2020年4月の糖尿病ニュース
糖尿病と感染症
日々新緑が増す季節となりました。Diabetes誌今月号にはDeFronzo先生グループからの「SGLT2阻害剤による内因性糖産生機序考察」をはじめ興味ある論文が多く掲載されていますが、時節柄新型コロナウイルス感染症について考えてみました。
とは言え新型コロナウイルス感染症自体の情報は日々発信されているもののまだ諸説あり、一般的な糖尿病と感染症の関係です。糖尿病はリスクが高いといわますが、合併症なく血糖コントロール良好の患者さんでもリスクがあるかどうか、あるとすればどれぐらいか、具体的データを韓国(1)と英国(2)(3)の文献から調べてみました。
韓国の研究(1)はNHIS-NSCという全国民を対象としたデータベースから85才以下、2%無作為抽出し糖尿病(1型2型合算)合併者の感染症を9年間追跡し、性、年令、居住地をマッチングさせた糖尿病非合併者間で罹患率比(IRR)を比較しました。喫煙歴、BMIのデータはなく、また入院患者のデータのみで通院患者のデータはありません。以下結果です。
入院を要する感染症のIRRは中枢神経系6.38 肺炎2.07 カンジダ1.68 胆のう炎1.50 肝膿瘍1.76 尿路感染症2.24 一括すると2.01
これを収入、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、CKD(慢性腎臓病)で補正するとCNS8.32 肺炎1.57 カンジダ1.36 胆のう炎1.33 肝膿瘍10.13 尿路感染症1.83
肺炎はインスリン治療者、心血管疾患・CKD合併者に多い
ICU 死亡例でのIRRは中枢神経系7.21 肺炎1.66 カンジダ0.80 胆のう炎1.40 尿路感染症1.60 骨・関節6.26 敗血症3.22 蜂窩織炎以外の軟部感染症7.04
これを収入、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、CKDで補正するとCNS5.25 肺炎0.98 カンジダ0.63 胆のう炎1.09 尿路感染症1.01 骨・関節4.78 敗血症3.49 蜂窩織炎以外の軟部感染症11.75
一方英国の研究(2)(3)はCPRDというデータベースを用い2008年1月時点で1年以上通院歴のある40~89才から、2007年の処方歴などから糖尿病合併者を1型5863名、2型96630名に分けて抽出し2015年まで追跡、処方・入院を要する感染症、感染症による死亡に関して性、年令、居住地をマッチングさせた糖尿病非合併者と罹患率比(IRR)を比較しました。
生活環境の貧しさ(重複剥奪指標IMD Index of Multiple Deprivation )、喫煙歴、BMI、糖尿病罹病期間、PAF(人口寄与割合 Population Attributable risk Fraction;糖尿病がなければ、または糖尿病コントロールがよければ感染症が何%減るか 文献(3)ではAF%と表記)も調べています。
結果です。1型は2型に比し対照が若い(67.6対56.5才)ことに留意必要です。
肺炎のIRRは2型1.58 1型2.98
骨・関節感染症2型4.93 1型22.34
処方を要する感染症は2型1.47 1型1.66
入院を要する感染症は2型1.88 1型3.71
感染による死亡は2型1.92 1型7.72
年令・罹患年数層別解析から2型糖尿病入院全感染症IRRは年令とともに差縮小、罹患年数とともに差増大
PAF;糖尿病(1型2型あわせて) 入院に関して6.3% 死亡に関して12.4%
入院を要する全感染症を下記諸因子で相互補正したIRR(どんな背景のある糖尿病でリスクが高いか)、2型では、
80才以上2.85、インスリン治療1.68、環境1.40、喫煙1.58、肥満1.86、CKD1.26、心不全1.56、ステロイド内服1.96、
1型では、環境1.39、喫煙1.42、肥満(BMI>40)1.86、CKD1.94、心不全1.52、ステロイド内服2.65等
喫煙、BMI、環境、合併症で補正すると若干コントロールとの差が縮んだが、糖尿病がハイリスクであることに対してどれも特定の説明因子とはなりませんでした。
そこで(3)では血糖コントロール不良に的を絞って検討が行われました。
