今月の糖尿病ニュース

2020年3月の糖尿病ニュース

絶食状態擬態;SGLT2阻害剤作用機序もう一つの考え方

おおはしクリニックアメリカ糖尿病学会の糖尿病医療基準Standards of Medical Care in Diabetesによると糖尿病食事療法は決まったパターンでなく個別対応としています。そのうちのひとつ(と言ってよいのでしょうか?)カロリー制限と言えばアメリカウィスコンシン大学のアカゲザルの実験がテレビでも紹介され有名(カロリー制限有無によるサルの顔対比)ですが、16時間ダイエットというのも流行っているようで当クリニックの患者さんにも信者がいるようです。どちらも情報は簡単に入手できるのでここで詳細はのべませんが、後藤佐多良先生のWebサイト「健康長寿」を読むとカロリー制限は通常の30%も減少させなくてもより軽度の制限でよいのではないか、カロリー制限のみで運動をしないとサルコペニアやそれに伴う耐糖能障害が起こるのではないか、ビタミンミネラルを含む栄養バランスに注意しながらする必要があるのではないか(ヒトでは動物のように管理するのは難しい?)と注意が喚起されていました。ちなみに日本糖尿病学会診療ガイドラインでは肥満、血糖コントロール、動脈硬化悪化を理由に朝食を食べることを推奨しています。

さてそんな中SGLT2阻害剤の心腎保護作用を飢餓に似た休眠状態で説明しようという論文(1)(2)が今月Diabetes Care誌に掲載されました。
飢餓や低酸素、活性酸素など細胞ストレスへの適応応答として活性化されるSIRT1とAMPKはSGLT2阻害によっても活性化され、抗酸化作用、抗炎症作用、オートファジー増強から心筋・腎障害を改善するという説です。

以下(1)の要旨です。 1型糖尿病でオートファジーは亢進するが、2型ではSIRT1、AMPKとともにオートファジーは抑制される。細胞が過剰栄養状態のためである。高血糖より高インスリン状態がオートファジーを抑制するがAkt/mTORシグナル活性化による可能性がある。尿細管糸球体フィードバック(TGF)、ナトリウム水素交換輸送体(NHE)の抑制もSIRT1、AMPKとともにオートファジーの活性化との関連が報告されている。
ケトン体の増加は心臓陽性変力作用・エネルギーとなる基質の効率化というより、絶食様転写状態のバイオマーカーではないか。
SGLT2阻害剤は細胞を絶食状態のみならず低酸素状態と信じ込ませているのではないか。SIRT1はHIF-2α、 HIF-1αを活性化する。そのため赤血球増加がおこる。メトホルミンにもSIRT1とAMPKそしてオートファジー促進作用がありSGLT2阻害剤とオーバーラップする(そのため併用療法では効果が1+1<2となる可能性)。またHIF-1αを抑制する(ヘマトクリット減少)。HIF-2α、 HIF-1αともにSIRT1とAMPKによるオートファジー促進をさらに増強させるのでそれも他剤に比しSGLT2阻害剤の心腎保護作用を際立たせている可能性もある。

おおはしクリニック一般的な考え方を知るため総説(2)を見つけ閲覧したところSGLT2阻害剤が心・腎予後を改善する機序11項目が列挙されており、ケトン体増加は心臓陽性変力作用・エネルギーとなる基質の効率化として説明されていました。 TGF適正化、NHE抑制について(1)のような上流SIRT1、AMPK、オートファジー活性化の言及はありませんでした。 ここまでで素朴な疑問としては、インスリン分泌不全を主体とする2型糖尿病、または1型糖尿病においてもインスリン分泌過多タイプと同様SGLT2阻害剤に心腎保護作用はあるのかという点です。

解説(commentary)(1)の元になる論文(3)では有害環境に対する細胞反応には防御プログラムと休眠(Dormancy)プログラム があるとし、種々多数の動物実験結果からSGLT2阻害剤の効果は、少なくとも一部は、前者から後者への誘導ではないかと仮説を提唱しています。
防御プログラムは免疫増強、同化作用、PI3K mTOR c-Myc MAPK増加などで、
休眠プログラムは冬眠に似た状態で、FFA酸化亢進、ケトン体増加、 FGF21増加、FOXO AMPK増加などで特徴付けられています。
添付図からはとくに動脈硬化抑制作用が示唆されます。

参考文献
  1. Packer M:SGLT2阻害剤は絶食状態擬態を誘導する適応細胞再プログラミングを促進して心腎利益形成する:作用機序理解におけるパラダイムシフト. Diabetes Care 43: 508-511, March 2020
  2. 長田太助 南学正臣:SGLT2阻害薬はなぜ心不全・CKDにも効くのか. m3.comスペシャリストの視点シリーズ第15回2019年11月13日配信
  3. Avogaro Aら:SGLT2阻害剤心腎保護を細胞生活史プログラミングから再解釈する. Diabetes Care 43: 501-507, March 2020
2020年3月

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