今月の糖尿病ニュース

2022年9月の糖尿病ニュース

糖尿病網膜症の疫学

おおはしクリニックよい血糖コントロールが糖尿病網膜症(DMR)の予後を改善することは、1990年台のUKPDS研究などで証明されています。今回新たにDMRについて1990年台と2010年台を比較したデータが発表され、著明な改善傾向を示すグラフが印象的だったので既報と合わせまとめてみました。

糖尿病患者のDMR有病率;35.4%(2)(2012年発表世界35報メタ解析 黄斑浮腫(ME)は7.5% 増殖性網膜症(PDR)は7.2% 視力障害(VI)11.7% アジアでは19.9% PDR1.5 % ME5.0% VI5.3%) 2000年以前49.6%、2000年以降24.8%(PDR3.5% ME5.5% VI7.9%)、  23.0%(舟形町研究2000~2002年)、16.9%→15.0%→10.3%(久山町研究1998→2007→2012年)、24.1%(単純性(SDR)16.5 前増殖性(PPDR)6.1% PDR1.4%)(3) (2015~2017年北海道単施設212例)。
JDCS(~2011 2型糖尿病1221名を8年間追跡)によるDMR発症率;3.83%/年 軽症から重症網膜症へ進行する頻度2.11%/年
2020年発表ヨーロッパDMR有病率(1);25.7%(1型糖尿病54.4% 2型糖尿病25.0%)

おおはしクリニック 以上からおよそ20年間でDMR有病率は約半分に減っていることがイメージされますが、長寿社会となり糖尿病患者数は増え詳細なデータが求められるため、今回VIを主指標としてフィンランド国家データベースを用いた大規模で長期間のデータ解析が行われました(1)。VIはWHOに準拠して5段階分類されています。なお2型糖尿病関連データはデータベースの関係から専門機関(special health care)への紹介例のみ登録されており解析データが過小評価になる可能性を断っています(登録されてないデータは軽症が多くVIは少ないと予測していますが)。
2019年末のフィンランド人口は552万5292人、VIは1980年~2019年58822人登録され、2490人が非増殖性網膜症(NPDR)によるVI、2026人がPDRによるVIでした。
1980年台女性ではNPDRによるVIがPDRによるVIより多く認められました。この40年間VIは軽症の比率が増え重症は減っていました。

おおはしクリニック発症率は糖尿病治療中10万人当たりNPDR合併者では1990年台年102.3人/年、2010年台5.5人/年、PDR合併者では同39.9から7.4でした。一般人口100万人当たりではNPDR22.8→3.0、PDR8.9→4.1でした。PPDR合併者では1996年、PDR合併者では2007年から発症率は減少に転じました。1990年台までは女性が多かったのですが以降性差はなくなりました。
有病率もPPDR+VIが糖尿病治療中集団で1996年から、一般人口で2000年から、PDR+VIが同1998年と2007年から減少しています。グラフから読み取れる概数では1986年糖尿病治療中10万人当たり230人ほどだったNPDRからのVIは1990年台550人ほどとなり2019年では60人ほどに、同様にPDR290→500→130人ほどになっています。
その他VI発症が高齢化していること(寿命が延びているのでVI罹病期間に著変なし)、VIの重症度が低下傾向にあることも述べられています。

何が貢献したかは検討されていませんが、糖尿病治療(薬)の進歩、眼科治療の進歩が推測されます。

参考文献
  1. Purola PKMら:(フィンランド)全国登録データに基づく1980~2019年の間 糖尿病網膜症による視力障害の変化. Diabetes Care 45: 2020-2027, September 2022
  2. 日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版). 日本眼科学会誌124: 955-981, December 2020
  3. 遠藤弘毅ら:糖尿病網膜症の有病率と危険因子の検討. 日本視機能看護学会誌4:1-4, 2019
2022年9月


>>糖尿病ニュースバックナンバーはこちらから

▲ ページ先頭へ