糖尿病と感染の関係について従来、意外にも血糖コントロールの効果を見た研究は多くありません。理由は血糖、HbA1c測定のタイミングの難しさです。ストレス高血糖という現象から血糖高値と感染の因果関係がはっきりしなくなることが第一です。またA1cを一回測ったきりで普段の血糖コントロールを反映していないかもしれない研究もあります。データソースは(2)と同様ですが、HbA1c評価は2008年1月~2009年12月の平均で、感染症は2010年~約4.2年間のものです。結果です。
年令・性・診療地域補正後糖尿病なしとのIRR、入院例;1型A1c5%台以下 1.17 6%台2.82 7%台2.69 8%台2.79 9%台3.78 10%台5.42 11%台以上8.47、 2型A1c5%台以下 1.62 6%台1.37 7%台1.53 8%台1.92 9%台2.30 10%台3.23 11%台以上4.31
上記の65才以上層別解析、1型2型合計、入院例; 7%台まで著増なし9%台で中等度上昇 10%以上は2倍以上。 死亡例;10%以上で2倍以上
年令・性・診療地域・喫煙歴・BMI・罹患年数補正後糖尿病なしとのIRR、入院例;(1型2型合計) A1c5%台以下 1.18 6%台1 7%台1.05 8%台1.23 9%台1.43 10%台1.98 11%台以上2.70→罹患年数補正をしなくても傾向変わらず(5年未満を1とすると 5~15年1.23 15年以上1.54) また6%台にコントロールにした場合AF%は入院例16.5、処方例6.5 死亡例15.7
1型2型合計個別感染症の補正IRR とAF%;
骨関節感染症A1c5%台以下 1.12 6%台1 7%台1.55 8%台2.49 9%台3.45 10%台5.39 11%台以上8.71 AF%46.0
カンジダ感染症A1c5%台以下 0.93 6%台1 7%台1.15 8%台1.47 9%台1.50 10%台1.62 11%台以上1.92 AF%16.5
肺炎A1c5%台以下 1.23 6%台1 7%台1.10 8%台1.40 9%台1.71 10%台2.00 11%台以上2.68 AF%15.3
蜂窩織炎A1c5%台以下 1.22 6%台1 7%台1.07 8%台1.28 9%台1.63 10%台1.74 11%台以上2.29 AF%14.0
尿路感染症A1c5%台以下 1.01 6%台1 7%台1.06 8%台1.18 9%台1.21 10%台1.26 11%台以上1.44 AF%6.3
結核A1c5%台以下 0.27 6%台1 7%台1.47 8%台1.13 9%台1.40 10%台3.78 11%台以上3.04 AF%23.7
まとめです。
① 糖尿病は非糖尿病に比し入院を要する肺炎罹患率IRRは2型1.58、1型2.98程度である。
② 収入、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、CKD(慢性腎臓病)合併有無で補正すると(糖尿病以外何も問題ない場合)、入院を要する肺炎罹患率IRRは2.01→1.57程度にさがる。
③ 肺炎にはA1c6%台の人と比べ7%台で1.10 8%台で1.40 9%台で1.71 10%台で2.00 11%台以上で2.68 倍なりやすい。言い換えると6%台への血糖コントロールにより15.3%の肺炎が防止できる。
65才以上、HbA1c6%台、合併症なしのような人は糖尿病があってもない人に比べ肺炎で入院するリスクは1.0~1.3倍程度と文献からは読み取れますが新型コロナウイルス感染症のデータではないので、また高齢者は糖尿病がなくてもリスクが高いといわれているので油断は禁物です。
参考文献
- Kim EJら:糖尿病と感染リスク:国家コホート研究. Diabetes Metab J 43: 804-814, 2019
- Carey IMら: 1型および2型糖尿病の一般と比較した感染リスク:マッチングコホート研究. Diabetes Care 41: 513-521, March 2018
- Critchley JAら:大規模プライマリーケアコホート研究における血糖コントロールと1型および2型糖尿病患者感染リスク. Diabetes Care 41: 2127-2135, October 2018
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