今月の糖尿病ニュース

2023年11月の糖尿病ニュース

サプリメントの臨床試験

おおはしクリニック コーヒー、お酒、人口甘味料などが糖尿病に良いか悪いかしばしば質問を受けます。しかし残念ながら一概には言えないようです。例えばコーヒーは2型糖尿病予防効果があるという報告が多い反面、2型糖尿病の人がコーヒー一杯分に相当するカフェインを摂ると持続血糖モニター上血糖値が上がったという短報(1)もあります。お酒については今月発表された総説・用量反応関係メタアナリシス(2)によると従来言われているJ型(少量は適、多量は非)の2型糖尿病防御効果は男女差(女性に有利)、BMI(高い方に有利)による違いがあるかもしれないということでした。しかし女性ではお酒をのまない人は甘いものが好きなのでは?男性ではお酒は何かの替わりでなく追加で飲むのでは?(2)という解釈もあり、またBMIの高い女性にはお酒のメリットが多いからといって新たに勧めるのは間違いで、(BMI高値も2型糖尿病のリスクのため)体重減量を勧めるのが本筋だと述べています(2)。

人口甘味料についてはアメリカ糖尿病学会(ADA)が「標準治療(Standards of Care)」上、脂質などからのカロリー摂取が増えなければ砂糖の替わりに使うことにより炭水化物からのカロリー摂取減少に寄与するかもしれない、水の替わりに人口甘味料の入った飲料水をのむのは実用的な代替手段と(比較的信頼度の高い)エビデンスBレベルで記載していますが、摂取全食品を念入りに調べたフランスの前向きコホート研究(2009~2022年、105588人)(3)においては人工甘味料アスパラテーム(パルスイート)、アセスルファムカリウム、スクラロース(シュガーカット)別に2型糖尿病発症リスクを調べたところリスク増大可能性ありでした。引用されている2022年WHOより刊行された系統的総説とメタアナリシス「Health effects of the use of non-sugar sweeteners」も見てみると、信頼性が一般的に高いランダム化比較試験(以下RCT)で2型糖尿病発症リスクを調べたものは無い(倫理的に出来なかったのだろうと(3)著者)ためHbA1c、空腹時血糖への影響でみる限りリスク増大無しの結果でした。前向きコホート研究では概ねリスク増大を示していますが逆の因果関係がないか交絡因子補正、感度解析(糖尿病になりやすい肥満者は人口甘味料をよくとるのではないか?など)がポイントのようです。現時点では糖尿病または肥満予防に人工甘味料を使うのは疑問としても、すでに糖尿病になっている人が血糖コントロール補助に用いることを否定するデータは無さそうです。

おおはしクリニック サプリメントは錠剤などの形態から被検者の負担が少なく、食品と違ってRCTは比較的簡単そうですが、実際は費用負担などから?大規模で長期間の臨床アウトカム(疾患発症率など)を指標にしたものは少なく(バイオマーカーを指標にしたものが多く)(4)、薬剤に比べると適否判断が難しくモヤモヤ感がありました(愛知県薬剤師会ウェブサイト(apha.jp)「健康食品の問題点」に類似記事がありました)。


そんな中2型糖尿病リスクに対してココアエキス(Cocoa Extrrct:1日エピカテキン80mgを含むフラバノール500mg) サプリメントのマルチビタミンを組み合わせた二重盲検2×2要因RCT結果が発表されました(4)。 この試験の意義を調べるため日本のサプリメント臨床試験の現状を調べようとネット検索すると厚生 労働省統合医療に係る情報発信等推進事業eJIM(ejim.ncgg.go.jp)サイトが見つかりました。 国内の試験が進んでいないことが伺われ、米国では国立衛生研究所(NIH)、国立補完統合衛生センター (NCCIH)、国立がん研究所(NCI)が多く情報を発信していることがわかりました。COSMOS(4)試験 (cosmostrial.orgも参照)はBrigham and Women’s HospitalとFred Hutchinson Cancer Research Centerにおいてココアエキス、マルチビタミンが心疾患、脳卒中、癌を減らすか? また認知機能低下・老化を遅らせるか?を主要アウトカムに行われた21442人の健康男女(平均年齢 72才)をリクルート、平均3.6年フォローしたRCTです。結果ココアエキスは10%総心血管イベント を減らしました。統計的に有意でないものの良い傾向は見られ追試が検討されています。 癌には無効でした。マルチビタミンは心血管イベント、癌を減らしませんでした。 2型糖尿病リスクへの解析は総被検者のうち最初から2型糖尿病のあった3061名を除外して行われた 副次アウトカムですがココアエキスによる減少は見られませんでした。 前向きコホート研究では有望な所見もあり、作用機序も内皮機能改善、抗酸化、抗炎症、 インスリン抵抗性改善作用が報告されているのでなぜ陰性だったか考察されており、 より若い人がより長期間に内服してみたらどうか?タバコを吸う人などやや「不健康な」 人に対してはどうか?などが挙げられています。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Lane DLら:コーヒーを飲む2型糖尿病においてカフェインは外来日常血糖と食後反応を増加する. Diabetes Care 31: 221-222, February 2008
  2. Llamosas-Falcon Lら: アルコール消費、BMIと2型糖尿病間の関係: 系統的総説と容量反応メタアナリシス. Diabetes Care 46: 2076-2083, November 2023
  3. Debras Cら: NutriNet-Santé前向きコホート研究における人工甘味料と2型糖尿病リスク. Diabetes Care 46: 1681-1690, September 2023
  4. Li Jら: ココアエキスサプリメントと糖尿病リスク:ココアサプリメントとマルチビタミンアウトカム研究(COSMOS)ランダム化臨床試験. Diabetes Care: online ahead of print, October 10 2023
2023年11月


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