今月の糖尿病ニュース

2021年5月の糖尿病ニュース

HIF-PH阻害薬と糖尿病

おおはしクリニック糖尿病性腎症が進行すると慢性腎臓病が進行し貧血を合併します。腎性貧血と呼ばれ従来赤血球造血刺激因子製剤(ESA)注射薬が治療に用いられてきましたが、昨年よりHIF-PH阻害薬という内服薬が各メーカーから相次いで発売されています。当クリニックでも腎臓内科併診例から処方を開始していますが、Diabetologia誌に総説(3)があったので日本腎臓学会からの文献(1)(2)と合わせ読みました。低酸素誘導因子HIFとは低酸素に対する防御機構を担う重要な転写因子で造血、血管新生、嫌気性解糖などを亢進させ、酸素依存性に活性(HIF非活性化)を持つHIF-PHに発言調節をうけています。リコメンデーション(1)では鉄の管理が強調されていました。HIF-PH阻害薬投与中はフェリチン<100ng/mlまたはTSAT<20%になれば血栓症リスクを避けるため速やかな鉄補充が推奨されています。他に悪性腫瘍、網膜病変をチェックすること、肺高血圧症発症に注意することも挙げられています。

慢性腎臓病CKDは慢性低酸素状態に置かれていてそれに対するHIF活性化が不十分である可能性がある(2)ことからHIF-PH阻害薬に腎保護効果があるか興味あるところですが HIF活性化はタイミング、期間、部位によっては逆に線維化を促進する報告もあり今後の検討課題です(2)。

おおはしクリニック糖尿病においては腎臓以外、網膜、膵島、脂肪組織、皮膚、創傷組織が低酸素状態に置かれHIFを介した低酸素への適応応答が障害されて細胞機能不全を起こし糖尿病、糖尿病合併症の一因になると考えられていますが機序は十分わかっていません。しかし高血糖と脂肪酸の役割が想定されています(3)。
糖尿病合併症分野では足潰瘍にHIF活性化作用のある外用剤治験が進行中である他、2型糖尿病モデルラット心虚血回復に対してHIF-PH阻害薬が有効、早期網膜症では増殖性網膜症とは反対にHIFが保護的に作用、HIF-PH阻害が動物実験で末梢神経障害や認知機能向上ということなどが報告されています(3)。
糖尿病の成因に関与するか、インスリン分泌(膵島)、インスリン感受性(脂肪組織)に対する影響にも関心は集まっていますがいずれにおいても相反する実験結果がありまだこれからです (3)。

おおはしクリニック昨日より第64回日本糖尿病学会年次学術集会がWeb開催されていますが、HIFと脂肪組織、腎との関係について話題がありました。2019年ノーベル賞にまつわる話も聞けました。HIF-PH阻害は腎性貧血治療面以外にも興味をもたれていることがわかりました。学会については6月にもう一度参加報告予定です。

参考文献
  1. 日本腎臓学会:HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation. 2020年9月29日版
  2. 倉田 遊 ら:PHD阻害薬 腎性貧血治療薬としての開発状況ならびに低酸素に対する腎保護薬としての期待. 日腎会誌 61(4): 490-498, 2019
  3. Catrina SB, Zheng X:糖尿病とその合併症における低酸素と低酸素誘導因子. Diabetologia 64: 709-716, 2021
2021年5月

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