今月の糖尿病ニュース

2021年8月の糖尿病ニュース

糖尿病性網膜症/64JDS参加報告

おおはしクリニックヨーロッパ糖尿病学会誌Diabetologiaオンライン版に興味深い論文(1)があったので調べてみました。過去の大規模臨床試験(2007年発表FIELD試験、2014年発表ACCORD Eye試験)において高脂血症治療薬フェノフィブラート(FF)が網膜症進行を遅らせることが報告されていました。その機序は不明でしたが研究が進んでいるようです。

糖尿病性網膜症は通常細小血管合併症といわれますが、近年神経細胞(神経節細胞、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞)、グリア細胞(星状細胞、ミューラー細胞)、免疫細胞(ミクログリア細胞)、血管細胞(内皮細胞、周皮細胞)間の複雑な機能的結合と相互依存からなるneurovascular unit(神経血管ユニット、以下NVU)に支障をきたした状態と考えられています(2)。

この総説(2)ではNVU病理を上記細胞に色素上皮細胞と免疫系細胞を加え5つの病理(①神経変性、②反応性グリオーシス、③細小血管病理、④免疫・炎症、⑤色素上皮・コロイド病理)に分類しています。①は③(ときに糖尿病発症前)より先行することがあること、OCTではNFL、IPL、INL層の菲薄化が見られること(2019年4月の当ニュースご参照)、②ミューラー細胞のサイトカイン分泌、水分調節など多様な働き、③内側血液網膜関門(BRB)破損、毛細血管瘤4つの分類と血管基底膜、星状細胞、ミクログリア細胞、内皮細胞、周皮細胞状態、④白血球停滞、VEGFなど炎症性サイトカイン産生⑤外側BRB破損など詳細な機序が書かれています。
現在の糖尿病性網膜症治療は進行期を対象にしたものが多く、早期治療法候補が上記病理を基に列挙してあります(2)。
神経栄養因子;PEDF、BDNF、インスリン・IGF-1、SST、GLP-1
抗酸化物質;フラボノイド(クエルトセチン、クルクミン)、カロテノイド(ルテイン、ゼアキサンチン)
抗炎症剤;TNF-α拮抗薬、SOCS1、テトラサイクリン誘導体
細胞代替;MSC、EPC、 HSC、 iPSC
その他;iNOS阻害(アミノグアニジン、セサミン)、L-DOPA、ET-1受容体拮抗薬

おおはしクリニック(1)の要約は;
(はじめに)既報から造血幹前駆細胞HSPCが少ないと網膜症が進行しやすいことを研究の前提
HSPCから内皮分化(内皮前駆細胞EPC割合増加)すると増殖性網膜症が悪化するといわれる
(方法) 41名ランダム化12週間FF145㎎またはプラセボ治療 平均54才、A1c7.6%、糖尿病歴18年、BMI29.5、非増殖性網膜症63%増殖性網膜症37%、糖尿病性腎症合併34%、インスリン治療66%、スタチン内服81%
末梢血フローサイトメトリー法でHSPC、EPC測定(EPCはHSPCから分化する)
(結果)FFはHSPCを30%増加、既報データに当てはめるとFF網膜症進行OR0.67
(考察)FFは多分末梢血でなく骨髄へ作用してHSPCを増加させる 骨髄中でPPARsはマクロファージやコレステロール輸送体を介してHSPCを動員する EPC、血中VEGFに変化なかった ESPCと血中脂質の変化に相関はなかった

以上ですが
総説(2)の細胞代替療法解説によると必ずしもEPCは悪玉とされず、糖尿病状態では血管障害修復力がないがTGF-β、PPARγとδ、間葉細胞起源ファクターIにより回復する、またHSCはレニンアンギオテンシン系乱れから機能不全がおこる、など複雑です。
また(3)ではPPARα(FF)の効果をEPCの面から検討しています。
(4)ではFFより高選択性PPARαの有望性、FF以外のPPARαペマフィブラートについて述べています。

参考文献
  1. Bonora BMら: フェノフィブラートは糖尿病性網膜症罹患者において循環造血幹細胞を増加させる. Diabetologia Published online 09 August 202
  2. Nian Sら: (総説)糖尿病性網膜症における神経血管ユニット:病態生理的役割と治療標的としての可能性. Eye and Vision 8:15, 2021
  3. Shao Yら :内皮前駆細胞の代謝調節を介するPPARαの防御効果. Diabetes 68: 2131-2142, 2019
  4. Dou Xら:蔓延する血管性網膜疾患治療の為のPPARs小分子調節. Int. J. Mol. Sci. 21: 9251, 2020

おおはしクリニック

後半は音喜多看護師長が担当します。
第64回糖尿学会年次学術集会(JDS 2021年5月Web開催)
「日々の診療での気付きから新しい糖尿病学を切り拓く」に参加して

コロナ禍の糖尿病教育(教室)

コロナ禍における新たな「かたち」での糖尿病教室試みについて発表がありました。
当院では1~2か月に一回の定期糖尿病教室が中断中のため参考にすべく視聴しました。
北信糖尿病デバイス・インストラクター研究会では 薬剤師主導で患者教育動画 やホームページ上ビデオ・オン・デマンドを作成したそうです。例えば「雑巾絞りと膵の働き」編では神経障害から手が痺れると雑巾が絞れなくなるので膵にいたわりを、などわかりやすいメッセージが特徴です。またケーブルテレビを使い一般市民も気軽に糖尿病について学べるよう取り組みが始まっていて低血糖、サルコペニア編がスタンバイとのこと。
栃木の済生会病院ではハイブリッド開催「外来糖尿病教室withオンライン」を実施し臨場感を維持するも個人情報管理、高齢者参加困難など問題点も。
長野県東信地域の常設劇団「トーシンズ」「モトジーズ」からは劇場型糖尿病教室「運動はディナーのあとで」、「身体にいい事やっていますか」など紹介があり、一幕5分の短時間集中型、参加型、多方向型、生活密着患者目線、患者へのフィードバック、アンケート、ローカルラジオポスター掲示による宣伝などの工夫が語られました。

ヘルスリテラシーとは健康面で適切な意思決定に必要な、基本的健康情報やサービスを調べ理解し効果的に利用する個人能力の尺度のことです。たとえばインターネットからの情報が年々増加していますが玉石混交な情報から正しい、自分にとっての必要な情報を早く得ることは大変重要と感じます。今回インターネット検索時「人の頭は騙されやすい」「感情が認知に影響する」ことがあらためて注意喚起されました。
ヤフー(Yahoo)は膨大なデータから得られるインサイトを、ヤフーと企業、ヤフーと自治体、また企業間や自治体間など、参画するプレイヤーがデータを相互利活用しそれぞれが成長し、さらに多くのデータが集まるエコシステム(ヤフー・データソリューション・インサイト活用)を目指していて
「糖尿病患者のニーズに応じた個別栄養指導のあり方~ インターネット検索ワードからみる栄養指導ニーズの 検討~」
と題する発表がありました。糖尿病食事療法のガイドラインが複雑化している中、個別化調整にインターネットがどう利用されているかの検討です。肥満のエネルギー制限,糖質制限,患者 のQOL,時間栄養に関する検索が多く、食品名ではおやつレシピ トマトジュース、MCTオイル 桑の葉 高麗人参が多かったとのことでしたがヘルスリテラシー向上に寄与してほしいものです。

おおはしクリニック以上より当クリニックとして教室は当分出来なくても正確、シンプル、かつ個別化を目指してそして上手にインターネット情報を活用して療養指導を行っていこうと思います。

2021年8月

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