今月の糖尿病ニュース

2022年8月の糖尿病ニュース

スティグマと言葉遣い

おおはしクリニック今月は看護師長音喜多と院長大橋が担当します。
スティグマとは負の烙印と訳されていますが、例えば食べ過ぎるから糖尿病になるのだ、と多くの人が考えていれば糖尿病を持つ人はスティグマを持つことになり、恥ずかしく思ったり自己嫌悪に陥いたりして心の健康など二次的問題を引き起こし糖尿病自体の悪化と悪循環を形成することにもなりかねません。今回糖尿病連携手帳、自己管理ノートが改訂された際スティグマに配慮したとある講演会で聴いたので印象に残った点、その他気付いたことを挙げ当クリニック症例も提示します。

糖尿病連携手帳第4版では連携メンバーに市区町村、管理栄養士、かかりつけ薬剤師が新たに加わり、イラストも患者さんが「現代風かつ写実的」になっていて、「患者さんは輪の中心ではなくチームの一員であり、擁護される存在ではなく責任ある一人のチームメート」ということです(meinohama.futata-cl.jp 糖キングより)。
なぜか(説明聞きそびれたかもしれませんが)療養指導カードシステム関連のページが減っています。「療養」とは日常生活から切り離されることを意味する(1)、「指導」とは上下タテ関係を感じさせる(2)ので(連携なのでヨコの繋がり)、「支援」、「目標達成計画」(1)などに変更したほうがよいとも言われているので名前を変えて新登場するのでしょうか(勝手な想像です)。
合併症関連検査が合併症と併存症に分けられました。糖尿病のイメージを徒に悪くしない配慮と感じました。
自己管理ノート関連では医師とマール君(患者さん)の対面場面イラスト変更がなるほどと思いました。マール君が冷や汗をかいているのはびびっているような印象を与える、 医師が人差し指を上げているのは高圧的にみえる、ということで抹消されています。

おおはしクリニック 乖離的スティグマとは、糖尿病患者を模範的患者(=ステレオタイプ)のイメージから逸脱した状態とみて蔑むことに由来するもの(1)で、われわれ糖尿病医療スタッフへの戒めとしてハッとします。治療目標を個別に考え定期的に話し合い設定するのが一法です。例えば「血糖コントロール不良」は「治療目標未達成」になります(1)。
SDH(social determinants of health 健康の社会的決定要因)も同様です。社会経済的状態、近隣の生活環境、食環境、健康管理、社会関係などを指し健康格差の要因となります(1)。SDHを変えなければ生活習慣を変えるのは無理なこと、糖尿病には健康格差が関与していることを肝に銘ずる必要があります。
言葉遣いの大切さは随所に指摘があり、今一度スタッフ一人ひとり振り返るべきです。
相手への尊厳を持ち、否定や禁止の言葉は使わず具体例(週に1回80kcalのおやつ)、あるいはどれぐらいならできますか?と逆質問も有効です(「ましょう」はできるだけ避ける)。

おおはしクリニック以上参考に症例を考えてみます。
70才代男性 10年以上前検診で診断、現在網膜症なし、腎症2期、併存症整形外科・脳関連疾患あり。仕事熱心で会社を立上げ、人助けが好きな人ですが糖尿病は通院するも2~3年前まで通院も途切れがちHbA1cは9~10%が続き腎症も3期になる寸前でした。しかし併存症出現のため仕事も休みが多くなりマメに通院されるようになりました。非糖尿病性の眼疾患の手術を控え(血糖値が下がらないと受けられない為)風向きがかわったのもよかったかもしれません。併存症についてもただ「糖尿病だから」といわず「血糖を良くすると軽くなりますよ」という説明に努めました。幸い現在経過も悪くなくHbA1cも良い時7%台となりました。
家人からは『この人は「自分で稼いだ金で酒を飲んで何で悪い」と昼間から飲んでいるんですよ』「好き放題して糖尿病になったのだから、自業自得ですからいいんですよ」 「運動もしないしテレビばっかり見て動かないんです」「だから糖尿になったんですよ」などの言葉が聞かれました。
無理もありませんが、別の見方をすればこの人は自分を犠牲にして働いてきた、仕事上対人関係を大切にする為またはストレス発散の為お酒を飲んできた、から糖尿病になったのかもしれません。
目標達成計画(「療養指導」ではなく)は運動に関して具体的に毎週(最近は毎日)徒歩通院してもらうこと、お酒に関して夜の楽しみにしてもらうことを提案しました。ときに脱線しそうになりますが看護師が日常会話も交え言葉遣いに注意して粘り強く支援しています。

スティグマは感染性疾患に対するものと、癌や糖尿病などNon-Communicable Diseaseに対するものがあるそうでコロナ感染症患者スティグマに関する報告(jstss.org, ncchd.go.jp unicef.or.jpなど)も多数見つけましたが、最近になってそういうネガティブな風潮は薄れているように私は感じます。「コロナになって」と遠慮がちでなく普通に会話に出てきます。
「糖尿病になって」と普通に言えるようにアドボカシーが盛んになることを願います。

参考文献
  1. 田中永昭:どうして糖尿病患者さんのアドボカシーが注目されているのか. 日本糖尿病教育・看護学会誌26: 85-89, No.1 2022
  2. 上谷美礼:ミレイ先生流 アドラー心理学講座. 糖尿病ケア19: 716-720, no.5 2022
2022年8月


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