今月の糖尿病ニュース

2021年2月の糖尿病ニュース

中鎖脂肪酸と糖代謝

今までココナッツオイル、バターコーヒーなど中鎖脂肪酸(MCFA)について患者さんの話には時々耳にしていましたが、今回Diabetes誌に関連論文(1)を見つけ糖脂質代謝疾患食事のガイドラインに取り入れてもよいのではと提言まであるので調べてみました。以下(1)の要旨ですが一般事項はWebサイト「日清オイリオMCTサロン」にも詳しく説明されていました(臨床現場では40年以上前から利用されていること、認知症への効果期待、摂り方などの記事もあります)。

おおはしクリニック何十年もの間飽和脂肪酸は一般にインスリン感受性、心血管健康に有害と考えられてきたが近年炭素原子数(C)6~12個で中等度の長さであるMCFAが代謝研究において注目されている。ココナッツオイルや合成100%中鎖脂肪酸油(MCT)中のほかMCFAは牛乳・母乳に含まれる脂肪酸中15~28%を占め、パーム核油に豊富に含まれる。パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)など飽和長鎖脂肪酸(LCFA)は主として動物性脂肪と乳製品に含まれる。従って乳製品はMCFAとLCFA両方の供給源である。
脂肪親和性が低いためMCFA は腸管吸収後基本的に門脈に入るので、カイロミクロンに取り込まれリンパ管吸収経由のLCFAと対照的である。そのためMCFAを含んだ油(トリアシルグリセロール)は血中中性脂肪が上がりにくい。ほとんど肝で代謝されるが多量(総エネルギーの40%)に摂ると最大17%が循環血中に到達する。
MCFAはカルニチン輸送システムと無関係にミトコンドリアに入ると考えられる。筋のみならず肝でも同様である。ヒトではMCFAはLCFAより酸化されやすい。マウスまたはラットにココナッツオイルまたはMCTに富む餌を4~12週間与えると飽和または不飽和LCFAに富む餌がインスリン抵抗性を引き起こしたのと対照的に耐糖能、インスリン感受性は保たれた。MCFAは高カロリー状態、大量脂肪酸環境下でも糖恒常性を守る効果があることを意味する。MCFAは骨格筋においてミトコンドリア酸化容量増加もマウスで報告されている。14年間のヒト前向き研究でMCFAが2型糖尿病発症リスクを低くしたという報告はあるもののヒト糖恒常性に対するMCFAの介入試験は少なく、また基盤となる生理学的および分子的機序を調べた研究はないので今回の実験を行った。
方法;平均23才健常非肥満男性17名に平均約3000kcal /日の通常食(CON:24%脂質由来)を8日間、3週間後再度5日間CON摂取後、3日間平均約5100kcal/日の高カロリー高脂肪食(LCSFA:82%脂質由来、450g脂質)をランダム化した8名に、残り9名には30gのみLCFAをMCFAに置き換えた食餌(MCSFA)を与え高インスリン正常血糖クランプ(トレーサー併用にて内因性糖産生EGPも測定)、間接カロリメトリー、筋生検等で評価した。
結果;LCSFA により空腹時血糖、インスリン濃度、HOMA-Rは増加したが、MCSFAでは変化なかった。両者とも総コレステロール、LDLは不変、TGは低下、HDLは増加した。血中TNF-αはLCSFAのみ増加した。グルコース注入率(GIR=インスリン感受性指標)Rd(骨格筋糖取り込み率)、インスリン刺激下肢糖取り込みはLCSFAのみ低下(17%)した。EGPは基礎、(インスリン)クランプ下とも不変だった。
呼吸交換比RER(糖に比し脂肪酸酸化比率が増えると低下)はLCSFAでクランプ下低下、MCSFAで基礎、クランプ下とも低下した。インスリン負荷に対するRER増加はLCSFAで低下したがMCSFAは不変だった。糖酸化はクランプ下で両者とも低下した。非酸化糖処理(NOGD)はMCSFAで20%増加したが、LCSFAは下がる傾向だった(-20%)。これがMCSFAによる糖処理維持に貢献したものと考えられる。MCSFAでは筋グリコーゲン含量低下、基礎、クランプ下ともグリコーゲン合成酵素(GS)活性上昇したがLCSFAでは認められなかった。PDE活性はLCSFA、MCSFAともに低下したがTCA回路へのアセチルCoA供給が解糖由来でなく脂肪酸β酸化を主としていることの裏付けになる。しかしMCSFAでは乳酸の筋静脈動脈較差が42%増加しており解糖系は維持されていると思われる。インスリンによるAKTセリンリン酸化は変化なくLCSFAの糖処理減少をインスリン近位シグナル障害では説明できない。

おおはしクリニック考察として1989年の論文を、肥満2型糖尿病でも非肥満非糖尿病以上にMCFAは全身インスリン感受性を上げた、食餌カロリーは通常で40%脂質かつ脂質中77%がMCFAだったと紹介しています。基礎状態の脂肪酸酸化亢進もクランプ下でのRER増加(糖酸化亢進)もCONやLCSFAより顕著なMCSFAを糖代謝柔軟性(metabolic flexibility)を維持していると提案しています。NOGD増加作用についてグリコーゲン合成、解糖系ともに増加しているが基礎状態で筋グリコーゲンが枯渇傾向なのはなぜか?今回基礎代謝は変化せず同様の既報もあるが、視床下部プロオピオメラノコルチン(POMC)ニューロンを介する空腹時エネルギー消費増加がげっ歯類において急性MCFA負荷下報告されているので、炭水化物摂取が少なかったこととあわせ関与した可能性に言及しています。
またLCSFAのインスリン作用低下については摂取カロリーが増えなければ起きないこと、機序はGLUT4または細胞膜関連における糖とりこみ段階が示唆されることも書かれています。
今後の研究進展が楽しみです。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Lundsgaard AMら:少量のMCFA摂取はヒトカロリー過剰状態におけるインスリン抵抗性から防御する. Diabetes 70: 91-98, January 2021
2021年2月

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