今月の糖尿病ニュース

2022年1月の糖尿病ニュース

糖尿病テクノロジー

おおはしクリニック新年あけましておめでとうございます。2017年isCGM(フリースタイルリブレ®)が現場に登場、当クリニックの糖尿病診療にも大きな変革をもたらしましたが、それ以来のニュースと言ってよいでしょうか1月20日日本初のハイブリッドクローズドループ(HCL)搭載インスリンポンプが販売開始するという話が飛び込んできました(噂は去年からあったようですが)(1)。HCLシステムについて詳細は(1)などWeb上に情報が多数公開されているので略しますが食事と運動時以外は人口膵により自動的にインスリン注入量が決められるシステムです。糖尿病テクノロジーは適切な教育とフォローアップがあれば糖尿病をもつ人の生命、健康を改善しますが、この領域の複雑さと早い変化が実施する上で障害にもなる(3)と言われています。そこでHCLが今年中にクリニックで使えるかどうかわかりませんがいつでも対応できるよう準備することにしました。まず「リアルタイムCGM適正使用指針」(2)を読み、eラーニング講座「日本糖尿病学会 リアルタイムCGM研修」を修了しました。短時間で概要がよくわかりました。

おおはしクリニックインスリンポンプ療法CSIIは世界的には約40年の歴史があり日本でも2010年以前から行われています。従来法(頻回注射法MDI)よりHbA1cは0.3%下がる(3)といわれています。種々ボーラスの設定、暁現象への対応など基礎インスリン調節可能な点などが特徴です。
日本でいわゆるプロフェッショナルCGM(臨床検査型、記録後で見るタイプ)は2009年から、リアルタイム(rt)CGM(血糖自己管理目的型)はポンプ一体型SAP(ミニメド620Gなど、低血糖一時作動停止機能付き)が2015年から、単体型rtCGM(ガーディアンコネクトなど)は2018年から使われていました。今回登場するHCLシステムは外国では約5年前から一般に使用されているとのことで総説(4)によると開始後TIR(一般にセンサーグルコース値が70~180の範囲に入る割合)9.6%増、TBR(同70未満)1.5%減などの成績が機種別に表でまとめてありました。Advanced(進化型)HCL(ミニメド780Gなど、自動ボーラス機能が追加、目標血糖を従来の120から100に設定可能)の成績もありTIRの増加は少なめですが自動モード使用率が向上しました。高血糖時(300以上)の自動モードからキックアウトプロセスが作動しにくいといわれています(5)。
しかしいずれの機種においても臨床試験成績は被検者、期間、デザインにより変わることが強調されており、つまり日常臨床現場では個別の対応が重要と思われました。
私にとって難関は人口膵のアルゴリズムについてです(グルコースクランプ法の経験はありますが人口膵は未経験です)。MPC、PID、The fuzzy logic approachが代表的なものですが(4)(5)には簡単な説明しかありませんでした。Do it yourself型なるものもありますが自己責任で使うもののようです(5)。
食事や運動時のHCLシステムについて詳細な臨床研究論文も多数あるようですが最近の(6)(7)を少し読んでみました。食事時手動ボーラス後、5分毎自動的にインスリン注入量微調節が行われ量変化は想像以上にダイナミックです(手動ボーラスも適宜追加されたようですが)。朝昼夕食別に糖質(グリセミックインデックスなど)、脂質(飽和不飽和など)、蛋白(動物性植物性)を細分化してHCLシステムへの影響を調べる試みがされていますがまだ今後の課題です(6)。
おおはしクリニック運動時HCLシステムの実験(7)は平均38才、1型糖尿病歴23年、A1c7.1%、最大酸素摂取量38ml/kg・minを被検者に中強度(MIE)のみならず高強度(HIE)、レジスタンス運動(RE)を交えて行われました。運動後14時間平均TIRはMIE81%、HIE91%、RE80%、TBRは0%と概ね既報より良好でした(運動直前4日間TIRはオープンループで72.2%と元々良好ですが)。しかし運動は食事時ボーラスインスリン残存のない食後4時間に行われ運動前2時間の目標血糖は150と高めにセット、運動10分前に血糖が126以下の場合15gの炭水化物補食をするなどHCLシステムのみに依存するのではなく標準的な運動時プロトコールに則り行われました。またMIEに比しHIEやREではインスリン以外ノルアドレナリン、コルチゾール、乳酸の有意な増加、HIEで成長ホルモンの有意な増加がみられました(グルカゴンは不変でした)。従ってセンサーグルコースとインスリン注入量は一致するものの血中インスリンレベルは反映していないことから、低血糖防止効果はHCLシステム(インスリン注入減)というよりノルアドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン増加によるものかもしれません。既報になく新規の所見として運動後夕食後のTIRが12.5(RE)、15(HIE)、18(MIE)%上昇しましたがくメカニズム解明が今後の課題です(7)。
食事運動にもインスリンが皮下投与であることが根本的な問題です。そのため最近の超超速効型インスリン(フィアスプ、ルムジェブ)により違いが出るか臨床試験が進行中です(4)(5)。

参考文献
  1. 糖尿病リソースガイド:インスリンポンプ「ミニメド770Gシステム」発売 日本初のハイブリッドクローズドループを搭載 基礎インスリン注入量を自動調整 メドトロニック. dm-rg.net 2022年1月14日
  2. 糖尿病リソースガイド:日本糖尿病学会が「リアルタイムCGM適正使用指針」改訂版を公開 適応と注意点・アラートの設定閾値・アラート鳴動時の対応を記載. dm-rg.net 2021年12月23日
  3. アメリカ糖尿病学会(ADA professional practice committee):糖尿病テクノロジー. 糖尿病標準医療2022年(Standards of Medical Care in Diabetes—2022). Diabetes Care 45(Suppl. 1): S97–S112, January 2022
  4. Boughton CK, Hovorka R:新しいクローズドループインスリンシステム. Diabetologia 64: 1007-1015, 2021
  5. Moon SJら: 人口膵最近の進歩:臨床エビデンスのわかりやすい総説. Diabetes Metab J 45: 813-839, 2021
  6. Vetrani Cら:ハイブリッドクローズドループシステム使用1型糖尿病成人における食物に関する食後血糖決定要因. Diabetologia 65: 79-87, 2022
  7. Paldus Bら:ハイブリッドクローズドループシステム使用1型糖尿病成人における中等度、強度運動およびレジスタンス運動中血糖コントロール比較ランダム化交差試験、影響可能性因子も合わせて. Diabetes Care 45: 194-203, January 2022
2022年1月

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