今月の糖尿病ニュース

2022年5月の糖尿病ニュース

サルコペニア他;第65回日本糖尿病学会年次学術集会より

おおはしクリニック今年の糖尿病学会は3年ぶりに現地開催もあり神戸に出かけました。
16ある会場間移動が大変でオンラインは楽だったなと勝手なことを呟きながらライブ中継のない一般演題口演・ポスター、企業ブース巡りを中心に臨場感を楽しみました。GLP-1受容体作動薬インスリン混合製剤ソリクア、ツイミーグ使用症例発表、ミニメド770Gシステム使用経験談が特に収穫でした。
特別講演などは6月にアーカイブで視聴しようと思います。
サルコペニアは今回の学会で多くの演題がありました。日々の診療でもよくぶつかる問題なので2016年5月、2019年12月、2021年1月にもここで取り上げていましたが、一般演題口演81、82(筋の生物学)に現地参加し、もう一度調べる気になりました。以下メモと抄録からの抜粋です。

 セレプロテインPはAMPKリン酸化およびPGC-1α発現抑制により運動抵抗性を誘発することが知られているが下肢サルコペニアとも関係している ダイナぺニアでは蛋白質過剰摂取に注意必要 SGLT2阻害剤は遅筋におけるAMPK活性化に伴うエネルギー代謝の改善に寄与する可能性 ビタミンD誘導体MC903は筋繊維の肥大化と骨格筋量増加により基礎代謝を亢進する オートファジーとサルコペニア ストレスはC/EBP-KLF15経路を介して筋委縮を促進 KLF15は高血糖と不動化に共通した筋委縮の制御因子である またKLF15経路はインスリンや運動とは独立したシグナルである
高血糖や血糖変動による炎症や酸化ストレスは異化シグナル亢進誘導により筋量が減少する 筋微小血管床の増加とともにAMPK-PGC1α軸の亢進、筋量の増加がみられる

    サルコペニアの特徴は以下6点が挙げられています(1)。

  1. 筋組成;筋繊維型再分配、脂肪細胞浸潤
  2. 細胞内変化;蛋白分解へシフト 蛋白修飾 酸化ストレス感受性 ミトコンドリア機能障害
  3. 神経筋駆動;運動ユニット数減少
  4. サテライト細胞;数減少 再性能低下
  5. 全身的影響;炎症加齢 免疫老化 同化ホルモン減少
  6. 随伴的影響;不動 栄養不良 併存症

サルコペニアの原因は蛋白分解の亢進か蛋白合成の低下か?まだ結論は出ていません(1)。
蛋白分解系は以下の二つに分類されます。
① UPS系;経路にKLF15、MAFbx、MuRF1 Myostatin
② オートファジー;飢餓 運動で活性化 老化で減少 
複雑な両者の役割分担は実験により結果が異なり詳細は不明ですが筋肉の種類、蛋白質の種類の違いで説明されています(1)。またオートファジーは多すぎても少なすぎてもサルコペニアになるそうです。(1)。
蛋白同化(合成)刺激はPI3-K-Akt-mTOR経路を活性化、AktはFoxo3転写活性阻害しますがいずれもオートファジーを阻害します。また老化に伴いGSK-3が減少しmTORC1が不必要に活性化しオートファジー経路を阻害します(2)。
ちなみにインスリンは蛋白同化作用がありオートファジーを阻害すると書かれています(1)(3)。また血管内皮細胞に作用し筋血流を増やす効果も強調されています(3)。
ミトコンドリア機能不全と筋老化(サルコペニア)についてもどちらが結果か原因かわからないそうです(1)。例えばミトコンドリア機能不全はROS(活性酸素)を産生し老化を促進、サルコペニアではミトコンドリアアポトーシスが亢進かつ生合成に必要な蛋白合成が不足するなどです。
サルコペニア対策として運動とサプリメントを含むロイシンの有用性が書かれています(1)。
ただし(3)著者別論文によるとサプリメントの長期成績、高齢者、糖尿病におけるデータはまだ少ないそうです。

