今月の糖尿病ニュース

2020年8月の糖尿病ニュース

1型糖尿病と若年発症2型糖尿病臨床研究

おおはしクリニック1型糖尿病、若年発症2型糖尿病の臨床研究(特に前向き研究)について前者は被検者の数が少ないこと、後者は多忙で参加協力を得にくいことなどの理由で難しいと聞いたことがあります。
また運動療法の研究は月~年単位の期間、監視下で行おうとすると被検者が好きなスポーツもできないなど制約を受けるので集まりにくいのではと思います。
アメリカ糖尿病学会誌Diabetes Care8・9月号では糖尿病に特化した新型コロナウイルス感染症関連がホットトピックですが、その意味で1型糖尿病の運動療法前向き研究、若年発症2型糖尿病の腎・心血管系予後研究に注目しました。

高強度インターバルトレーニング(HIIT)は高強度と低~中強度の運動の運動を交互に繰り返す方法で、一般にも脂肪燃焼効果、心肺機能向上効果、筋トレ効果が知られていますが、
1型糖尿病へ適用した場合低血糖軽減効果が報告され安心して運動できることからHbA1c改善効果も期待されています(1)。しかしランダム化対照試験の既報はなく今回初めて行われました(1)。男女135人がスクリーンにかけられ1型の確認、年齢、BMI、罹病歴、日常運動量などの条件を満たさない人105人が除外され、残った30名(平均40才台前半)も8名が計24週間試験中HIIT割付期間に低血糖、足のケガ、時間が無くなった、別の病気罹患などでドロップアウトしました。HIITメニューは4分高強度3分リカバリー3セット、週3回12週で、平均運動実施率は67%でした。45%は家庭内実施、HITT実施24人中7人は目標HR未到達でした。一方対照群の運動量指示はなく実施状況記載もありません。いかにも実施に困難を極めたような研究経過ですが結果は以下の通りです。
HbA1cはHIITにより-0.54%有意に低下するも対照(-0.14%)とは有意差なし。
HIITによりブルースプロトコール時間、レッグプレス改善するも最大酸素摂取量は不変、いずれも対照と有意差なし。注目の低血糖はリブレで評価、HIITにより低血糖時間は4.8から5.9%に有意な変化なかったが対照(6.5から10.5%へ有意に増加)とは有意差なし。
感想としてHITTを1型糖尿病の人に禁止する大きな理由はなく有効性も期待されますが循環器系合併症、ケガには注意が必要と思われました。また運動時間外SMBGに基づく補食・インスリン調節について論文中記載はないので方法確認が必要です。
1型糖尿病運動療法低血糖予防については果糖摂取の有効性確認(2)、内因性糖産生調節機序(3)臨床研究も行われました。詳細は省略しますがインスリン血中濃度は低め、正常血糖~やや高血糖領域での運動が勧められています。果糖はどのような形で摂るか、注意点など情報を集めたいです。

おおはしクリニック10~30才台に2型糖尿病発症すると、末期腎疾患(ESKD)から透析治療を受ける確率が高いか?もし高いとすれば罹病期間が長くなる、例えば50才台の時点で20年ほど糖尿病歴があるからなのか?それとも糖尿病の背景因子(例えばインスリン抵抗性因子など)が独立して腎疾患を促進するのか?
以上の疑問を背景にオーストラリアの行政データベース解析が行われました。ESKD絶対数はさほど多くないため登録人数は100万人規模です。2002年から2013年の間ESKDは7592例発生し993例は2型糖尿病40才未満発症(以下YY)、1747例は同40才台発症(以下Y)でした。ESKD発症までの年数は全体で12.1年、YYで16.3~18.4年、Yで14.8年でした。以上よりYYやYでESKDが多いのは長い罹病期間が主因、高齢発症のほうがESKDまでの罹患期間が短いのは糖尿病以外の因子(老化?)が絡んでいるからと考察しています。
過去に同様の研究はYYを対象から除外しているものもあり今後はこの層の研究も進めて行く必要があると思われました。

おおはしクリニックもうひとつ、若年発症2型糖尿病の心血管疾患発症、または心血管死リスクのデータは少なく対策も遅れているとして(5)の研究が行われました。2000~2017年に2型糖尿病と診断された370854名の解析ですが18~39才、40才台の人はそれぞれ8%、15%でした。平均6.4年間のフォローアップ中、心血管疾患発症はそれぞれ7.1(1000人・年)、15.3(同)、すべての原因による死亡は2.5(1000人・年)、4.8(同)でした。他の年齢層に比しHbA1c、BMI、LDL、TGが有意に高値、服薬数は低い傾向でした。また通常適用されるリスクファクターは18~39才以下に当てはめると他の年齢層に比し予後予測能低下が指摘されています。
著者らによると若年発症2型糖尿病は心血管疾患高リスクグループと考えられ、前向き試験(prospective study)により重点的リスクファクター管理と心保護治療につきガイドライン再検証が急務としています。

参考文献
  1. Lee ASら:過体重または肥満1型糖尿病成人における高強度インターバルトレーニング(HIIT)の血糖コントロールに対する効果:部分的クロスオーバーランダム化対照試験. Diabetes Care 43: 2281-2288, September 2020
  2. Kosinski Cら:超持効型基礎インスリン使用中成人1型糖尿病において1回の果糖摂取が運動誘発低血糖リスクを軽減する:ランダム化非盲検クロスオーバー原理証明試験. Diabetes Care 43: 2010-2016, September 2020
  3. Romeres D, Basu Rら:高血糖、しかし高インスリン血症ではない状態が1型糖尿病の運動には望ましい:予備研究. Diabetes Care 43: 2176-2182, September 2020
  4. Morton JIら: 2型糖尿病発症年齢と末期腎疾患長期リスク:国家登録研究. Diabetes Care 43: 1788-1795, August 2020
  5. Koye DN, Khunti Kら:若年発症2型糖尿病大血管障害と死亡リスク現在の傾向:英国プライマリーケア電子医療記録研究. Diabetes Care 43: 2208-2216, September 2020
2020年8月

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