今月の糖尿病ニュース

2022年12月の糖尿病ニュース

胃内容排出gastric emptyingと血糖の関係

おおはしクリニック消化吸収された糖は約半分肝に取りこまれた後残りの約四分の一ずつ脳と筋が、その他(全体の約20%)が脂肪組織、腎、心臓、赤血球、皮膚で処理されます(1)。 一方糖の供給源は内因性である肝、腎からの糖産生、外因性である食物由来です。食後血糖値は上記糖処理・供給のバランスで決まりますが、食事内容、食べる順番、胃内容排出gastric emptying(以下GE)速度、消化管からの吸収速度に左右され、なかでもGEは食後血糖ピーク値の最大35%を決める要因といわれています(2)。
GEの遅延、または糖尿病性胃不全麻痺diabetic gastroparesis(以下GP)は、過去長期間上腹部胃腸症状とリンクされていました。しかし単に胃のポンプ機能を改善する治療だけでは必ずしも症状は改善せず、胃腸症状がなくてもGE遅延は見られるとわかってきました(2)。GEは現在シンチグラフィー、安定同位体呼気試験等で測定されるようになり、GE遅延は罹病歴の長い1、2型糖尿病の30~50%に見られます(2)。
それに対して合併症のない2型糖尿病、合併症のない青少年1型糖尿病ではGEが促進されます。
GE速度は平均すると糖尿病有無に関わらず1~4kcal/分(4~17kJ/分)で、75gブドウ糖負荷試験の糖は1255kJなので、多くの人(11kJ/分未満)が2時間では胃が空になりません。
人種差があり中国系、メキシコ系、アメリカ原住民の2型糖尿病家系ではヨーロッパ系よりGEは速いと言われています。GEは胃のみならず小腸からの神経・ホルモンフィードバックにより調節されています。GE遅延には迷走神経異常が見られますが心血管反射試験(CVRR試験など)とGEの相関はあまりありません。

おおはしクリニック ときにGE遅延は食前打ちインスリン治療中食後低血糖、GE促進は食後高血糖の原因となりますがその際GE調節因子として血糖値、GLP-1が重要です。高血糖時GEは遅くなり低血糖時GEは速くなります。低血糖時GE加速は自律神経障害、胃不全麻痺(GP)でもおこります。 後述のGLP-1投与下でどうなるかは臨床的に重要ですが不明です(2)(3)。


おおはしクリニック内因性GLP-1は食物の腸管への到達または中枢を介して分泌されインスリン分泌を促進しGEを抑制します。GLP-1受容体作動薬(GLP1RA)はこの機序により血糖降下作用を発揮しますが、投与対象のGE特性、製剤特性(短時間作用型か持続作用型か)によって効果に差があります。短時間作用型の特徴はGE遅延効果で、長時間作用型はインスリン分泌グルカゴン抑制効果が主です(2)(3)。
短時間作用型GLP1RAのGE遅延効果はインスリン分泌効果を上回るため食後インスリン分泌はむしろ抑制されます。持続作用型GLP1RAはインスリン分泌を促進するもGE促進分を凌駕する食後血糖抑制までには及びにくいと言われています(2)(3)。 
短時間作用型GLP1RAの一つリキセナチドについてGE抑制効果とそれに伴うインスリン分泌減少、長期使用成績(連用により短時間作用型の特徴が失われないか)など報告が相次いでいます(4)(5)。
確かにリキセナチド製剤により朝食後血糖が下がる症例経験はあり、もしGEを測定できれば食後血糖降下作用と対比が興味深いところです。
今後GEに影響を与える可能性がある薬剤の臨床試験にGE測定を加えることも提案されています(2)。

参考文献
  1. Dimitriadis GDら:インスリン依存・非依存性機序による空腹時と食後糖代謝調節:総合的アプローチ. Nutrients 2021, 13, 159
  2. Jalleh RJら:糖尿病における正常および病的胃内容排出:病態生理、治療と血糖コントロールへの影響に関する最近の見識. Diabetologia 65: 1981-1993, December 2022
  3. Marathe CSら:胃内容排出、胃不全麻痺、機能性ディスペプシアの関係. Diabetes Care 36: 1396-1405, May 2013
  4. Rayner CKら:2型糖尿病におけるリキセナチド長期治療によるGE、食後血糖代謝に対する効果:ランダム化対照試験. Diabetes Care 43: 1813-1821, August 2020
  5. Kuwata Hら:日本人2型糖尿病におけるGLP-1受容体作動薬によるインスリン、グルカゴンおよびGEに対する効果:前向き観察研究. J Diabetes Investig 12: 2162-2171, December 2021
2022年12月


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