実は一番知りたかったのはサルコペニアにおけるインスリンの役割ですが今回見た(3)以外の文献にはインスリンの記述が多くありません。確かに未治療の1型糖尿病では多量のアミノ酸が筋肉から放出し筋肉は委縮するとかいてありますが、それを裏付ける研究は難しいそうです(7年前の出版ですが)(3)。蛋白同化作用は主として食後におこるので外因性蛋白(食物)の影響と区別しにくいなど種々の理由があり人の生体内での研究は限られているということです(3)。アミノ酸利用能、アミノ酸リサイクルの概念、蛋白分解がUPS系とオートファジー両者によっておこりインスリンがそれを緩和すること、筋肉内蛋白は糖・脂質に比べるとインスリン感受性が低いことなども書かれています(3)。他の糖尿病治療薬とサルコペニアの関係についても研究は活発に行われているようですが、複雑な経路や高血糖改善効果との区別が難しいことなどから検討余地が残されています(4)。高血糖そのものの影響は今学会で発表がありました。今後の研究発展が楽しみです。

参考文献
  1. Wiedmer Pら: サルコペニア 分子メカニズムと未解決問題. Ageing Research Reviews 65 (2021) 101200
  2. 佐久間 邦弘ら: サルコペニアにともなう筋委縮誘導因子の変化. 体力医学64, 74, (1) 2015
  3. Elena Volpi, DeFronzo RAら: Intenational Textbook of Diabetes mellitus 2015年改訂第4版第16章「Protein metabolism in health and diabetes」
  4. Massimino Eら : 2型糖尿病における血糖降下薬のサルコペニアへのインパクト:現時点のエビデンスと基礎メカニズム. Cells 10: 1958, 2021

後半は看護師長音喜多の担当です。
神戸での第65回糖尿病学会に5月13日参加して来ました。
テーマは「知の輝きと技の高みへ-人の集いがつくる明日の糖尿病学-」でいつもの1/3位の参加者でした。
おおはしクリニックポスターでは個別化したシンプルなアプリ、リブレリンク、AGPレポート用いた指導、振り返り、気づきの支援、デクスコムG6とアップルウォッチ、中性脂肪と歯の残数、うつ症状にセマグルチドが奏効した例などが印象に残り、口演ではインスリン注射針ナノパス、ペンニードル、BDの針の使い分けについてキャップを掴みやすい点などから使い慣れている針が一番など参考になりました。カンバセーションマップやカードシステムの現状も伺えました。
最近困難に感じていたことの一つに高齢者の強化インスリン療法があります。そんな中
シンポジウム9「ライフステージを考慮した1型糖尿病診療」演題6;老年・高齢期の1型糖尿病―現状と課題―はぴったりのテーマでした。5月12日分は6月にオンデマンドで聞く予定で楽しみにしています。記銘力、認知機能の低下、ADL低下などがあり、治療の単純化、減処方が提唱されてはいるもののHbA1cは10%を超えてしまうことも稀ではありません。
A さんは、今まで一人で来院していましたが最近困難となり、この2年余りでHbA1cが7%台から11%台に悪化しました。介護支援は本人が嫌う為、家族の協力により10%切りは見えてきましたがノートのつけ方、アラーム設定など粘り強く支援することが大切と感じています。
Bさんは診察毎何十回(何百回?)と基礎インスリンスキップしてはいけないとお話していた矢先先日ケトアシドーシスで入院。今後打ち忘れを防ぐ機能のついたノボペンエコーに変更予定ですが家族、訪問看護、訪問リハビリなどと連携してその人らしい環境整備に配慮し一人暮らしをサポートしていこうと思います。
Cさんは2型糖尿病ですが、最近重症低血糖で入院しました。比較的しっかりしていて強化療法は可能ですが拒否されたため2回打ち継続となりました。「そんなことはもう起こらへん」の一点張りでしたが重症低血糖対策として家族を交えて経鼻グルカゴン製剤バクスミーの指導をしました。 当院でもリブレを活用、低血糖の確認などに役立てていますが、インスリン注射とリンクした機能が待ち遠しいです。

おおはしクリニックシンポジウム31「これからの医療に求められるCDEJ像―日本糖尿病療養指導士認定機構 のサポートはどうあるべきか」は聴講しました。
日本糖尿療養指導士認定機構が設立し、私も初回に取得して早22年立ちました。
当クリニックでもCSIIを開始しましたがCGMとも日常的に使用されるようになり検査技師の役割が増えたそうです。
今後も新たな知見を元に学習していきたいと思います。


2022年5月


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