今月の糖尿病ニュース

2020年10月の糖尿病ニュース

ロービジョンケア/減量・代謝改善手術

おおはしクリニック前半は看護師長音喜多が担当します。
9月19~20日第25回日本糖尿病教育・看護学会学術集会 ~患者に寄り添う「合併症を予防する」支援と「合併症を持ちつつ生きる人」への支援~ が開催されました。今年は初めてWEB開催されライブとオンデマンド配信があり当日聞き逃してもその後1週間好きな時間に視聴できる為私にとっては有り難く聴講出来ました。

特別講演、教育講演、シンポジウム交流集会、一般演題、ランチョンセミナー、交流会などがありました。
特別講演の皆藤章先生の「病を得て生きるということ」では、病気と病(やまい)は違う、 病とは患うことの痛みである、病の体験に向き合い体験され直す事が出来る、と結核、水俣病の体験を主体的に生きている人の話や、ハンセン病のため世間と隔絶した人生を送りながらソウルメイキング(魂を作っていく)した人を例に話されました。私も看護学生時代実習中ハンセン病の方達が近所にこっそり帰っていかれる光景を目の当たりにしたのでそれを思い出しました。 変わらなければ路傍の人、人との関わりが生を綴り生き甲斐になる、と普段と違う思いを膨らませると話された事が印象的でした。

ロービジョンケアという言葉をシンポジウム3、ランチョンセミナー6、一般演題で何度も耳にしました。今まで勉強する機会に恵まれませんでしたがクリニックの毎日に欠かせないことと膝を叩きました。
ロービジョンケアは視覚に障害を持ち生活に何らかの支障を来している人に対するすべての支援の総称で最近は視覚障害者に対するリハビリと位置づけ、眼科医療の一環になっています。 当クリニックは内科ですが、高齢化に伴う罹病期間の長期化とそれによる網膜症進行、若年・中年層の極端な血糖コントロール不良による網膜症発症、その視力障害から就業困難になったり身体障害者手帳交付を受けたりする患者さんに対してどう向き合うか悩むことが少なからずあります。視覚障害と上手く付き合いながら暮らしていく為の情報を本人が入手しづらい現状、スタッフも視覚障害の生活支援に関する情報の入手困難な現状はこれに拍車をかけます。 「釣りをしても、うきが見えへんから行っても楽しみがない」
「インターネットでゲーム出来なくなったから楽しみがない」
「読み聞かせを希望して役所に問い合わせるもコロナ禍で今は出来ないといわれた」
「何処にも一人で行けない」
「仕事が出来なくなった、クリニックに通院できなくなったらどうしよう」

しかし一方で配偶者が付き添い大好きなとんかつを食べに電車で出かけるようになったケース、家にこもりがちだったが社会資源を活用しヘルパーさんとのおしゃべりタイムができたケースもありました。何かよい解決法はないか?
しらべてみると視覚補助具、音声機、音声時計、ユニバーサル財布 拡大読書器、携帯型の文字拡大機、パソコン文書音声読み上げソフト、両面読み上げソフトなど候補は見つかりました。視覚障害者同士の情報交換も大事でしょう。
ロービジョン外来を開設している近隣眼科受診を勧めていく事も勿論です。
患者さんは「これがしたい」ということが見つかればケアに前向きになれるので支援の必要性を学ぶ事が出来ました。視覚障害と向き合えるように同調やときには励まし、社会的諸問題に寄り添い環境面のサポートを始めようと思います。
今年6月開催されたNEXTビジョン行間セミナーももう一度見直してみたいです。

もうひとつは持続血糖測定器リブレの話題です。交流会で「曲線を読もう!~5分・15分・30分で出来る療養支援(FGM編)」が提案されていましたが、クリニックで始めている曲線(AGP)を活用した療養支援と内容は同じなので、ダウンロードしてみるよう患者さんに勧めようと思います。これを機会に勉強会を始め今後栄養士さんも含め全スタッフでより良いリブレ支援を目指して苦手意識を克服し場数を踏み、頑張っていきたいと思います。

おおはしクリニック後半は院長大橋が担当します。今年のJDS(第63回日本糖尿病学会年次学術集会)は残念ながら5月滋賀で開催されず10月5~16日WEB開催となりました。あれもこれもと多くの講演を聴くことができましたが先月からヨーロッパ糖尿病学会、糖尿病学の進歩と同じ調子でやや消化不良気味です。メモ程度ですが以下私の印象に残ったものです。
まず緊急特別シンポジウムですが「COVID-19の治療と院内感染防御対策」は大曲 貴夫先生が演者でした。重症化予測因子の研究と実用化に向けた動きは医療体制効率化の切り札になるのでしょうか。
シンポジウム1(S1)糖尿病診療における循環器疾患の捉え方~基礎から臨床まで~;
香川大学西山 成先生「塩と病態生理・ミネラルコルチコイド受容体(MR)阻害薬」:心不全と蛋白尿にもMRが関与しMR阻害剤が有用なことのほか、原発性アルドステロン症副腎摘出術後に血圧と皮膚ナトリウムイオン蓄積は正常化するが体液量は不変なこと、塩を摂ると尿素サイクル(水再吸収促進)を回すため蛋白嗜好が増すことなど興味のある話もありました。香川大学薬理学教室ホームページにわかりやすい解説がありました。
S6 肥満症診療の最前線・肥満2型糖尿病と減量・代謝改善手術;
日本肥満外科治療の実態調査J-SMART研究では効果不良例の背景調査が行われ精神心理、小児期から成人期へのトランジションの問題がわかったそうです。日本で保険適応になっているのは摂食制限手術であるスリーブ状胃切除術のみですが、欧米では吸収抑制付加手術であるバイパス手術が主流です。術式の違いで鍵になるのは胆汁(血中胆汁酸濃度)で、例えば十二指腸空腸バイパス術において胆膵脚は空腸上部につなぐより回腸下部につなぐほうが糖尿病改善効果は強いことがわかりました。従って重症例にはバイパス術導入が検討されています。合併症に対する効果は例えば腎症では早期腎症(アルブミン尿レベル)で効果が高いことがわかり早期からの介入必要性が示唆されています。さかえ2020年11月号でも肥満外科手術療法の特集が組まれています。かなり具体的な内容で現在進行中の軽度肥満若年(40才以下BMI27.5以上35.0未満)発症2型糖尿病に対する外科治療と内科治療のランダム化比較試験BISTRO-DM Studyが紹介されています。
S7 糖尿病に関する遠隔医療の展開;オンライン診療につき意義、問題点を学びました。糖尿病領域では若者通院中断防止手段などに有用ではないかとする一方、大変労力とコストがかかるので診療報酬の議論は避けて通れないことも強調されました。

おおはしクリニック会長講演は最終日(23時59分までとは視聴開始時間だったようです)に聴きました。基礎研究と臨床研究両面(“縦糸と横糸”)から研究を進めて行くこととはこういうことかと教わりました。滋賀医大アジア疫学研究センター上島弘嗣先生の「コホート共同研究の実践とその成果」もあわせて聖地?滋賀県で聴けなかったことが少し残念でした。




2020年10月

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