今月の糖尿病ニュース

2023年2月の糖尿病ニュース

運動の仕方

おおはしクリニック 第57回「糖尿病学の進歩」(学会)が今月ハイブリッド開催されました。「160kcalのおやつを我慢すれば160kcal分の運動はしなくてもよいか?」というと、運動はカロリー消費のみならず慢性効果があるので「そうではない」というお話が出てきました。慢性効果にはインスリン抵抗性改善のほかサルコペニア、認知症予防など最近話題ですが、膵β細胞保護効果と心房細動予防効果についても報告が続いています。
運動の膵β細胞保護作用は既に2018年、8週間中強度持久運動トレーニングした人の血清が膵β細胞(EndoC-βH1セルライン)をERストレス、アポトーシスから保護したという報告があります。今回46名(女性26男性20、平均年齢24才)をランダムに高強度インターバルトレーニング、適合短距離走インターバルトレーニング、高強度持続トレーニング、高強度機能的トレーニングに割り付け週3回8週間以上12週未満実施、被検者血清をTHAP(化学的ERストレッサー)添加EndoC-βH1セルラインに加えERストレス、アポトーシス促進遺伝子発現抑制につき上記4つの運動様式効果に差があるか検討されました(1)。結果として運動様式による差は認められず性別、年令、人種差もなく、1型2型糖尿病有無(別の被検者による実験)にも関係ありませんでした。運動後血清と同様の効果はエクサカインであるクラステリン添加でも再現されました。また効果は2ヶ月続きました。
運動のβ細胞保護効果は漫然とインスリン抵抗性改善による二次的な効果だと考えていたので、またインクレチンを介す(糖尿病ネットワーク)という話もあったので興味深い話です(運動の仕方に差はありませんでしたが)。

おおはしクリニック 心房細動は不整脈のひとつで動悸、めまいなどの症状を起こすのみならず脳梗塞の原因にもなり糖尿病外来でもしばしば新規発症にお目にかかる疾患です。
心房細動リスクと運動について国立循環器病センター広報活動ページによると2022年「日頃の階段の利用が多いと心房細動罹患リスクが低い」ということが吹田研究から明らかになりました。研究背景としてアスリートは非アスリートに比し5.29倍心房細動になりやすい一方、「推奨レベル」の身体活動を達成するとハザード比は0.94で(目安として週1900メッツ・分まではリスクが低くなる)であり、運動がよいのか悪いのかいまひとつわかりにくい為、実生活上わかりやすい指標として階段利用率を調べたということです。因みに階段を最も利用しない群に比し罹患リスクは約70%だったそうです。
今回それによく似た研究報告が韓国からありました(2)。NHISというデータベースをもとに2009~2012年に登録した2型糖尿病約180万人を2018年までフォローした結果で、運動習慣のある人(早歩きなど中等度運動を30分以上、またはランニングなど高強度運動20分以上を週1回以上、全体の9.1%)の心房細動ハザード比はない人(同65.1%)に対して0.91で、運動量目安は週1000メッツ・分以上のエネルギー消費量が提案されています。なお運動を始めた人(同13.4%)、止めた人(同12.4%)も含め検討しており中間の結果(ハザード比0.95~0.96)でした。運動習慣を続けている人は男性で糖尿病歴の長い人に多かったということです。

おおはしクリニック いつ運動するとよいか?昨年の日本糖尿病学会でも時間医学の講演があったと記憶していますが、今月もオランダ肥満疫学研究(NEOstudy)から新たな報告がありました(3)。加速度計と心拍モニターを955人(BMIをオランダ一般レベルに補正)の被検者に装着して身体活動内容、時間帯と座位行動パターンを分析しHOMA-IR(インスリン抵抗性の指標)と対比、うち206名にはMRスペクトロスコピーで肝脂肪量も計測しました。 主な身体活動時間が午後または夜間の人においてHOMA-IRが25%有意に低下しましたが、肝脂肪量への効果に差はなく、座位行動中断パターンによる差も見られませんでした。

運動療法は個別化医療の代表例である(テレビを見ている間立ち上がるだけでも立派な運動等)という意見がある一方、選択の余地がある人にとっては少しでも効率のよい運動方法を知りたいものです。ガイドライン上反映されるような知見集積が待たれます。

参考文献
  1. Coomans de Brachène Aら:1型および2型糖尿病においてβ細胞を保護する非薬物治療としての運動. Diabetologia 66: 450-460, February, 2023
  2. Park CSら:2型糖尿病における身体活動変化と心房細動発症リスク:1800万人対象国家規模長期追跡コホート研究. Diabetes Care 46: 434-440, February, 2023
  3. Velde J ら:身体活動の時間帯と肝脂肪量・インスリン抵抗性の関係. Diabetologia 66: 461-471, February, 2023
2023年2月


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