今月の糖尿病ニュース

2022年11月の糖尿病ニュース

精神疾患医療と糖尿病医療連携

おおはしクリニック今月は看護師長音喜多が担当します。第27回日本糖尿病教育・看護学会学術集会が9月17日(土)、18日(日)ハイブリッド開催されました。今回はシンポジウム5;精神疾患と糖尿病をあわせもつ患者のセルフケア支援―診療報酬に繋げるための看護実践の可視化―の聴講を契機に、精神疾患医療と糖尿病医療連携について糖尿病スタッフの立場で考えてみました。
精神疾患と糖尿病との関係は、例えば糖尿病があるとうつ症状の合併率は約30%(11%うつ病と診断、5.7%抗うつ薬内服)といわれ1型、2型によらず約2倍非糖尿病集団と比較して高いそうです(厚生労働省eヘルスネット)。また精神疾患があると糖尿病を合併しやすいことも知られています。向精神病薬の影響などもありますが、精神疾患そのものと糖尿病の関係もあるということです(1)。精神疾患の治療が糖尿病予防治療になればprecision medicineに繋がるというナラティブレビュー(総説)が最近ヨーロッパ糖尿病学会誌(2)に掲載されたのもその一例でしょう。
ならば糖尿病医療スタッフが内科的ケアのみならず、心のケアも専門的あるいは計画的に行えば糖尿病の予後がさらに向上しそうですが、現実問題として精神疾患治療薬の処方は専門医以外難しく、認知行動療法(CBT)は誰がどう運用するかなどの問題が立ちはだかります。

おおはしクリニックCBTのルーツは1950年代に遡り、1970~1990年代に様々な精神疾患の症状改善が確認され、現在精神療法の世界標準となっています(3)。 CBTの糖尿病を持つ人への有用性(うつ状態の改善に通常の糖尿病教育より優れる)は1998年Lustmanらの臨床研究で確立し、最近では運動の組み合わせ、電話・ウェブの利用などが検証されています(4)。日本でもCBTは2010年うつ病に対して保険診療の対象となり、2016年パニック症などに適応拡大、2018年神経性過食症も追加されていますが人的・時間的負担から普及は進んでいないそうです(3)。
2022年の診療報酬改定で療養生活継続支援加算が精神科患者の地域定着を目的として創設されましたが算定用件が厳しく精神保健福祉士、精神科認定看護師等の資格が必要で、例えば内科系では糖尿病認定看護師でも精神科系資格を取らない限り無理なようです。精神保健福祉士は国家資格で1997年に誕生、精神科専門病院内では期待が大きいという意見も聞きました。

おおはしクリニック 以上より現状では精神科、心療内科との連携が大切(6)と考えられますが、内科系スタッフに求められるのは患者さんとの信頼関係、精神科・心療内科系スタッフに望まれるのは糖尿病治療とその心理・社会的側面の知識(ADAはアメリカ精神学会と共同で研修プログラム実践中)と ありました(6)。今学会でも信頼関係を築く大切さ、「気にかけている人がいるんだよ」と思ってもらうことが第一歩であると強調されていました。精神科、心療内科への紹介は一般に敷居が高く信頼したスタッフの勧めが重要です(6)。通常の糖尿病教育を受けても糖尿病ディストレス(苦痛または心理的負担)が強くセルフケアができない人、スクリーン検査でうつ症状のある人、食行動異常のある人、低血糖不安・恐怖の強い人などがメンタルヘルスプロバイダー(精神科・心療内科系スタッフなど)に紹介すべきと(6)の表にまとめてあります。 最近このような状況で困っていたところ専門的精神的ケアを受けられ精神面のみならず糖尿病も改善した例を経験しました。認知行動療法について内科診療でも多いに活用できるという記事(5)もありました。スティグマ、アドボカシーに対する関心をはじめ糖尿病領域においても行動科学がより注目される気運を感じます。

参考文献
  1. 日本精神神経・糖尿病・肥満3学会合同監修:統合失調症に合併する肥満・糖尿病の予防ガイド. 2020年5月
  2. Kremers SHら:糖尿病領域プレシジョンメディシンにおける精神障害の役割. Diabetologia 65: 1895-1906, November 2022
  3. 中川敦夫:精神疾患診療:認知行動療法. 日本医師会雑誌151特別号(2);S110-114, 2022 年10月15日
  4. Mary de Groot :糖尿病における行動科学の50年:2020年から将来の展望. Diabetes Care 44: 633-640, March 2021
  5. 清水栄司:認知行動療法の最近の動向;薬物療法を超える「会話療法」とデジタル・セラピューティックスの話題. 日本内科学会誌111(11): 2311-2316, 2022年11月
  6. アメリカ糖尿病学会(ADA) Professional Practice Comimittee:健康転帰を改善する行動変化と健康を促進する:糖尿病標準治療2022年.Diabetes Care 45 Sup1: S70-S74, January 2022
2022年11月


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