今月の糖尿病ニュース

2021年9月の糖尿病ニュース

GRADE研究他

おおはしクリニック6月にWeb開催されたアメリカ糖尿病学会学術会議(ADA)オンデマンド視聴期限が迫りいくつか訪問してみましたがまずGRADE研究について感想から。糖尿病治療の第一選択薬がメトホルミンと決まっている米国の事情と、被検者が米国の平均的糖尿病患者を反映(人種構成、BMI、A1cなど)した試験というのが大前提で日本人には必ずしも当てはまらないかもしれませんが、第二選択薬にはSU剤かDPP4阻害剤かインスリンかGLP-1製剤いずれがよいか学術的に比較した、5000名以上ランダム化、追跡期間平均4.2年という質の高い「ありそうでない」研究です。メトホルミン単剤治療中HbA1c6.8~8.5%の人に上記4剤のいずれかを割りつけて7%未満を達成できなくなる期間の比較が第一目的です。
インスリン(グラルギン)とGLP-1(リラグリチド=ビクトーザ®)は注射製剤のため普段導入遅れがちですがSU剤(グリメピリド~8mg)、DPP4阻害剤(シタグリプチン100mg)より良好な成績でした。SU剤とDPP4阻害剤の比較はおおよそ従来通りでしたがSU剤もA1cの高い症例に低血糖と体重増加に気をつければ、安価というだけでなく効果切れ味とも無視できないことが確認されました。細小血管障害合併頻度は両者で差なく4剤間でも同様でした。心大血管障害に対して予想通りGLP-1選択の利点はあるかもしれませんが解析はまだ終了しておらず最終的結論は出ていません。SU剤はADOPT試験(チアゾリジン系、メトホルミンと比較)と同様、長期効果持続性に劣る傾向がありました。しかしどの薬も早晩二次無効に陥ることに変わりなかったことも事実で、視点は変わりますがディスカッションではDeFronzo先生の早期多剤併用療法も話題に上っていました。またSGLT2阻害剤が含まれないのが惜しまれるところです。

おおはしクリニックThe Year in Review(この1年を振り返って)ではSARS-Cov-2(新型コロナウイルス)の話題から始まりました。糖尿病が感染症重症化リスクになることは概ね了解されていますが、感染が糖尿病を発症または悪化させるかはまだ不明で膵β細胞に新型コロナウイルスが直接作用するかどうか?はホットな話題のようです。幹細胞由来β細胞を使うか、膵全体を組織として調べるかなど実験系によって結果は異なり、β細胞にウイルス受容体は検出されないもののtransdifferentiation(分化転換、β細胞がα細胞へなど)をおこしインスリン分泌に影響を与えたという論文が紹介されました。炎症による間接作用が想定されています。
パラダイムシフトともいわれる話として血糖応答性インスリン分泌におけるPyruvate Kinase(PK ピルビン酸キナーゼ)の役割が注目されているそうです。創薬にも繋がる可能性があるそうです。PKがKATPチャンネル閉鎖に必要なATP/ADP比をミトコンドリア内酸化的リン酸化のほかPEPサイクリングにより作るという最近の論文が紹介されました(5)。

おおはしクリニック橋渡し研究分野では豊富な個別化医療の話題の中SUGAR-MGH試験、GoDARTS試験を基にSU剤(グリピザイド)の急性およびHbA1c低下効果がT2D(2型糖尿病)ポリジェニックスコアにより予測できたという論文(1)が紹介されました。T2Dポリジェニックスコアが高い(2型糖尿病になりやすい遺伝子多型をたくさん持つ)ほどSU剤内服後経時的(30、60,90、120、180、240分)変化において各時間帯血糖降下度の総和が大きい、血糖最大低下(底)までの時間が短い、低下スロープが急峻である、インスリン値ピークまでの時間が短いことがわかり(SUGAR-MGH試験)、1年間HbA1c低下度が高い(GoDARTS試験)ことも示されました。因みにADOPT試験では短期に効果良好な遺伝子多型を持つ人が長期では効果不良だったそうです。
ワイヤレスのクローズドループインスリンポンプシステムの話が出たので原著論文(2)を探したところCGM関連論文がシリーズで見つかりました。重症でない入院患者CGM適用に精度の点で問題ないかどうか(3)、透析中の患者さんのCGMデータ分析(4)です。入院中一日7~8回指先穿刺しなくてもよくなれば朗報です。透析日と非透析日血糖パターン違い、糖入り透析液使用中の血糖パターンと低血糖予防効果(限界)、HbA1c・グリコアルブミン(GA)とCGMデータの対比など知りたかったデータを教えて頂きました。

参考文献
  1. Li JHら: 2型糖尿病リスクポリジェニックスコアはSU剤の急性および持続性反応に関連する. Diabetes 70: 293-300, January 2021
  2. Brown SAら: 小児成人1型糖尿病における配線なし体表自動目標血糖設定可能インスリン注入システムの多施設研究. Diabetes Care 44:1630-1640, July 2021
  3. Davis GMら :非重症入院糖尿病患者におけるDexcom G6 CGMの正確性. Diabetes Care 44:1641-1646, July 2021
  4. Hayashi Aら:CGMで証明された血液透析に関連する血糖の乱れ;血糖マーカーと低血糖. Diabetes Care 44:1647-1656, July 2021
  5. Lewandowski SLら :ピルビン酸キナーゼはインスリン分泌経路におけるシグナル強度を制御する. Cell Metabolism 32: 736-750, November 03 2020
2021年9月

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