今月の糖尿病ニュース

2020年9月の糖尿病ニュース

第54回糖尿病学の進歩;過食、不規則食の問題点を基礎から

おおはしクリニック糖尿病学の進歩は日本糖尿病学会主催する教育講演会です。今年はWEB開催でしたが日頃敷居の高い基礎医学の話を効率よく習得できました。論文未発表のデータも提示されていたので詳細な内容引用は控えますが、簡単に「参加報告」させていただきます。
琉球大 益崎裕章先生の“運動療法のサイエンス・エビデンス・プラクティス”では肥満による運動意欲減退と神経性食思不振症における活動性との違いは報酬系とレプチン(前者高後者低)で説明でき、前者では「もう餌をさがさなくてもよい」と脳が感じていること(演者が提示されていたかもしれませんが一応筆者が探した関連文献Cell Metab.2015;22:741-9 )、運動により筋より分泌されるBAIBAは白色脂肪細胞の褐色化以外、骨芽細胞保護作用があること(同Cell Rep.2018 Feb 06;22(6):1531-1544)、エピゲノム(運動により精子遺伝子メチル化変化)により父親の運動が子孫の糖代謝改善につながること「子供を作る前に運動を」(同Diabetes 2018 Dec;67:2530-2540)などReviewされたほか、玄米とガンマオリザノールについても知見を述べられました。またマラソンランナーでは腸内細菌叢が変化し(ベイロネラ増)乳酸をプロピオン酸に代謝するという報告も紹介され、今後の研究発展が楽しみです。

久留米大学 野村政壽先生の“糖尿病の病態形成におけるミトコンドリアダイナミクス”では(今更人に聞けない?)基本事項から最新データまで解説して頂き以前から曖昧だったミトコンドリアの知識が整理されました。
核ゲノムはDNA修復によって品質管理されるがミトコンドリアゲノムはミトコンドリアダイナミクス;分裂(Fission;Drp1による調節)、融合(Fusion;Mfn1/2 OPA1による調節)、 オートファジー(Mitophagyとも呼ばれる)によって品質管理されること、
ミトコンドリア分裂が障害されると膵では高血糖応答インスリン分泌障害がおこること、血管プラーク形成、肝繊維化・炎症にもミトコンドリアダイナミクスが関与することなどです。最後にこれらの知見を日常診療にフィードバックすること、即ち、
過栄養状態ではATP産生増加と同時に活性酸素も増加しミトコンドリア損傷がおこるので夜間は絶食にしてミトファジーを促進し健全なミトコンドリアを再生(ちなみにミトファジーにより発生したアミノ酸は糖新生に利用)させることがインスリン分泌を保つために重要だということです。

群馬大学 藤谷与士夫先生の“糖尿病発症予防にかかわる膵β細胞恒常性維持機構の基礎知識”ではオートファジーについてレクチャーがありました。オートファジーは大隅義典先生がノーベル賞を受賞されよく知られるようになりました。以下メモです。
細胞内老化蛋白質蓄積に対する防御システムとしてユビキチン・プロテアソーム系とオートファジーがあり、後者がより強力である。例えばオートファジーに必要なAtg7欠損マウスにおいて、(オートファジーがうまくいくと減る)p62蓄積ともに耐糖能異常、β細胞空砲化がみられる。ミトコンドリア障害からATP産生低下し、高脂肪食負荷で代償性β細胞容積増加認められない。人でも2型糖尿病ではp62が増加している。新規オートファジーエンハンサー開発研究が精力的に進められている。
β細胞糖毒性、脂肪毒性についてDiabetes誌2020年3月号(P273-278)Weir GC先生の論文があったので少し読んでみると糖毒性の概念は概ね確立しているが脂肪毒性または糖脂肪毒性についてはまだ議論が多いとのことでした。セラマイドやミトコンドリアについて言及がありました。

おおはしクリニック世話人特別企画“健康長寿を目指した糖尿病および合併症に対する新規治療への展望
~基礎研究から臨床への架け橋~“
も大変興味深く拝聴しました。
京都府立医大 八木田和弘先生の“概日リズム錯乱がもたらす病態”では
リバーストランスレーショナルという研究手法により体内時計の慢性的同調不全から免疫異常を同定した話がありました。体内時計研究の現状がよくわかりました。

滋賀医大 久米真司先生の“腎臓が制御する健康寿命のメカニズム”では カロリー制限のメリットについて、またデメリットである白筋機能低下には非必須アミノ酸補充が妥当であること、ケトン体利用が腎機能改善効果に重要であることなどをわかりやすく解説されました。

以上演者の先生にご迷惑にならないよう努めて書いたつもりですが、お礼とともに万が一誤りがあればお詫び申し上げます。

2020年9月

>>糖尿病ニュースバックナンバーはこちらから

▲ ページ先頭へ