今月の糖尿病ニュース

2021年3月の糖尿病ニュース

糖尿病と遺伝学

今回Web開催の「第55回糖尿病学の進歩」にて遺伝につき多数講演を聴くことができたので若年発症成人型糖尿病(MODY)文献とあわせ御報告します。

おおはしクリニックシンポジウム札幌医大櫻井先生のオーバービューではこの20年に相当進歩した領域で全遺伝子解析にかかる費用と時間が大幅に短縮されたこと(数千億円10年以上から10万円数日)、候補(例えば鍵になる酵素などの)遺伝子アプローチはうまく行かず患者、非患者の全遺伝子を比較し疾患感受性多型(SNP)を検出する全ゲノム関連解析(GWAS)の貢献が大きいこと、遺伝力(率)と乖離が残る「失われた遺伝率」の問題など大変わかりやすく解説されました。遺伝力とは遺伝で何割ほど説明つくかの指標で例えば身長は約0.8(80%)だそうです。2015年米国オバマ大統領がPrecision Medicine Initiative(その後個別医療推進は2018年になりアメリカ糖尿病学会学術会議のキーワードになっていた記憶があります。今年4月には米国・欧州糖尿病学会共催でPrecision Diabetes Medicine2021という学会も開かれるようです)を宣言してデータバンクの規模が拡大しpolygenic (risk)score(PRS多遺伝子リスクスコア:遺伝子変異の加重平均)が注目されています。現在GWASは人口比16%ほどの欧州系データが80%を占め日本人データはまだ少なく収集のため東北メディカルメガバンクなどが設立されています。同施設のひとつIMM副機構長兼任清水先生からはHbA1c感受性多型によりグリコアルブミンとHbA1cの関係性(グリケーションギャップ)が予測できること、遺伝子多型により飲酒量と肝機能検査異常の関係が異なること、PRSを用いた疾患発症リスク予測により脳梗塞高疾患感受性のものは糖尿病、高血圧、喫煙などのコントロールをより強化する必要があること、前向きコホートで検証が必要なこと(例えば野菜果物摂取は少なくても心血管障害低リスク遺伝子保持者では影響が少ないことがフィンランドで検証された)など説明がありました。エピゲノム研究、microRNAについても講演がありました。

おおはしクリニックMODYは上記と異なり、膵β細胞インスリン分泌に関する原因遺伝子が同定されているもの一つ(他ミトコンドリア糖尿病など)で糖尿病全体の1~2%を占めます。シンポジウムでは疑った場合家族は問診のみならず検査で確認すること、遺伝子検査の推進が東京女子医大岩崎先生より強調されました。なぜなら1型と診断されているケースも多く(50年以上インスリン治療を受けている人の7.9%がMODYだったという論文が紹介されました)、MODYならSU剤が有効なことが多い(第一選択)などが理由です。SUで低血糖をおこす場合、無効な場合のグリニド、DPP4阻害剤、GLP-1受容体作動薬の使い方も示されました。
文献ではまずMODY1、2、3は古い呼称のためそれぞれHNF4A、GCK、HNF1Aと呼びこの3種に絞って解説しています。 MODYが疑わしい場合自己抗体3種(GADA、IA-2A、ZnT8)陰性を確認すること、参考所見として発症3~5年経過していても空腹時Cペプチドが0.6ng/ml以上(血糖72mg/dl以上)、高感度CRP(高値HNF4A、低値HNF1A示唆)そして講演でも紹介のあったClinical Risk Calculator>25%PPV、食後尿中Cペプチド・クレアチニン比0.2nmol/mmol以上をアルゴリズムにして提唱しています。 それぞれの特徴を列記します。 HNF4A:新生児期高インスリン性低血糖。SU剤が第一選択だが二次無効となりGLP-1受容体作動薬またはインスリンが必要となる。GLP-1受容体作動薬はHNF1Aと同様SU剤の代替として有望だが臨床研究は行われていない。

GCK:空腹時高血糖だが食事運動療法でコントロール可能。合併症が出ないというエビデンスが強いのでA1c7%を越えても血糖降下剤治療を行わない。妊娠時にはインスリン使用する児がGCK変異を持つか否かで使い方が異なる。SGLT2阻害剤は正常血糖糖尿病性ケトアシドーシスのリスクに注意。

おおはしクリニックHNF1A:尿糖排泄閾値120mg/dl 少量SU剤またはグリニドが第一選択 ほかにGLP-1受容体作動薬、DPP4阻害剤、インスリン。SGLT2阻害剤は脱水と糖尿病性ケトアシドーシスのため効果よりリスクが上回るという報告がある。2型糖尿病と同等の心血管系疾患リスクがありGLP-1受容体作動薬は有望で追加併用のみならず第一選択として適応が検討されている。

参考文献
  1. Broome DTら:単一遺伝子性糖尿病MODY患者へのアプローチ. J Clin Endocrinol Metab 106: 237-250, No. 1 2021
2021年3月

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