今月の糖尿病ニュース

2023年7月の糖尿病ニュース

β細胞・腎保護、血糖コントロールと生活の質

おおはしクリニック 先月行われたアメリカ糖尿病学会(ADA)感想続編です。DeFronzo先生とNathan先生のディベートセッションは2型糖尿病治療初期から多剤併用すべきかどうか基本的ながら奥深い内容でした。DeFronzo先生のOMINOUS OCTET(高血糖8つの原因)はとても有名で(先生いわく「ここにいる参加者は1000回以上目にしているのでは」)当初(2000年以前)は膵インスリン分泌減少、肝糖産生亢進、筋糖取り込み減少(Triumvirate“三頭政治”)でしたが脂肪分解亢進、インクレチン作用不全、グルカゴン分泌亢進、(脳)神経伝達作用不全、(腎)糖再吸収亢進が加わり2008年ADA Banting Lecture時点には今の形になっていました。OMINOUS OCTETに沿った病態生理に見合った治療を行うためには多剤併用が必須(Nathan 先生は経済的問題、臨床試験不足、医療個別化の観点などから反対意見)ということですが、メトホルミンは決してインスリン抵抗性改善剤(insulin sensitizer)ではないと念を押されたことが印象的で「まずメトホルミン投与し様子を見て」ということへの警鐘と受け止めました。日本人2型糖尿病の場合でもアルゴリズム上インスリン抵抗性を主とする場合には考慮すべきと思われます。

おおはしクリニック 若年(20才以下発症)2型糖尿病について最近総説(1)が出ました。小児期の罹病率は全人種では1型より少なめなもののアメリカ原住民(Indian)ではすでに1型より多く2017年時点で1.63(2型)対0.56(1型)であり、また2009年から2017年の罹病率年間パーセント変化は例えばアジア人で7.3対2.9と急増しています。全般的(インスリン分泌不全進行、細小血管合併症発症)に予後不良なことが問題で、腎症も同じぐらいの年齢、罹病期間、血糖コントロール1型糖尿病と比較して罹病率3倍、例えば罹病期間8年、22才では約20%と言われています(1)。以上の背景からViji Nair先生らは若年2型糖尿病高リスク者数十名を対象に腎生検を行い、予め毎年測定していたGFR値と対比させ過剰ろ過(HyperFiltration)ピーク期とピーク期2年以上前の検体を形態およびSingle cell RNAsequencing(ネフロンの遺伝子発現局在を調べる)で比較し、変化の大きかった内皮細胞とメサンギウム細胞間のシグナルを解析しました。早期段階での介入がユニークで早期診断治療を目指し研究は進行中です。また若年発症と成人発症2型糖尿病性腎臓病(DKD)の比較も行われ糸球体基底膜肥厚、メサンギウム領域拡大は前者で顕著でした。また別のグループは若年1型・2型・非糖尿病の腎生検から形態的分子的比較を行い1型2型の違いが提示されましたがまだ論文にはなっていません。現在2型DKD治療薬(フィネレノン)、GLP-1受容体作動薬の1型DKDへの臨床試験が行われつつあり、その点でも1型と2型DKD発症機序違い解明は重要だという発表もありました。

おおはしクリニック 長期血糖コントロールと合併症の関係に比べ短期血糖コントロールと日常生活パフォーマンスの関係を詳細に個別に調べた研究は少なく、今回持続血糖モニター、加速度計・ActiLifeを用いた身体活動評価、モバイル認知的タスク、EMA(スマホなど電子日記を用いて日常生活下での行動ログや自覚症状をリアルタイムに評価・記録を行う方法)を用いて166名の1型糖尿病被検者(平均年齢41、TIR53.75、CV38.05、TBR(70以下)4.69、TAR(250以上)17.18)の解析が行われました(2)。結果夜間CV増加による持続的注意と難しい作業の減少、TAR増加による座業増加、TBR増加による持続的注意の減少が認められました。CV増加による持続的注意減少は一部睡眠中断を介するものでした。影響の程度は例えば夜間TAR10%増加は2分の座業増加とわずかですが長期間続けば生活の質を落とす可能性は十分あります(2)。5月の日本糖尿病学会では先進デバイスを用いた血糖コントロールについて多数演題があり上記問題にも適合しそうですが、ADAでもそれ以上に話題豊富でした。基礎インスリン調節アプリ、残存インスリン・必要修正ドーズ表示スマートインスリンペン、Insulclockなど目白押しで便利な反面使いこなしが難しく、データ管理についてASK EXPERTセッションまでありました。しかしそれもビジーで(笑)新たな課題です。 ほか2週間あたりボーラスインスリン一回忘れるとTIRは1.6%減、ベーサルなら3.2%減という発表がありました。数値は被検者背景により異なるでしょうが今後このようなデバイスを駆使した研究も増える事でしょう。

参考文献
  1. Perng Wら:若年発症2型糖尿病:覚醒しつつある流行の疫学. Diabetes Care 46: 490-499, March 2023
  2. Pyatak EAら:成人1型糖尿病における夜間血糖の翌日機能へのインパクト:探索的集中縦断的研究. Diabetes Care 46: 1345-1353, July 2023
2023年7月


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