今月の糖尿病ニュース

2023年10月の糖尿病ニュース

チルゼパチド(マンジャロ)の話題;EASD2023より

おおはしクリニック 第59回ヨーロッパ糖尿病学会(バーチャルEASD2023)にウェブ参加しました。チルゼパチドTirzepatide(GIP/GLP-1受容体作動薬、®マンジャロ、以下TZP)の話題が豊富で学会誌Diabetologiaの特別号「代謝疾患におけるインクレチン;病態生理と治療」も同時に刊行されました。

開幕早々、論文と同時にSURPASS-6試験結果が発表されました。平均年齢59才、糖尿病罹病期間14年、HbA1c 8.8%、BMI 33 kg/m2、インスリングラルギン1日46単位と経口血糖降下剤2種類以下治療中、計1428名に対してTZP5、10、15mg、またはインスリンリスプロ食前投与によるインスリン強化療法を無作為に割り当て(経口剤はメトホルミン以外中止)52 週後にHbA1c、体重変化などが比較されました(Cペプチド情報未確認)。結果の詳細は(今後必ず企業、学会などから正確に吟味して報告されると思う為)省略しますがTZPの効果を改めて認識させられました。GLP-1受容体作動薬とインスリンの併用・使い分け等については学会標準治療やアルゴリズムでも指針が示され、論文・学会報告も多数出ていますが、インスリン強化療法適応者が今後どれぐらい減るか、日本人ではどうか注目されます。

以下2演題は一般演題?(SO:短時間口演)からですが身近な話題のため紹介します。
SURPASS 試験2-5の事後解析として抗GAD抗体陽性(≥5 IU/mL)2型糖尿病120名(全体の3.2%)と陰性者の比較が報告されました(R.Buzzetti、AL.Petersら)。1型糖尿病はSURPASS 試験では除外されていますがLADAは1型か2型か明確に分類されていないため被検者適格になったものと思われます。TZP開始前のCペプチドは0.3nmol/l(≒0.9ng/ml)>、0.3~0.7、0.7<に分類しました。結果は抗GAD抗体陽性陰性に関係なくTZPは有効だったという結果でした。Cペプチドレベルでの差もありませんでした。質疑応答ではCペプチド経過(β細胞保護効果)について質問が出ましたが経過中データ収集がうまく行かず今後の検討とのことでした。またCペプチド低値者は1型が含まれていないか、だとすればなぜ有効かという質問に演者はインスリン感受性改善効果を可能性の一つに挙げていました。肥満を伴う糖尿病で高Cペプチド血症かつ抗GAD抗体陽性者に対してTZP処方を考えたことがあり参考になりました。
各SURPASS 試験には2型糖尿病発症年齢が40才未満の被検者がいずれにも20%前後含まれていて、治療抵抗性でインスリン分泌低下、合併症も進みやすいことが知られているこの層について40才以降発症者と比較する事後解析が行われました。結果、HbA1c、体重のみならず腹囲、収縮期血圧、中性脂肪、HDLにも両者には差なくTZPの効果が認められました。人種差もないだろうと質疑応答がありました。インスリン分泌(β細胞保護)効果については今回検討できませんでした。

おおはしクリニック 特別講演のひとつMinkowski LectureはTZP誕生の経緯と作用機序についてドイツのTimo Mueller先生がわかりやすく解説しました。今年のアメリカ糖尿病学会Bantingメダル(肥満の克服-マルチ受容体薬の発見)受賞者Mathias Tschöp先生と一緒に仕事をされたようです(以下要約ですが参考程度に)。「エネルギー代謝は腸管脳軸に規定されている。多数の腸管ホルモン相互作用を通して脳へエネルギー状況を報告する。よって治療も多数の主要シグナルメカニズムを標的にする必要がある。」が根幹の考え方で、レプチン反応性がFGF21(エネルギー消費増進)EX4(エネルギー摂取減量)併用で回復すること、EX4とカロリー制限は同じように体重をさげるがレプチン反応性はEX4群のみで回復するというマウスの実験を例に挙げられました
2013年単一分子GIP・GLP-1両受容体作動薬TZPが誕生後はその体重減少作用が驚きでなぜGLP-1 受容体単独作動薬より強力か、GIPの役割はなにか研究が進められ今回のEASDでも多数の熱い議論の的になっているそうです。GIPについて講演で述べられたのは中枢神経GIP受容体シグナルを介して体重と食事摂取を下げる、食事回数は変えず食事量を減らす、脂肪酸酸化を増加させる(エネルギー吸収を抑制する?)、ヒトGIPのマウスGIP受容体活性化力は10分の1でTZPではさらに弱く75分の1なのでTZPの実験はマウスではできない(2021年GLP-受容体ノックアウトマウスにTZPを投与しても体重はさがらないと報告があってからわかり今年論文報告されたとのこと)、TZPはマウスではGLP-1受容体を介して、ヒト膵島ではGIP受容体を介してインスリン分泌を刺激する、などです。最後になぜGIP単独ではなくGIP・GLP-1コ・アゴニストが重要なのか?近日中論文になるという新データを交えて説明され(難解でしたが)脳内cFos神経活性化部位がGLP-1(菱脳と孤束核)とGIP(菱脳のみ。抑制性GABA作動性ニューロンを介す)で異なること、GLP-1製剤を使用すると受容体がインターナリゼーション(活性化の衰退機構?)を起こすがTZPでは起きないことなどが述べられました。

おおはしクリニック 以上まだ多くの合併症アウトカム試験は進行中結果未判明ですが、これまで治療に難渋し合併症が心配された症例にも光が見えてきたようです。社会的にも医療費削減につながるかもしれません。朝日新聞10月18日朝刊にも出ていましたが供給体制問題の早期解決が望まれます。

2023年10月


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