今月の糖尿病ニュース

2020年7月の糖尿病ニュース

メトホルミン 運動 ミトコンドリア

おおはしクリニックメトホルミンは欧米(ADA/EASD)では糖尿病治療第一選択薬として長年君臨している薬です。最近では抗癌、抗老化作用も期待され研究も進められています。またこのニュースでも2016年にフォーカスをあてた腸管での作用も大変興味深いものです。先日米国糖尿病学会(ADA)会議ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)への効果まで報告(1883-P)され驚きました。安価で副作用も少なく良い事ずくめでしばしばミラクルドラッグ、ワンダードラッグとも形容されますが、ご存知のように2019年欧州心臓病学会(ESC)と欧州糖尿病学会は共同で糖尿病、耐糖能異常、心血管疾患に関する診療ガイドラインを改定発表しメトホルミン優先順位を一部変更しました。心血管疾患既往があるか、または心血管疾患リスク高度の患者にはSGLT2阻害剤またはGLP-1アナログ製剤を第一選択とするものです。
ADA会議でディベートがあったのでまとめてみます。Leicester大学のMelanie Davies先生がメトホルミン第一選択派、Karolinska大学の心臓専門医Francesco Cosentino 先生
がESC支持派です。

メトホルミンは1998年発表UKPDS34にて心血管疾患イベント・死亡率抑制、2019年Han Yらのメタアナリシス(Cardiovascular Diabetology18:96)にて心血管死亡率、総死亡率、心血管イベント発生率補正HRをそれぞれ0.81、0.67、0.83に抑制等のエビデンスがありますが、UKPDSは心血管疾患既往のない人が対象であること、SGLT2阻害剤またはGLP-1アナログ製剤との直接比較試験がないこと、心血管疾患をエンドポイントとしたプラセボ対照試験がないことなど弱点も指摘されています。
メトホルミンを併用せずSGLT2阻害剤またはGLP-1アナログ製剤を使用すると心血管疾患メリットが落ちるかどうかも大事なポイントですが、DPP4阻害剤のようなメトホルミン併用メリット(Crowley MJ, Diabetes Obes Metab 2018)は提示されませんでした。SGLT2阻害剤とメトホルミンはAMPKを介する作用が共通であることが影響しているかもしれないと述べられました。
血糖コントロール中心説についても議論されました。メトホルミンを内服して血糖コントロールがよくなった場合でもSGLT2阻害剤またはGLP-1アナログ製剤を追加投与すべきかどうか?ADA/EASDも最新版では考慮すると改訂していますが未決着です。

おおはしクリニック心血管疾患予防には運動療法が欠かせませんがDiabetologia最新号(8月号)に総説(1)(2)が出ました。アスリートと肥満者、2型糖尿病など代謝の低下した人を比較すると筋において脂肪滴の大きさ、ミトコンドリア数、ミトコンドリアと脂肪滴のつなぎが異なり、持続運動によってアスリート型、即ち脂肪滴小型化、ミトコンドリア数増加、つなぎ増加がみられるとのことです。また古くて新しい問題、運動は食前、食後どちらがよいか? 糖尿病のない人は食前に高強度断続的運動をすればより運動能力(最大酸素摂取量、インスリン感受性)向上が期待できますが、その点糖尿病の人のデータはあまりなく、血糖値を下げるだけなら食後に低強度の運動も有効であると個別対応を勧めています。
2013年このニュースで境界型糖尿病の人が運動療法中メトホルミンを併用すると最大酸素摂取量増加、インスリン感受性改善効果が目減りする可能性を紹介しました。
メトホルミンは機序不明ですが、ミトコンドリア内電子伝達系complex-1を阻害することによりAMPKを増加させ最終的にはミトコンドリア数も増やすといわれています。
今回同様のプロトコールに筋生検を追加した研究が行われました。ミトコンドリア酸素消費量(呼吸)とミトコンドリア仕事量(数と機能の積)が調べられました(3)。生検は急性効果を避けるため最終運動、メトホルミン服用から1日以上間隔をあけ行われました。
メトホルミンを運動に併用するとミトコンドリアの酸素消費量、仕事量は共に低下しました。
糖尿病の人でも同じ現象はおこるか?運動介入をせずメトホルミン単独投与下ではどうか?など当然の疑問ですがまだデータはありません。メトホルミン量や運動量・種類別に違いがあるか?なども然りです。なおレジスタンストレーニングとメトホルミンの併用研究はすでに論文になっているようです。著者らはメトホルミンの2型糖尿病治療における位置づけに影響はないが、最大酸素摂取量向上が大きな目標の一つであるアンチエイジング手段として「健康人」に投与適応拡大するかは慎重にすべきとしています。
DPP研究中境界型糖尿病の人にメトホルミンを投与した結果を考察する際、何か関連はあるのでしょうか。

おおはしクリニック

参考文献
  1. Gemmink Aら: Exercising your fat(metabolism) into shape脂肪(代謝)を形にする:筋中心視点. Diabetologia 63:1453-1463, August 2020
  2. Savikj Mら: アスリートのように鍛える:運動介入を2型糖尿病管理に適用する. Diabetologia 63:1491-1499, August 2020
  3. Konopka AR, Miller BFら:メトホルミンは高齢者において有酸素運動トレーニングに対するミトコンドリア適合を阻害する. Aging Cell 18: e12880, 2019
2020年7月

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