今月の糖尿病ニュース

2022年4月の糖尿病ニュース

血糖コントロールと脳の糖取り込み

おおはしクリニック糖尿病では認知症のリスクが高いと言われますが、その機序はよくわかっていません(1)。 アルツハイマー型(AD)、血管性認知症の他、糖代謝異常が発症に深く関与するという「糖尿病性認知症」という病型も提唱されています。HbA1cが高い、海馬委縮が軽度、アミロイドPET陰性が多く、タウPET集積、炎症・酸化ストレスマーカー・AGEがADより高値、フレイルが多いなどの特徴が挙げられています。血糖コントロールにより注意、遂行機能が改善することもあります(2)。その血糖コントロールによる脳内変化につきDiabetologia 最新号に興味深い学説(3)がありました。

僅か8名ですが平均45才、糖尿病歴10年、BMI31.4、HbA1c9.8%の2型糖尿病被験者に対して12週間CGM装着、治療薬強化、頻回面接のインターベンションを行いました。結果HbA1cは平均7.7%まで有意に減少(BMIは30.6、有意差なし)、高血糖クランプ法実施中プロトンMRSにより測定した脳内グルコース増加量(グルコース注入開始60~120分後:血糖約220㎎/dl-注入前:同90㎎/dl)は有意に増加しました。インスリン関連パラメーターに有意な変化はありませんでした。 脳内グルコース変化はHbA1c改善が大きいほど、また糖尿病罹患歴が短いほど大きかったことから、著者らは高血糖による脳機能障害を減らすには早期から徹底した血糖コントロールが望ましいのではと提案しています。
脳へのグルコース輸送、脳内グルコース代謝、それによって決まる脳内グルコース量が高血糖低血糖によっていかに変化する何十年も研究が続いています。 しかしげっ歯類においては糖尿病で脳内グルコース代謝低下が報告されておりヒトも同様なら血糖改善後脳内グルコース代謝は上がると考えられ、この実験で脳内グルコース増加現象は蓄積ではなく糖輸送体(GLUT)の活性・容量増加によるものと示唆されます。

おおはしクリニック「神経細胞内でATPは糖の分解によって生産されている。しかし加齢した脳や アルツハイマー病などの加齢性神経疾患患者の脳内では、この糖代謝が低下することがわかっている。一方で、血糖値を下げるための食事制限や、インスリンシグナルによる糖の細胞内への取り込みを阻害することで、寿命が延びることが知られている。このように相反する知見があり、これに対する説明はこれまでされてこなかった」が、「脳への糖取り込みを促進すると、加齢によるATP減少や運動機能を抑制できる 食事療法を組み合わせるとさらに効果」
と糖尿病リソースガイド(2021年1月12日)に紹介されていたので、その原著(4)を読んでみました。詳細は省略しますがショウジョウバエ(5日齢、50日齢)を用い嗅覚神経細胞(キノコ体)内ミトコンドリア数計測、バイオセンサーによるATP定量、解糖酵素ノックアウト実験、糖輸送体(hGlut3)発現実験、飛行能力テストなど行いました。
結果、糖輸送体を増加させると糖代謝が増えATP低下が改善し、寿命・健康も増進したがミトコンドリア状態に有意な変化はなかった、食餌制限下では通常時より糖利用促進効果が顕著だったことがわかりました。
検索中アストロサイト神経乳酸シャトル、ケトン体脳内利用と神経変性疾患治療への応用から、アルツハイマー病糖輸送体病因論(5)まで色々知ることができ今後も脳内糖の動きに注目したいと思います。

参考文献
  1. Srikanth V:2型糖尿病、血糖、脳の健康;複雑な因果関係. Diabetes 70: 2187-2189, October 2021
  2. 羽生春夫ら:糖尿病性認知症Diabetes-related dementia.老年期認知症研究会誌 21(6): 54-56, 2017 および 日内会誌 103:1831~1838, 2014
  3. Sanchez-Rangel E, Hwang JJら:2型糖尿病における脳グルコースの動態可逆性. Diabetologia 65: 895-905, May 2022
  4. Oka Mら:脳神経細胞への糖の取り込みが、食事制限下のショウジョウバエにおいて脳の老化を緩和し寿命を延長する. iScience 24: 101979, January 22 2021
  5. Szablewski L:脳糖輸送体:病因としての役割とアルツハイマー病治療の標的候補. Int.J.Mol.Sci 22:8142, 2021
2022年4月

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