます。


おおはしクリニック もう一つは慢性膵炎のみならず膵癌(PDAC)なども含めた膵原性糖尿病(CP-DM、PDAC-DM)の診断法について述べた非常に興味ある報告です(2)。 上記のように慢性膵炎と糖尿病両者を持つ人が膵性糖尿病か2型糖尿病その他か鑑別することと共に、糖尿病で通院中血糖コントロールが急に悪化 した場合膵癌合併除外も日常臨床ではよく出会う問題です。膵ポリペプチド(PP)は膵内分泌細胞から出るホルモンでCPやPDACではインスリン、 グルカゴンと並んでPP分泌異常があることが報告されています。またPP投与により肝インスリン抵抗性が回復することも知られています。今回食事 負荷(Mixed Meal test)に対する膵臓ポリペプチド(PP)ホルモンレベルの反応の鈍化により膵原性DMと2型糖尿病を区別できるか既報の検証が 行われました(2018 年~2121年の大規模な多施設研究DETECT study)。食事負荷15分後のPPの倍数変化は、PDAC-DM(中央値、1.869)およ びCP-DM(1.813)群で2型糖尿病(3.283)に比し有意に低く、空腹時PP濃度、PP濃度の曲線下面積も、PDAC-DM群CP-DM群両方でT2DMよりも有 意に低い結果でした。CP-DM診断精度向上による低血糖対策、消化酵素治療推進に有用なだけでなく、PDACの早期発見一助になるか今後の展開が 期待されます。

参考文献
  1. Jeon Cら:慢性膵炎における臨床的糖尿病予測モデル開発. Diabetes Care 46: 46-55, January 2023
  2. Hart PAら:PP(Pancreatic Polypeptide)の減少は2型糖尿病に対して新規膵性糖尿病と関連がある. J Clin Endocrinol Metab 108: e120-e128, May 2023
  3. Olesen SSら: 膵炎後糖尿病と2型糖尿病における主要な心血管イベント、重度の低血糖、および全死因死亡率のリスク:全国的な人口ベースのコホート研究. Diabetes Care 45: 1326-1334, June 2022
2024年2月


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