今月の糖尿病ニュース

2023年12月の糖尿病ニュース

ソリューションフォーカスアプローチ/インスリンクリアランス

おおはしクリニック 看護師長 音喜多です。
第28回糖尿病教育・看護学会学術集会が9月23、24日開催されWEB参加しました。
経済の低迷や不安定な国際情勢などで先が見えない上withコロナであり、変化に対応しながら「心と身体が元気になる療養支援を考えよう」というメインテーマです。
会長講演では「療養支援は糖尿病を持つ人(Person with Diabetes以下PWD)の役に立っているのか? 看護がなすべき事、それは最も良い状態にPWDをおく事である」とした上で、PWDの準備が整うまで待つこと、目標設定が大事でPWDの望みと支援がマッチするように関わることを説かれました。
一番強く心に残ったのはSolution Focused Approach:ソリューションフォーカス(ト)アプローチ(SFA)です。「人は肯定された時に変化の余裕を持つ」、1980年代に始まり「解」「決」から「快」「結」志向へと各種企業でも取り入れられているそうです。皆がハッピーになる会話、会話の中に「快」を増やし気持ちと行動を結びつける、既にある良い所を見つけてそれを活かす、相手への関心・称賛、教えてほしいと言う姿勢、良い事は大きく悪い事は小さく、また他の良い所を見つけて組み立てる方法です。ある講師はプラスの眼鏡で人を見ると早く良い変化が現れ、以前は20分も相談にかかっていたが5分で終わったと話していました。クリニックスタッフにも伝えると教えなきゃ、伝えなきゃと先走る言動を反省しやはり気持ち良くクリニックに来て頂き、気持ち良く帰っていただく事だねと皆納得です。
クリニック症例;1型糖尿病87歳女性インスリン4回打ち女性がいつも利用しているシャトルバスがタイミング悪く乗れず予定より30分以上遅れて徒歩で来院されました。血糖コントロールは二の次で歩いたことに話題を向けました。いつもは血糖が思うように下がらなかったり注射がうまく打てなかったりしょんぼりしがちだったのですが「こんなに歩けるなんて、足が丈夫やったらどこでも行けるよね」と満面の笑みで話され、私はAさんの歳まで生きていないと話すと「あと10年はここにいて」と逆に励まされ私もハッピーな気分になれ、もちろん本人も上々気分で帰られたようで本当に良かったです。


岡山市では2018年から認知行動療法とSFAを応用したSACCT(サクット)糖尿病プログラムが行われていることがシンポジウムで紹介されました。行動目標(望む未来)を自ら立てステップアップして行き医療関係者はこれを支援しますが快結(解決)志向アプローチを行うことが特徴です。
最近GFR13透析間近の患者さんが保健師さんと一緒に初診受診されました。学会で「透析になったら人生終わりだ」ではなく、透析は避けたいが「透析したから最後ではない、希望を見出し現実逃避にならないように」と気持ちが向くような関わり方は聞いていたのですが会話が進むにつれ禁煙治療を自ら希望されたことはよい意味で驚きでした。しかし残念ながら医療費の問題で通院が途切れてしまいました。
先日「初めての糖尿病医療学―糖尿病を持つ人と医療者をつなぐ絆」という講演があり叱らない、怒らない、納得するまで聴き4時間もかかった症例が提示されました。
極端な例かもしれませんが患者さんは変わる、患者さんの中に答えがあるということでしょう。今後も信頼関係を築きながら学会テーマである心と身体が元気になる、笑顔とはいかないまでも沈んだ表情にさせない療養支援をしていきたいと思います。


おおはしクリニック ここからパート2です。
インスリン抵抗性が増すと正常血糖を維持するためインスリン作用不足を補うよう代償的に血中インスリン反応が増加します。このインスリン反応は二つの要因からなり、インスリン分泌およびインスリンの代謝除去速度MCRI (≒インスリンクリアランスIC)です。正常耐糖能者では、肝臓が血漿インスリン濃度の生理学的範囲全体にわたってICの主要な部位とわかっています。肝臓によるICはインスリンが肝インスリン受容体に結合し、その後エンドサイトーシスとそれに続く細胞内分解が関与します。インスリン抵抗性状態におけるインスリンクリアランスの低下は、全身肥満、特に内臓肥満、糖尿病、肝脂肪含有量の増加、血漿遊離脂肪酸、およびインスリン抵抗性自体に関連しています。
これは論文(1)からの抜粋ですが最古で1969年、主として1980年代以降の知見が引用されています。今話題になっている若年2型糖尿病のIC低下などは1992年日本から既に報告(2)されており研究の歴史は長いのですが近年注目を集めているそうです(3)。
(1)では(欧米)2型糖尿病患者のほとんどは肥満で、中等度から重度の肝臓および末梢インスリンを呈し、肝脂肪が増加しているため肥満者、非肥満者をそれぞれ正常耐糖能、IGT(境界型糖尿病)、糖尿病の計6群に分類しクランプ法、糖負荷試験によりIC(MCRI)を評価した結果、肥満者がインスリン抵抗性となる際ICは正常血糖を維持するため代償的に減少するが、2型糖尿病者ではそれが損なわれていることがわかりました。
今月Diabetes Care誌にはGDS(ドイツ糖尿病研究)から同様の検討結果が報告されました(4)。診断されて1年以内の1型2型糖尿病および対照各数百名にクランプ法、経静脈糖負荷、食事負荷によるIC計測、1H-MRSによる肝脂肪量定量試験を行った大規模なもので1型2型の違い、インスリン感受性、血糖コントロール、脂肪肝との関係が検討されました。ICは両糖尿病で減少しましたが各糖尿病型において脂肪肝、インスリン感受性、血糖コントロールにより違いがみられました。日本からのIC報告(5)(6)はこれらと相違点があり人種差、遺伝的差異等が想定されています。
Diabetes誌にも今月IC関連の論文(7)があり、「インスリン感受性に関してインスリン受容体(IR)エンドサイトーシスの生理的役割は依然不明な点がある。IRとMAD2相互作用を阻害するとIRエンドサイトーシスが遅れインスリンシグナルが遅延する。IR-MAD2はICと糖代謝をコントロールする。IR-MAD2はエネルギー恒常性を維持する」と分子生物学的な研究も興味深いです

参考文献
  1. Gastaldelli A, Muhammad Abdul Ghani, DeFronzo RA:代謝要求に対するインスリンクリアランスの適合は耐糖能を決める鍵である.Diabetes 70: 377-385,February 2021
  2. Tsunoda M, Teshirogi Tら:肥満および糖尿病小児(7~11才)および青年(12~16才)におけるインスリン分泌とクリアランス 経口糖負荷試験による研究. Nihon Ika Daigaku Zasshi 59(1): 9-20, February 1992
  3. Ghadieh HEら:インスリン作用と代謝疾患におけるインスリンクリアランスの役割.Int.J.Mol.Sci 24: 7156, 2023
  4. Oana-Patricia Zahariaら:発症早期の2型および1型糖尿病における肝脂肪含有量増加と血糖コントロール悪化に対するインスリンクリアランス減少は異なる関係性がある.Diabetes Care 46: 2232-2239, December 2023
  5. Watada Hら:インスリン抵抗性の結果というより原因としてのインスリンクリアランス.J Diabetes Investig 8: 723-725, 201
  6. Sugiyama Sら:インスリンクリアランスの増加した2型糖尿病同定可能性.NEJM Evid 1(4), 2022
  7. Park Jら:MAD2依存性インスリン受容体エンドサイトーシスが代謝ホメオスタシスを調整する.Diabetes 72: 1781-1794, December 2023
2023年12月


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