今月の糖尿病ニュース

2022年7月の糖尿病ニュース

DKDと薬剤併用療法

おおはしクリニック今月は糖尿病性腎臓病(DKD)、慢性腎臓病(CKD)について調べる機会があり、先月に続き2022年米国糖尿病学会(ADA)学術会議講演アーカイブから糖尿病実地医家として話題を探ってみました。
まず「糖尿病を伴うCKD治療」についてADA/KDIGOコンセンサスステートメントです。薬剤治療ではお馴染みのレニンアンギオテンシン系阻害剤(ACEI/ARB)、スタチン、SGLT2阻害剤、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬に加え非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(フィネレノン)の名が挙がりました。
またADAの「糖尿病の標準治療2022」も改訂されフィネレノンは2型糖尿病を合併するCKD患者での心血管アウトカムの改善およびCKD進行リスクの低下についてグレードAの推奨を受けました。FIGARO-DKD FIDELIO-DKD試験(内容省略 情報源は多数あると思います)の結果を受けてのことです。

おおはしクリニック講演で引用された(1)によるとDKDの病態生理は血行動態、アルブミン尿、線維化、炎症、血管内皮障害、酸化ストレス、生体エネルギー変化、高血糖・肥満、糸球体上皮細胞(ポドサイト)障害からなりますが、フィネレノンは前6者に改善作用があるとしています。
6月6日月曜日のシンポジウム(Breakthrough!Effective Treatment for DKD)上アムステルダム大学のRaalte DV先生によるとACEI/ARB、SGLT2I、フィネレノン間の併用療法についてデータはまだ少ないが概ね相加効果または相補効果が期待され、例えば後2者間ではアルブミン尿減少強化よび高K血症緩和効果が少数例試験ながら確認されているそうです。同氏によるとヒトでのフィネレノン作用機序研究、薬剤クロスオーバー試験、DKDと非糖尿病CKDの比較試験、1型糖尿病試験が今後の課題とのことです。

おおはしクリニック 従来のステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(SMRA:スピロノラクトン、エプレレノン)は心不全、蛋白尿に対する効果は認められるものの高カリウム血症、AKI(または急性腎不全)に対する懸念から使用が控えられる傾向にありました(2)。非ステロイド型フィネレノンはSMRAに比し高カリウム血症副作用が少ないと言われています。 一方AKIはどうか?
6月3日金曜日口演(会長推薦トップリサーチ)中「進行したDKDにおけるACEI/ARBの中止と心腎血管イベント」という演題がありました。ACEI/ARBをGFR<30になった時点で中止すると予後が悪化する結果でしたが、この研究者はAKIリスクについても調べていました。 SGLT2I、フィネレノン、ACEI/ARB三者間併用データの蓄積が楽しみです(3)。 また治療薬の選択枝が増えたことにより個別化治療に関する演題もありました。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Barrera-Chimal Jら:糖尿病性腎臓病における病態生理的メカニズム: 現在および将来の治療標的を焦点に. Diabetes, Obesity and Metabolism 22 S1: 16-31, April 2020
  2. Cooper LBら:糖尿病またはCKD合併心不全患者におけるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の使用. J Am Heart Assoc.2017(JAHA. 117.006540)
  3. Scholtes RA、Raalte DVら:2型糖尿病における腎血行動態 と腎作用薬による保護効果. Nephrology 26:377-390, 2021
2022年7月


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