今月の糖尿病ニュース

2024年1月の糖尿病ニュース

急性膵炎と糖尿病

おおはしクリニック 最近、急性膵炎既往があり糖尿病発症した症例、2型または1型糖尿病と一旦診断されてから慢性膵炎合併の判明した症例を経験し血糖コントロールが難しかったので、膵性(膵原性または3c型)糖尿病について最近の情報を集めてみました。今月は急性膵炎(AP)を、来月は慢性膵炎その他を中心にまとめてみます。


APの約80%は、入院期間が1週間未満の軽症です。AP発症後5年間の追跡中約40%に糖尿病を発症したという報告がありますが、 詳細な臨床経過は不明で「寛解」したものも含みます。以下急性膵炎の経過中または罹患後フォローアップ中発症した糖尿病を急性膵炎関連糖尿病;AP-DMと呼びます (糖尿病に急性膵炎を合併したものは含みません)。
AP-DMの発症には多くの要因が関連しています。最も強力な予測因子の1つは、特に壊死を伴う重症APです。ある研究によると重症AP 56%、軽症AP23%のAP-DM発症率でした。しかし非壊死性AP患者においても発症するのは以下の要因があることを示唆しています。

AP誘発性自己免疫;APにおける炎症反応は内因性β細胞蛋白質の翻訳後修飾をもたらす可能性(1型糖尿病でも修飾されたネオエピトープはβ細胞死の一因として認識されている)。
2型糖尿病とAPの共通危険因子;肥満と高TG血症
局所および全身の炎症反応
インスリン-インクレチン軸の変化;慢性膵炎にみられるような膵外分泌障害に伴うインクレチンホルモン分泌障害。慢性膵炎では膵酵素補充療法が有効。

今後の展望として上記動的評価が必要としています。


おおはしクリニック AP-DM管理はAP重症化予防など上記対策他、退院後6ヶ月、12ヶ月後、その後1年毎のDMスクリーンがあります。 AP-DMを2型糖尿病と比較した場合HbA1cは高く、発症5年後にインスリン治療を要する割合は20.9%対4.1%と高いという報告があります。 インスリン治療をしても高いのか、高いからインスリン治療者が多いのか判別できません。AP-DMに対しDPP4阻害剤投与がAPのリスクを高め るか定かでありません。GLP-1受容体作動薬のAP発症リスクはないと言われていますがAP既往者への投与は投与例が少なく確定していません。 膵癌リスクはAP既往者で高くなるがAP-DMではさらに高まるので注意が必要です。
現在NIDDKではAP患者の観察コホート研究によりAP-DMの発生率、病因、および病態生理を調べています(1)。


2022年6月29日30日NIHナッチャーカンファレンスセンター(メリーランド州ベセスダ)においてNIDDK主催のワークショップが開かれました。 膵臓は内分泌膵臓と外分泌膵臓の2つの機能区間で構成され生理学的相互依存性にも関わらず、それぞれの障害は専門領域が異なり(消化器科、 内分泌科、小児科など)集学的アプローチが不十分で、また基礎科学とトランスレーショナルリサーチが最小限の状態です。 そこで両者の統合とクロストークを探求し、膵臓の発達、構造、神経支配、血流、機能研究を促進する目的です(2)。
Diabetes誌1月号には上記研究に有望な方法論としてヒトの膵臓組織スライスが紹介されています(3)。


AP-DMの重症低血糖リスク、心血管疾患リスク(MACE)、全死亡率を2型糖尿病単独または急性膵炎単独と比較したデンマークの質の高いデータ ベースに基づいた調査によると、2型糖尿病との比較で重症低血糖リスクは2.95倍(インスリン治療者では2.67)、MACEは0.97(同0.98)倍、 全死亡率は1.18倍(同1.36)でした。急性膵炎単独と比較してMACEは1.33倍、全死亡率は1.37倍でした。AP-DMのMACE、全死亡率のリスク 増加は急性膵炎ではなく糖尿病の合併によるものと考えられました(4)。 (来月に続く)

おおはしクリニック

参考文献
  1. Hart PAら:急性膵炎後の糖尿病. Lancet Gastroenterol Hepatol 6(8): 668-675, August 2021
  2. Mastracci TLら: 膵臓疾患における外分泌および内分泌コンパートメントの統合生理学:ワークショップ議事録. Pancreas 51(9): 1061-1073, October 2022
  3. Cohrs CMら: ギャップを埋める:糖尿病の病因研究のための臓器および組織ドナーからの膵臓組織スライス. Diabetes 73: 11-22, January 2024
  4. Olesen SSら: 膵炎後糖尿病と2型糖尿病における主要な心血管イベント、重度の低血糖、および全死因死亡率のリスク:全国的な人口ベースのコホート研究. Diabetes Care 45: 1326-1334, June 2022
2024年1月


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