今月の糖尿病ニュース

2022年2月の糖尿病ニュース

機能性ビタミンB12欠乏症

おおはしクリニックビタミンB12(=コバラミン、以下B12)は動物性食品に含まれ通常不足しませんが、欠乏症は貧血等の原因として有名です。しかし血清B12高低と心血管死、生命予後との関係については様々な報告があり一定しません。 つい先日2月16日付Medical Tribuneニュースでも関連論文が紹介されていました(2)。
また糖尿病の分野ではメトホルミン内服によるB12吸収障害がアメリカ糖尿病学会(ADA)などから注意喚起され定期的血中B12 測定が推奨されていますがその実効性は証明されていません(1)。 B12は、メチルマロン酸(MMA)代謝における(酵素MCMの)補酵素として作用する必須微量栄養素です。従ってMMAはB12欠乏症では代謝されず血清MMAは高値になります。
一例としてB12摂取・吸収・輸送から補酵素アデノシルコバラミン合成までの諸段階障害が新生児代謝異常症メチルマロン酸血症原因のひとつとなります(難病情報センターホームページ)。B12が善玉か悪玉か混沌とする中、血清B12とMMAが共に高い(MMA>250 nmol/LおよびB12>400 pg/mL)糖尿病患者が2011年Solomon LRにより同定報告されたことなどから、機能性B12欠乏症またはB12感受性低下という概念が確立しました(1)。
以上を背景に今回1999~2014年の米国民保健栄養調査(NHANES)のデータ解析が行われました(1)。対象は3,277人の期間中B12、MMAを2回測定できた2型糖尿病をもつ人で平均年齢59.3才、心血管疾患既往者25.0%、メトホルミン内服者39.5%、糖尿病性末梢合併既往者27.4%でした。B12を含む栄養補助食品は35.8%が使用し食品からのB12摂取量の平均値は4.8μg/日でした。カットオフ値をMMA 250 nmol/L、B12 400 pg/mLとしてそれぞれ①低/低②低/高③高/低④高/高の4群に分類しました。

おおはしクリニック 血清B12およびMMAの平均濃度は、それぞれ599.5 pg/mLおよび201.5 nmol/Lでした。中央値7.02年のフォローアップ中865人の全原因死(23.1%心臓特異的死亡、15.0%がん関連死)が発生し、メトホルミン治療に関係なく死亡率と血清B12 またはB12摂取との間に強い関係はありませんでした。全原因死亡率の多変数調整済みHRはそれぞれ①1.00②0.98③1.49④1.96でした。その関連はメトホルミン非内服者において有意でした。
機能性B12低下は酸化ストレスとリンクしB12の酸化が原因であると考えらえていましたが、(1)(3)によるとミトコンドリア機能不全が関与しているのではと下図(文章をもとに筆者作図)のように提案されています。

おおはしクリニック

おおはしクリニックメトホルミンがB12欠乏を介して副作用を引き起こすか?先述のようにB12に対する感受性の低下に伴う死亡率の増加は、メトホルミン非内服者において特に有意でした。したがってメトホルミンはむしろB12感受性の低下に伴う死亡リスクを減少させ得ることも考えられます。メトホルミンによるミトコンドリア障害緩和作用も考えられます。今後メトホルミンがB12感受性を改善するかどうか臨床試験による検証が必要です(1)。

参考文献
  1. Wang Sら:コバラミン摂取と関連マーカー:NHANES調査成人2型糖尿病死亡リスクとの関連を検証する. Diabetes Care 45: 276-284, February 2022
  2. Liu Yら:糖尿病の心血管死にビタミンB12、葉酸が関連.JAMA Netw Open 5: e2146124 2022(Medical Tribune 2月16日)
  3. Wang Sら:ミトコンドリア機能不全と酸化ストレスの代替バイオマーカー、ミトコンドリア由来MMAは一般人集団において総・心血管死亡率を予知する. Redox Biology 37: 101741, 2020
2022年2月

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