今月の糖尿病ニュース

2022年3月の糖尿病ニュース

デジタルヘルスデバイスの活用;「糖尿病学の進歩」から

おおはしクリニック健康診断のアドバイスはあれもこれもとなりがちで「制約が多すぎてモチベーションが上がらない」とは今回の日本糖尿病学会「第56回糖尿病学の進歩」(世話人愛媛大 大澤晴彦教授 Web開催)で聞いた言葉ですが、Precision medicine(個別化医療)に関する話題が豊富でした。以前は血液、画像、遺伝情報データをもとに個別化医療を進めていくというイメージでしたが、今回は既存データに加え血糖、体重、歩数、血圧測定など日常生活データをデジタルヘルスデバイス経由Internet of Things(IoT)を介し集積解析して具体的個別的アドバイスに繋げる新しい個別化医療の現状について知りました。機械学習、ディープラーニングなど一般ビジネスにも用いられる技術を駆使して解析します。顔認証、英文翻訳なども皆その技術を使っているそうです。その代表例のひとつ久米島デジタルヘルスプロジェクトが詳しく紹介されました。一般にもWeb上公開されているので抄録から抜粋させて頂きます。

2017 年に内閣府の離島活性化事業としてスタートした沖縄県久米島 “ デジタルヘルスプロジェクト ” は、デジタルヘルスデバイスと健診データを活用して2型糖尿病や肥満症などの生活習慣病の予防・改善を目指す個別化精確医療の実践モデルケースとして、琉球大学医学部と IT 関連企業群がタイアップして展開してきた。デジタルヘルスデバイスから得られた多様なデータをスマートフォンと連動させてクラウド化し、個々人の医療・生体情報を人工知能(AI)が分析し、生活習慣病の予防や進展阻止に寄与する要因を探索するもので、ひとり、ひとりの被験者にとって最適な生活習慣や望ましい活動量などを推測するアルゴリズムの開発、効果的なフィードバックを行うアプリケーションの開発や科学的実証へと展開している。ひとり、ひとりの生体情報や行動科学的分析に基づいた 未病からの個別化で精確な予防と医療(プレシジョン・ヘルス&プレシジョン・メディスン)を目指す。

同じく分子生物学的、生理・生化学、個人生活活動、社会環境的データ2000以上の項目を1000人に15年間集めた岩木健康増進プロジェクトビッグデータをもとにした弘前COI(Web公開されています)関連データも紹介されました。疾患の予測を示すだけのブラックボックス的AIではなくベイジアンネットワークによる「説明AI」を開発したということです。同じ疾患になるとしても経路が異なるので予防方針も違ってくることが図示されます。医師とAIと能力を競う試みもありましたが専門医の価値とは何かと考えさせられました。しかし地区独自の多数データ収集が必要で労力・費用はクリティカルです。また行動療法のセッションで1年以上の行動継続には対面診療が必要という意見がありましたが、そこにAIにできない何かがあるのでしょう。

おおはしクリニックIoTは個別化医療に使われるのみならず日常診療にも有用だとする発表が岡山済生会病院からありました。CGMデータをクラウド経由病院で管理し診察日までに解析して当日の時間節約、診療内容の充実に役立てるというものですが、一方で職員負担増大、IoT機器を扱えるか否かによる情報格差について意見も聞かれました。当クリニックでも現状では難しそうですが、2021 年 6 月に薬事承認を受けたというインスリン投与データを自動的に記録するインスリン注射は活用方法を考えています。とくにリブレデータ上に組み込めるのは役に立ちそうです。

以下は私の学会ノートなので正確かご確認を。
CGM、CSII(インスリンポンプ)のワンポイントアドバイスから;
眠前の補正追加インスリンはインスリン効果値を倍で見積もると夜間低血糖および朝の反応性高血糖を防止できる。
基礎レート一例:2~4時0.200 4~5時0.575 5~8時0.675 8~13時 0.175 13~16時 0.450 16~20時 0.300 20~23時 0.500(0.450からアップしたら夕食後血糖改善)23~2時 0.300。
登山日基礎レートを普段の昼20%夜60% 高脂肪食時基礎レートを普段の140%に。
低血糖補正CGM上では100を切った時に、効果はBGMで確認すると過剰補正防げる。 
残存インスリンをグラフで見積もる方法:縦軸に使用単位プロット、横軸に残存時間(ルムジェブ2.5 フィアスプ3.5 アピドラ3 ログ4 アスパルト5時間)をプロット、直線で結ぶと経過各時間の残存インスリンがわかる。

ハイブリッドクローズドループ(ミニメド770G)企業講演から;
食事ボーラスは必ず食前5~15分前に(食後に注入するとオート基礎注入が増加しているので過剰注入になる)、注入し忘れた場合1時間以内なら半分量注入後オートに任せる、
食事中脂肪蛋白分はオートモード基礎増で対応できる。
何を食べるかわからないとき過去に要した最低量注入する。
アメリカ人ではマニュアルで基礎インスリンを増量して食事ボーラスを補充する傾向があるのでオートにするとインスリン/カーボ比10%ほど上げる必要あり。

2022年3月

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