今月の糖尿病ニュース

2023年1月の糖尿病ニュース

1型糖尿病と心血管合併症(CVD)

おおはしクリニック 今年も日常診療に関連の深い糖尿病ニュースをピックアップして考えて行きます。どうぞよろしくお願い致します。
1型糖尿病(T1D)は全糖尿病中の割合が高所得国で5~15%、低~中所得国を合わせると2%といわれています(1)。
従って2型糖尿病(T2D)に比しデータが少なく、慢性合併症である動脈硬化性疾患の治療(脂質、血圧管理など含め)について調べても T1DとT2Dとひとくくりに書かれていることがほとんどです(2)。今回「T1DおよびT2Dにおける心血管アウトカム」(1)という総説を見つけ、疫学上両者の比較という点を中心に調べてみました。

2017年時点調査によると全世界約900万人のT1Dのうち約60%のTIDは40才以上でした(1)。日本、米国、フィンランド、イスラエルにて1965~1979年に18歳未満で1型糖尿病と診断された8137人を1994年まで追跡したDERI Mortality研究によると、日本人1型糖尿病患者でも、観察期間が長くなると心血管死の占める割合が増えることがわかっており(Morimoto A , Diabetologia 2013)、米国では罹病期間20年以上では心血管死が主たる死因(Secrest AM, Diabetes 2010)でした(3)。

T1DのCVDリスクにつき非糖尿病者と比較したメタアナリシス(Cai X, J Diabetes Complications 2021)によると虚血性心疾患全体の相対リスクは9.38、心筋梗塞では6.37でした。またスウェーデンのnational diabetes registryを基にしたコホート研究(Rawshani A, Circulation 2017)によるとA1c・血圧・LDLが目標範囲内かつ蛋白尿陰性、喫煙なしの場合急性心筋梗塞のハザード比は1.8(すべて逆の場合12.3)と年齢以外の背景因子により幅があることが示唆されています。
しかし最も印象的なデータは発症年齢によるCVDハザード比の違いです(Rawshani A, Lancet 2018)。10才未満発症のリスクが極端に高くCVD全体で非糖尿病とのハザード比は11.44、26~30才発症T1Dとのハザード比は11.44/3.85(約3倍)、急性心筋梗塞に至ってはそれぞれ30.95、30.95/5.77(約5.5倍)でした。罹患年数による補正は極力行ったということですが発症後からエントリー(平均23.75才)までの血糖コントロール状況が調べられていないので詳細は不明ですが、時代の違い(1980年頃発症の人も含まれている)から血糖コントロールに使用可能な資材が限られていたのでは?若いほど特に冠動脈では高血糖に対して脆弱なのでは?など推測考察されています(1)。なおT1Dにおいて厳格な血糖コントロールがCVDに有効なことはDCCT/EDIC研究でよく知られているのでここでは省略します。

おおはしクリニック CVDに関連するT1DとT2Dの比較は発症年令、糖尿病歴 調査時年令をそろえるのが難しく平均年齢T1D22.3才T2D58.2才を比較した論文も引用されている一方、発症時期を15~30才にそろえ、調査開始時糖尿病歴を14.7対11.6年に近づけ39~40才以降平均20年フォローした研究が代表例として紹介されています(Constantino MI, Diabetes Care 2013)。それによると2型糖尿病の方が大血管障害、アルブミン尿合併多く死亡のハザード比は2.0でした。血糖コントロールに差はありませんでしたがBMIはT1D25.6、T2D32.2でした。香港糖尿病レジストリーによる40才以下発症T2Dの検討ではBMI23より上か下かを基準にCVD発症率を検討したところ9.6対5.1でした(T1Dは平均年齢がT2Dより若く罹病歴が長いので、また症例が少ないので単純に比較できませんが0.6でした)(Luk AO, Diabetes Care 2014)。発症年齢が30才以降のT1D、T2Dの比較は大変少ないですが差はないようです。非西洋人のデータは十分ありません。

近年CVDの予後が特に糖尿病者で改善しています。1998~99年と2012~13年を比較したSwedenのデータではT1D40%、T2D20%非糖尿病に比し大きく改善しています。しかし若年発症T2Dにおいては不変~悪化傾向で憂慮されています。
以上より若年発症に注意が必要でT1Dでは早期からの血糖コントロール、T2Dでは肥満対策が重要とまとめています(1)。
一方糖尿病高齢発症者については、T1DT2Dともに糖尿病自体のCVDへの相対リスクが年齢に隠れて減少することから、(血糖を下げるため)栄養制限など過剰にしないことが重要ではないかと述べています(1)。
当クリニックでも小児科から内科に転科したT1D症例は特に注意するとともに、昨年改訂された動脈硬化性疾患予防ガイドラインを以上念頭に読んでみようと思いました。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Rosengren A, Dikaiou P:1型および2型糖尿病における心血管アウトカム. Diabetologia Published online: 14 January 2023
  2. 日本糖尿病学会:糖尿病合併症とその対策;動脈硬化性疾患. 糖尿病治療ガイド2022-2023: p91-93
  3. 片上直人、山崎義光:1型糖尿病における大血管障害. 2013年9月14日 H25年度糖尿病大血管障害研究報告会
2023年1月


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