今月の糖尿病ニュース

2022年10月の糖尿病ニュース

病棟での血糖管理

おおはしクリニック入院患者さんの血糖コントロールについて新たな論文(1)(2)が出たので既報とあわせ読んでみました。手術入院か否か、重症か軽症か、既存の糖尿病があるかないかにより目標値がかわり、手術の種類(大手術か小手術か、緊急手術か否かなど)によって異なりますが、空腹時100~140、食後160~200mg/dl を目安にする(3)というのが一般的です。

アメリカ糖尿病学会誌(4)には抜粋ですが以下のように書かれています。
血糖が140を越える場合HbA1cを測定し6.5%以上なら入院前から糖尿病があったと判定する。2009年に発表されたNICE SUGAR研究において、重症患者で目標血糖を80~110とした場合、140~180と比し有意な治療効果は認められず死亡率がわずかながらむしろ増加した。低血糖は10~15倍増加したことがその原因かもしれない。その結果血糖180以上が続く場合にインスリン治療を開始、140~180にすることが非重症者にも適用されている。
低血糖がなければ110~140も術後などにはよいかもしれない。一方血糖測定が十分できない環境では180~250も許容される。ターミナルでは250以上でもよいが脱水、多尿、電解質異常を起こさぬよう注意が必要である。院内CGMはFDAから認可されていないが、血糖改善、入院経過を改善する可能性がある。

おおはしクリニック (1)(2)共最終著者は同2011年RABBIT 2 Surgery研究(ベーサルボーラス法が単独スライディング法より血糖コントロール、院内合併症の点から好ましい)の筆頭著者ですが、病棟の血糖管理にまた一石を投じる研究です。
スライディングスケールによるインスリン調節は病棟での定番で、基礎インスリン、食事に必要なインスリンの他、毎食前と眠前に測定血糖値に応じてボーラス(通常超速効型)インスリンを追加します。補充(サプリメンタル)インスリンと呼び血糖値150~200から適用されることが経験的に多いと思いますが、基準を260以上(非強化群:N)に緩めたらどうなるか140以上(強化群:I)の場合と比較検討が行われました(1)。ちなみに既報から250以上になると院内合併症が増えると言われることを基に調整し260という数字を決定しました。

対象は非ICU入院時血糖140~400の計215名(黒人81%、平均BMI34.4、糖尿病歴12年、HbA1c9.1%、インスリン治療50%、薬剤治療なし25%、GLP-1製剤使用者7名 外科入院27% 内科入院73% 平均入院期間4日)をランダム化し既報プロトコールを用いインスリン投与歴のない人には入院時血糖によってインスリン投与総量を決め、スライディングスケールを3通り(インスリン「抵抗性」・「通常」、絶食者と低血糖のある人には「感受性」)から選択、一例として「通常」タイプの261~300のスケールは5単位でした。インスリン既治療者では日常使用量の80%で開始しました。POCTを用い目標血糖値70~140として既報に従って日々タイトレーション(責任インスリン調節)が行われました。解析は2日目以降の血糖、使用インスリン量を用いてN群のI群に対する非劣性試験として行われました。 結果です。第一アウトカムである平均血糖はN群173、I群172で非劣性、第二アウトカムである70~180に入る確率、低血糖(<70)、重症低血糖(<180)、著名な高血糖(>350)の確率、総・基礎・食事インスリン量に差はありませんでした。当然補充インスリン使用回数はN群で少なく(34% I群91%)、補充インスリン量に差はありませんでした(一日N群8±4、I群7±4単位)。
結論です。非ICU入院下平均血糖が中等度高血糖(260未満)で、最初にベーサルボーラス設定をしっかり行えば、スライディングスケールは非強化型でも有意な血糖コントロール悪化を招きませんでした。急性腎障害、感染など合併症にも差はありませんでした。

おおはしクリニック著者は今回の対象患者のような層では補正インスリンのスライディングより日々のタイトレーションを重視する立場です(マニュアル化し論文に添付されています)。従って病棟業務負担を減らすためには正確かつ簡便な(自動化された)タイトレーションシステムが前提とも思われます。

低血糖防止についてはリアルタイムCGMに期待がかかっています(2)。入院患者でCGMに基づく血糖コントロール調節は低血圧、低酸素血症などをもつ重症入院患者において正確性がまだ十分確認できていない為FDAなどから認可されていませんが、今回リアルタイムDexcomG6 CGMが血糖指標のみならずインスリン治療調節指標としても有効であること、POCと比較して有意な低血糖防止効果があることが示されました(2)。通信機器を使えば深夜病棟詰所に居ながら低血糖を感知できるので実用化が期待されます。ただ今回の臨床試験は対象が1型2型糖尿病混合なので2型での必要性はどの程度か知りたいところです。

参考文献
  1. Vellanki P, UmpierrezGEら:2型糖尿病入院患者ベーサルボーラスインスリン療法における補充インスリンの効果と安全性、強化法と非強化法の比較:ランダム化臨床試験. Diabetes Care 45: 2217-2223, October 2022
  2. Spanakis EK, UmpierrezGEら:持続血糖モニター(CGM)による糖尿病入院患者インスリン調節:ランダム化臨床試験. Diabetes Care 45: 2369-2375, October 2022
  3. 日本糖尿病学会:病態やライフステージに基づいた治療の実際. 糖尿病治療ガイド2022-2023年版: p135
  4. アメリカ糖尿病学会(ADA) Professional Practice Committee::院内糖尿病治療:糖尿病標準治療2022年.Diabetes Care 45 Sup1: S244-S253, January 2022
2022年10月


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