今月の糖尿病ニュース

2023年8月の糖尿病ニュース

糖尿病と骨粗鬆症

おおはしクリニック 今月は骨粗鬆症、特に糖尿病との関係についてまとめる機会があったのでニュースというよりメモと気づいたことを中心に書いてみます。日本骨粗鬆症学会のホームページをみると「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」が7月7日付けで公開されていましたが「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」(以下G)は2015年版でした。アメリカ糖尿病学会他外国からの文献も一応検索しましたが糖尿病による骨代謝障害について論文は多くなく、2022年に刊行された内科学会雑誌の特集記事(1)をもとに調べました。以下抜粋です。

骨粗鬆症の概念;①骨強度の低下を特徴とし、骨折リスクが増大する骨格疾患②骨強度の70%は骨密度、30%は骨質(加齢閉経以外が原因の続発性骨粗鬆症では比率様々)③骨質は骨構造、骨代謝回転、微細損傷の集積および骨組織の石灰化等により規定

1型糖尿病では骨密度が低下するがそれ以上に骨折リスクが高く、肥満を伴う2型糖尿病では骨密度はむしろ増加しているが有意に骨折率が高い 骨折リスクは糖尿病全体では1.32倍、大腿骨近位部で1.77倍(1型糖尿病4.35倍 2型糖尿病1.27倍)
HbA1c1%上昇で約8%の骨折リスク増
糖尿病における骨脆弱性のメカニズムはインスリン抵抗性、酸化ストレス、炎症、AGE蓄積、血流障害からの骨代謝回転低下、皮質骨多孔性増加、海綿骨微細構造変化、1型コラーゲン線維の強度低下 臨床的には高解像末梢定量CT(HR-pQCT)、血中尿中ペントシジン増加、骨代謝マーカー低下、DXAデータから計算されるTBS(海綿骨スコア 保険認可待ち)で示される

ガイドラインの変遷;2012年脆弱性骨折有無が骨粗鬆症診断基準に FRAXはWHOが開発した骨折リスク評価Toolでそれにより10年間の骨粗鬆症性骨折確率が15%以上になると薬剤治療が勧められる G2006年版からその考え方が、G2011年版からそのものが取り入れられている ただし75才以上の女性ではすべて15%以上になる FRAXにおける評価項目の一つに続発性骨粗鬆症があり原因疾患として関節リューマチ(骨密度と独立して骨折リスク増大)、1型糖尿病(骨密度を介して骨折リスク増大)等が含まれるが2型糖尿病・CKD・COPDのリスクはまだ考慮されていない しかしG2011年版には生活習慣病関連骨粗鬆症という項目新設され2型糖尿病の影響が記載され、G2015年版ではさらに具体的に言及されている ただ骨強度の定量が確立していないためFRAX評価に「相対的骨折リスクを乗じる」という記載に留まっている。また2019年には「生活習慣病骨折リスクに関する診療ガイド」が刊行されYAM70%以上80%未満の2型糖尿病で罹病歴10年以上、HbA1c7.5%以上、インスリン使用、閉経後女性チアゾリジン使用、喫煙、重症低血糖が危惧される薬剤使用、転倒リスクが高い場合薬剤治療開始するという試案が出されている

おおはしクリニック 以上をもとに糖尿病と骨粗鬆症について最近の文献をさがしてみました。総説(2)では高血糖が骨髄間葉系幹細胞(BMSC)の移動(migration)・増殖・骨芽細胞への分化を抑制し、BMSCの老化・アポトーシス・脂肪細胞への分化を促進すること、骨芽細胞への分化にはWnt・Akt・MAPK・BMP経路が、脂肪細胞への分化にはPPARγ経路があることが示されています。
(3)は2018年の文献ですが、インスリンで促進されるNO/cGMP/PKG経路をNO非依存性に活性化するシナシグアト(Cinaciguat)が1型糖尿病マウスの骨形成を促進したと報告しています。総説(4)では鉄代謝とフェロトーシスが糖尿病による骨粗鬆症に関与し治療の糸口になる可能性を論じています。

サルコペニアと骨粗鬆症は加齢に伴う性ホルモンの低下、蛋白同化ホルモンの低下、ビタミンD不足、力学的負荷の減少等共通する要因が多くあることから、両者は密接に関連していて骨密度が低いほどサルコペニア合併が多いというデータもあるようです(1)。
大腿骨近位部骨折1年後の骨粗鬆症治療率は19%(1)ということで予想外に低く驚きます。骨粗鬆症リエゾンサービスと多職種連携(1)というトピックスもあり高齢化社会の進む今後において骨粗鬆症予防治療の充実が注目されますが、もし骨折の予防のみならずサルコペニア改善にも繋がるとなおさらです。

おおはしクリニック

参考文献
  1. 鈴木 敦詞ら:慢性疾患としての骨粗鬆症-内科的管理の重要性-. 日本内科学会雑誌 111(4): 721-794, 2022年4月10日
  2. Luo Mら:高血糖下における骨髄間葉系幹細胞の骨形成. Front.Endocrinol.14:1150068, 21 June, 2023
  3. Kalyanaraman Hら:プロテインキナーゼG活性化が酸化ストレスを覆し1型糖尿病オスマウスの骨芽細胞機能を回復させる. Diabetes 67: 607-623, April, 2018
  4. Bao Jら:糖尿病性骨喪失における鉄代謝とフェロトーシス:メカニズムから治療へ. Front.Nutr.10:1178573, 05 May, 2023
2023年8月


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