今月の糖尿病ニュース

2021年4月の糖尿病ニュース

膵疾患とType 3c糖尿病

おおはしクリニック2016年6月にType3c糖尿病(膵外分泌腺疾患に伴う糖尿病)につき少し触れましたが、改めて調べてみました。2016~7年の総説(1)(2)から要旨です。

Type3c糖尿病の原因;慢性膵炎79% 膵癌8% ヘモクロマトーシス7% 嚢胞性繊維症
慢性膵炎の最大80%、膵癌の50%にType3c糖尿病
Type3c糖尿病の頻度;全糖尿病の4~5%
慢性膵炎に続発する糖尿病;25~80%に糖尿病合併 β細胞脱落まえに炎症、サイトカイン濃度上昇 外分泌腺の線維化が徐々に膵島破壊
肝インスリン抵抗性:PP(膵ポリペプチド)は肝インスリンレセプター発現調節 チアゾリディンダイオンによってNF-κB阻害すると肝インスリン抵抗性改善するがNF-κBは慢性膵炎でも活性化されている
膵癌に続発する糖尿病;画像診断上腫瘤が検出されない糖尿病罹病期間平均は13ヶ月である。2cm以下の膵癌の60%には耐糖能異常がある。切除可能膵癌の半数以上に糖尿病がある。従って腫瘍浸潤、膵管閉塞、膵島破壊による発症説は証拠不十分である。75~88%は新規発症糖尿病である。膵切除により多くの新規発症糖尿病は改善または治癒する。
高血糖機序:パラネオプラスティック効果が示唆される。インスリン抵抗性も関与。癌細胞セルライン上清はインスリン分泌を抑制し、アドレノメデュリンが介在するという報告がある。アディポカイン病因説もありリポカリン2が代表である。他レプチン、アディポネクチンにも関心が集まっている。その他S100A8/A9 MMP9関与の方向がある。臨床的には糖尿病発症時の体重減少が重要である。治療は慢性膵炎、膵癌ともにメトホルミンが推奨されている。

おおはしクリニック自己免疫性膵炎について(3)からの抜粋です。
自己免疫性膵炎(AIP)の66.5%に糖尿病の合併し、そのうち33.3%がAIP発症以前から、51.6%がAIP発症と同時に、14%がステロイド治療後に発症している。発症時に糖尿病のあった症例の49%はインスリン治療が必要だった。 糖尿病発症機序は膵外分泌腺の線維化に伴う血流障害と炎症波及によるランゲルハンス島障害である。
ステロイド治療により25~45%に耐糖能の改善を認めた。改善率はAIPと同時発症の糖尿病において高い。ステロイド治療により膵内外分泌機能が改善するのは、炎症細胞浸潤および線維芽細胞の消退による酵素分泌の改善、膵管狭細化に基づく膵液流出障害の改善、さらに膵局所のサイトカイン産生抑制によりランゲルハンス島 の再生が生じる可能性が考えられている。AIPの多くはステロイド治療で改善するが、再燃を繰り返す症例ではいわゆる慢性膵炎へ移行するという報告や、ステロイド治療後に膵萎縮をきたす症例も少なくない。一方、2型糖尿病の既往がある症例の75%がステロイド治療で糖尿病は悪化しており、耐糖能の改善を認めた症例は無かったという報告がある。
AIPと膵癌が関連あるとするだけの十分な科学的根拠はない。

おおはしクリニック膵嚢胞性腫瘍には膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞腫瘍などがありIPMNが最も頻度が高いです(4)。
IPMNについて(1)では特に記載がありませんが耐糖能との関係について少し調べてみました。IPMNでは耐糖能異常が多いこと、切除例では組織異形成が強いほど糖尿病発症リスクが高いこと、肥満例で切除後糖尿病発症が多いこと、膵切除量残存量は糖尿病リスクと相関しないことなどが報告されていますがまだデータの集積が必要としています(5)。
膵癌高リスク集団でHbA1cが高いと膵嚢胞性病変頻度が高いという報告もありました(6)。
IPMN経過観察中の患者さんは糖尿病クリニックにも多数おられますが、消化器科との連携において注意する点と思われます。

参考文献
  1. Hart PAら:慢性膵炎と膵癌に続発するType3c糖尿病(膵性糖尿病). Lancet Gastroenterol Hepatol 1(3): 2r26-237, November 2016
  2. Andersen DKら:糖尿病、膵性糖尿病と膵癌. Diabetes 66: 1103-1110, May 2017
  3. 日本膵臓学会 IgG4関連疾患の診断基準並びに治療指針を目指す研究班:自己免疫性膵炎臨床ガイドライン2020(案)
  4. 国立がん研究センター東病院Webサイト;ncc.go.jp
  5. Leal JNら:IPMN切除後と経過観察例における糖尿病リスク. J Gastrointest Surg 19: 1974-1981, November 2015
  6. Bar-Mashiah A:高リスク膵サーベイランスプログラムにおいてHbA1c上昇は膵嚢胞存在と関連がある. BMC Gastroenterology 20: 161-167, 2020
2021年4月

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