今月の糖尿病ニュース

2022年6月の糖尿病ニュース

糖尿病寛解(Remission)他;米国糖尿病学会学術集会(ADA)より

おおはしクリニック6月3~7日第82回ADAがハイブリッドで開催されました。1日からは第65回日本糖尿病学会(JDS)のオンデマンドもリリースされたので対比しながら見ることができました。
その点興味深かったのは肥満です。我が国で肥満を伴う2型糖尿病治療の体重減量目標は3~7%が一般的でJDS編糖尿病治療ガイド2022~2023には「まず3%」と書かれています。一方ADAでは肥満(adiposopathy;脂肪機能不全)、2型糖尿病(type 2 diabetes)、心血管疾患(cardiovascular disease)三者の関係を図((1)をもとに作図)のように捉え、黄と緑が重なり青のかからない部分を肥満関連糖尿病(adiposity-related diabetes)と呼ぶ(1)考え方が浸透しつつあるように感じました。米国では2型糖尿病の40~70%が肥満関連糖尿病といわれ、治療方針につき第一目標を体重減量とする(weight-centric)か?血糖コントロールにする(gluco-centric)か?討論も行われました。自分は臨床家だと自認するweight-centric 派のIIdiko Lingvay先生は総説(1)をもとに講演されました。メッセージは簡潔明瞭で「15%体重減量」は「HbA1c<7%」に代わる新しい治療目標だと。治療前BMIは無関係であくまで10%以上の減量が重要であることを強調、またweight-centricの見分け方は簡単で診察室内、ルーチン検査範囲内(脂肪肝の有無など)でできるとも言っておられました。

おおはしクリニックADAは2021年に2型糖尿病寛解(remission)についてコンセンサスレポート(2)を出しました。今回の学会ではシンポジウムも開かれました。 2型糖尿病のremissionは血糖降下薬なしで3か月以上A1c<6.5またはFPG100~125の状態と定義されています。2009年に土台は作られていましたがPartial Complete Prolong 3つに分類されやや複雑で実用性にかける恐れもあった為、2019~2020に世界的専門家会合が開かれ、今後の研究の土台をつくるという目的も兼ねて発表されました。Remissionの概念は、癌のremissionに例えて説明されました。診断がついたら出来るだけ早期に達成する意義、ケースバイケースで維持療法は行っていく、治癒とは区別するなどです。 シンポジウムでは薬を飲んだ状態でremissionが評価できないか?など今後の検討課題、remission 達成により大血管障害も減る可能性があるというデータなどが紹介されました。最近英国からの報告(約230万人調査)(3)によると寛解率は1000人・年あたり9.7、対象を全体の0.4%にあたる発症2年以内、HbA1c7.0%未満、処方歴は無かメトホルミンのみ、10%以上の減量達成、すべて満たした者に絞ると同83.2でした。鍵は罹患年数(1年未満は3~5年の2.56倍の達成率)と減量の量(5%未満に対して10%以上では3.56倍の達成率)でした。上記通り最初のBMIは無関係でした。

おおはしクリニック米国では今年はじめデュアルGLP-1/GIP 受容体作動薬 Tirzepatideが発売開始になったそうです。10%以上の減量効果が十分期待できる薬で最終日シンポジウムにてSURPASS-1試験論文執筆者Rosenstock先生が「Tirzepatideは糖尿病の治療目標をremissionとすることに現実味をもたらした、remissionはもはや届かぬ星に到達するという不可能な夢ではなくなった。」というスライドを出されたことに代表されるようにADAではWeight-centric, Remission, Tirzepatideが連鎖しているかのようでした。

おおはしクリニックJDSでもTirzepatideについて講演がいくつかありました。そのひとつ「新しい糖尿病治療薬開発~シーズからパイプライン~」では偶然できた?という製品化の過程、受容体親和性など薬理学的な話、食欲抑制作用のGLP-1受容体単独作動薬との違いなどが議論されADAに比し慎重な立場が伺われました。
しかし一方シンポジウム「肥満2型糖尿病治療の新たな可能性」では日本でも対象によって有用な治療薬になるというお話が聞けました。
「食べるから肥満になる」のではなく「肥満は病気で、病気だから食べる」という考え方が肥満のスティグマ(負の烙印)解決につながる事、病気なら積極的治療すべきであること、積極的治療は難治とされる精神科疾患合併肥満の予後改善をもたらすなどです。
東邦大学医療センター佐倉病院からは腎症コントロールには肥満のコントロールも重要で7.8%の減量が必要である、肥満代謝改善手術症例の50%以上が精神的問題を抱えている、 薬物治療はスティグマ・軽症メンタルディスオーダーの解消、肥満代謝改善手術を受ける意欲形成にも有用である、などデータと症例が提示されました。

参考文献
  1. Lingvay Iら:肥満管理を2型糖尿病における第一治療目標とすること:対話を見直す時. Lancet 399, (10322): 394-405, January22 2022
  2. Riddle MCら:コンセンサスレポート:2型糖尿病における寛解(Remission)の定義と解釈. Diabetes Care44: 2438-2444, October 2021
  3. Holman Nら:英国における2型糖尿病の寛解率と特徴:全国糖尿病監査を利用したコホート研究.Diabetes Care45: 1151-1161, May 2022
2022年6月


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