今月の糖尿病ニュース

2020年6月の糖尿病ニュース

第80回米国糖尿病学会(ADA)学術集会(gone virtual)

おおはしクリニック新型コロナウイルス感染症のため6月12日~16日に予定されていたADA年次学術集会はリアルタイム仮想開催となりました。6ヶ月間オンデマンド配信もありますがライブ配信はChatもあり臨場感がでるので出来るだけ22時~8時半(シカゴ時間8時~18時半)にWEB参加しました。
全体にADAの運営は非常にスムーズ、完璧で感心しました。(広く浅くの)私にとって例年同時進行セッション間移動に10分程かかり見逃す演題も多いのですがクリックひとつで確実に迅速に出来るのが便利でした。画面もスライドとともに演者および背景が映るので表情、ボディーアクションから犬の登場まであり生会場以上に演者の個性も伝わりました。しかし受賞者講演、大規模臨床試験結果発表において会場の拍手やどよめきがないのは寂しいし、ポスター演者とのやり取りがメールだけなのはやや物足りなく感じました。企業展示もバーチャルで用意されよく目立っていたフリースタイルリブレのアボット社は新しいアプリケーションを紹介していました。

はじめにSGLT2阻害剤Erutugliflozin(日本未発売)による新規心血管アウトカム試験VERTIS-CVの結果ですが、もはや薬剤クラス効果と言えそうな心不全、CKDへの効果が示されました。その他SGLT2阻害剤関連では血糖改善効果と独立して心腎保護作用があること、糖尿病発症を抑制したことなどが報告されましたが既にWEB上にも多数記事が出ているので詳細は省略します。

全体を通して感じたのはPrecision Medicineまたは個別化推進です。
例えば網膜症にはHbA1c以外の疾患感受性因子があり、血糖コントロールと独立して網膜症になりやすい遺伝子サブタイプが抽出過程を含め紹介されました。妊娠糖尿病にはサブタイプがあり全員が将来2型糖尿病になり易いわけではないことが示されました。
食事の個別化については初日シンポジウム「どの食事が糖尿病と肥満にベストか?」、二日目ADA教育認識プログラム(ERP)「糖尿病を持つ人達の安全な文化的、精神的、治療目的の断食について臨床的考察」、三日目シンポジウム「時計を気にせよ-生活習慣病管理予防における食事時間」などがありました。臨床研究でも良い結果が出ているものの議論も多く各論は膨大になるので省略しますが初日の座長からDiabetes Spectrum(ADA機関誌季刊)最新号(1)(2)を参照してくださいと聞き読んでみました。大事なのは朝食を抜いたり断食したりする患者さんを頭から否定しないこと、低血糖予防など安全性を確保することだと思いました。今年は2005年初版「ADA/EASDコンセンサス原理を応用したラマダン時の糖尿病管理リコメンデーション」5年毎改定版が出ましたが宗教的精神的側面の重要性を説く一方、血糖降下剤のきめ細かい調節を解説し、リスクを層別化し小児1型糖尿病や妊婦2型糖尿病では絶食は行わないよう強く勧めており、ラマダン以外にも応用できるのではと思いました。
話題は替わって若者の2型糖尿病です。昨年はRISE研究発表において急速なβ細胞機能低下が報告され大きなインパクトがありましたが今年はそれに匹敵するデータには出会いませんでした。直接関係はありませんがDiRECT 研究というカロリー制限(VLCD)による2型糖尿病の寛解についてシンポジウムがあり炭水化物から肝臓で合成(de novo lipogenesis)される飽和脂肪酸(パルミチン酸)が膵に蓄積しβ細胞機能低下が進むという説(3)が紹介されました。

(1)によるとインスリン調節における脂質、たんぱく質の影響につきここ数年関心が高まっているとのことです。そこで最後にミニシンポジウム「インスリンポンプとMDI(複数回インスリン注射)における創造的な食事時ボーラス」からMDI担当Amy Hess Fischl先生の講演メモをお伝えします。
蛋白質は単独なら75gまでインスリン不要、30g以上の炭水化物と一緒なら15~20%通常単位増量、蛋白質×0.5gで炭水化物に換算してもよい。
脂質は分割注射と合計単位増量するが実臨床ではCGMを用いトライ&エラーのケースも多く典型的症例が紹介されました。
56才男性;50g脂肪/60g蛋白質/35g炭水化物→カーボ計算量を食前70%食後2H30%に分割にてCGM上フラット化
35才女性;40g脂肪/0g蛋白質/40g炭水化物→カーボ計算×1.3倍量を食前30%食後2H70%にて同様フラット化
その他高GI食(とくに朝食)では20~30分前注射、低GI食品(食物繊維)5g以上の場合 0.5×gを炭水化物から引く、シュガーアルコール5g以上の場合 0.5×gを炭水化物から引くが個人差大
1型糖尿病ではブラックコーヒーを飲むと0.5~2単位ほど要することも述べられていましたが患者さんの話を聞いてみたいです。ちなみにコーヒーは2型糖尿病予防効果があることが知られています。

おおはしクリニックDPP(Diabetes Prevention Program)は2002年に発表された境界型糖尿病から糖尿病への移行を4年間でライフスタイル介入により58%、メトホルミン内服により31%抑制した有名な研究ですが癌、認知症、心血管系疾患などアウトカムスタディーDPPOSは現在も追跡中で今回経過が報告されました。論文は未発表で、なぜかオンデマンド配信がされておらず詳細は記せませんがメトホルミン自体の効果は癌、脳卒中予防にはボーダーラインで寄与の可能性はあるものの有意差なし、心血管疾患予防、運動能力向上には中立だったとライブ配信で聴きました。治療法の如何に関わらず糖尿病にならず境界型に留まった人の予後が良好な傾向でした。途中から対照群、ライフスタイル介入群にメトホルミンが処方されることもあり評価を複雑にしていると言っていたように思います。メトホルミンはポスターでは肝癌予防効果 (1605‐P)が報告されていました。ほかにもメトホルミンへの臨床的な話題は多く次の機会にまとめたいと思います。

参考文献
  1. Urbanski Pら:栄養ガイドラインアップデートと糖尿病診療 序文. Diabetes Spectrum33: 111-112, May 2020
  2. Ganesan Kら:カロリー制限と間欠的断食:糖尿病持つ人の血糖コントロールへの影響. Diabetes Spectrum33: 143-148, May 2020
  3. Al-Mrabeh Aら:肝リポ蛋白搬出と体重減少後の2型糖尿病寛解.Cell Metabolism31: 233-249, February 04 2020
2020年6月

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