今月の糖尿病ニュース

2021年6月の糖尿病ニュース

第64回日本糖尿病学会年次学術集会(JDS)

おおはしクリニック今年のJDSはリリー賞、会長講演など肝筋脂肪の生物学、免疫代謝学領域に話題が豊富に感じました。Webライブ版を聴き基礎医学の奥深さに圧倒されるも一度では理解仕切れませんでした。そこで今回は臨牀領域を中心に参加報告します。

近日中?に登場予定の薬としてImegliminとTirzepatideに注目しました。前者はミトコンドリア機能を改善する化合物スクリーニングが出発点でインスリン分泌促進・抵抗性改善両作用を持つということです。後者はGIP/GLP-1受容体作動薬で体重・血糖降下作用のほか高脂肪食嗜好を改める作用、GLP-1受容体作動薬との比較データなど紹介されていました。

既存の薬剤関連ではまずSGLT2阻害剤の1型糖尿病への投与について聴きました。一般的に低血糖を増やさずA1cを改善するといわれていますが、今回奏功症例の予知因子としてリブレを利用することが発表されていました。1型ではA1cが高いからと漠然とSGLT2阻害剤を処方するのは厳に慎むべきで、シックデーなど基本をしっかり確認することは言うまでもなく日頃から血糖測定に基づいてインスリン調節をしている症例を選ぶべきと思いました。
もうひとつ選択的PPARαモジュレーターぺマフィブラートですが腎機能、脂肪肝への好影響につき多数報告があり参考になりました。

おおはしクリニック外国のデータを日本人に当てはめてよいか?といえばまず肥満領域が思い浮かびますが その意味でも減量・代謝改善手術のシンポジウムは大変勉強になりました。2014年腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険収載されその成績をまとめたJ-SMART研究が2019年に発表され、今年3月21日には日本糖尿病学会・肥満学会・肥満症治療学会から「日本人の肥満2型糖尿病患者に対する減量・代謝改善手術の適応基準に関する3学会合同 ステートメント」が策定されたとの事です。従来BMI35以上の適応が現在A1c8.4以上などいくつか条件を満たせば32.5まで下がりつつあるようですが、高齢で糖尿病罹患歴が比較的長い人では比較的BMIが低く内臓脂肪率とA1cは高いことが背景にあるそうです。なお手術効果判定においてA1c<6.0%を著効としているためそのような人の点数化成績が悪く評価される問題点が指摘されていました。メンタルヘルスの重要性も強調されていました。興味深かったのは糖尿病改善効果に対する胆汁酸の関わりです。今回のステートメントで(スリーブ)バイパス術を考慮してよいことになったそうですが十二指腸空腸バイパス術において胆膵脚(BPL)は回腸下部に吻合すると空腸上部より改善効果が高いことがわかりました。BPLでは胆汁が食べ物に混ざらないため早期に血中に胆汁酸が再吸収され肝臓のFXR(代謝調節因子)活性化等が機序として考えられています。

2021年6月

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