今月の糖尿病ニュース

2020年2月の糖尿病ニュース

糖尿病における運動障害

糖尿病患者が転倒しやすいことはよく知られていますが、末梢神経障害による足の知覚低下、下肢筋力低下が主な原因と従来考えられてきました。糖尿病に関する脳機能研究は認知機能低下を中心に行われてきており、感覚運動分野の影響は研究が少ないのが現状です。今回糖尿病における神経系画像所見を動作コントロールと結びつけ考察した総説(1)を読みました。以下要旨です。

おおはしクリニック慢性高血糖とインスリン情報伝達欠損により炎症、酸化ストレス、内皮機能不全から脳血管関門統合性が失われる結果、糖尿病性細小血管障害が発症して脳白質病変、ラクナー梗塞、細小出血が発症する。また糖尿病患者では脳萎縮進行など全般的神経変性病理示唆所見も呈する。インスリン抵抗性の強い動物モデルでは神経可塑性が損なわれる。

第一運動皮質(M1)と二次性運動皮質群(MC)により随意運動はコントロールされている。皮質より皮質脊髄路(CST)、脊髄遠心性神経を経て筋収縮がおきる。
意識下体性感覚情報は脊髄求心性神経視床内シナップスから視床皮質路を経て第一体性感覚皮質(S1)に投射される。感覚運動皮質は皮質各部位間・皮質視床間処理の実質的統合を行う。運動機能にとって感覚運動統合が重要であることを反映している。
糖尿病はM1、 MC、 S1の萎縮・活動変化、関連白質投射の活動変化をもたらす。萎縮は血糖コントロールにより改善したという報告もある。
安静時機能MRIによればS1活動性は空腹時血糖と反比例した。一次二次性運動皮質活動性は糖尿病で低下している。活動性の低下は皮質の萎縮によるものか、逆に皮質代謝活性変化が神経死の前兆なのか、時間的関係は明らかでない。感覚運動皮質と下位器官間白質投射の変性と関連するといくつかのエビデンスは示唆する。
糖尿病患者では脊髄萎縮は末梢性神経障害があると一番顕著だが、無くても見られることから、脊髄白質萎縮は求心性末梢神経変性と上向性下向性中枢神経変性との二重の要因からなると考えられる。拡散テンソル画像(微細白質構造を捉えることができる撮影手法)で皮質脊髄路下向性(M1からの投射)白質微細構造整合性減少およびM1萎縮との関連が報告されている。神経伝導速度の低下も見られ微細構造整合性減少と合わせて考えると神経細胞消失または脱髄が想定される。手先の器用さにも影響する。視床S1方向への求心性神経伝導速度低下も末梢神経障害とは別個の糖尿病そのものの影響をうける。

小脳は運動強調、無意識下自己受容感覚(目を閉じても手足の位置がわかるなど)を司る。脊髄から感覚情報を受け下向性運動経路に投射する。さらに視床経由大脳とも両方向性連結があり運動協調・学習に重要な役割を果たす。小脳は低血糖障害からは保護されているが高血糖毒性には弱い。糖尿病患者の小脳体積は小さく、空腹時血糖と反比例する。体積減少は前葉後葉虫部白質微細構造変化を伴う。糖尿病の小脳機能への影響は明らかでない。
データドリブン全脳アプローチは脳機能探索的解析には適するが皮質小脳構造は個人差が大きいので安静時小脳活動研究結果にばらつきが生ずる。安静時接続分析によると小脳ネットワーク接続は糖尿病罹病期間、HbA1cと反比例する。糖尿病は虫部と半球中間部に影響する。脊髄、脳幹部からの情報を受け取る部位なので、近位筋と歩行時協調運動異常が見られる。しかし多数の糖尿病小脳研究が半球外側変化に変化を検出している。特に後葉異常のエビデンスが高い。大脳皮質との接続より遠位筋の到達運動の協調に関係する。エラーに基づく動作習得、予想的動作コントロール、運動協調の空間的時間的パターン化などに半球外側は重要な役割を果たす。

大脳基底核は大脳皮質、視床、脳幹から投射を受け視床経由大脳皮質へ出力する。小脳は連続性の運動を滑らかに協調的に行うことが役割だが大脳基底核は離散運動習得・向上に寄与する。糖尿病の影響に関して研究は大変少ないが歩行速度低下に関係しているかもしれない。

おおはしクリニック末梢性神経障害の中枢神経への影響を調べる際、注意を要するのは慢性神経障害性疼痛を別個に扱うことである。中枢神経感作が報告されているからである。末梢性神経障害のない糖尿病患者でも中枢性神経障害が先に起こりうるかどうかは重要だがさらに研究が必要である。
末梢神経障害によるフィードバック消失があっても中枢神経による代償的フィードフォワード機構が十分作動すれば運動は円滑に行われると考えられるが糖尿病患者のフィードフォワード障害についてさらに研究が必要である。注意力、遂行機能低下は運動機能に影響を及ぼすといわれる。

その他歩行速度低下が認知機能低下予知因子であること、高齢者はながら運動が苦手などの事実などより認知機能と運動機能の関連が考えられるが今後の糖尿病合併症研究にもこの視点が重要である。

おおはしクリニック今月NHKガッテンで「寝たきり予防の最新メソッド“小脳力”トレーニングSP」が放送されました。小脳機能低下に糖尿病の影響はあるのか?あるならどの程度あるか?放送では触れられませんでしたが興味のあるところです。

参考文献
  1. Ferris JKら:脳と体:糖尿病における運動障害への中枢神経系関与総説. Diabetes 69: 3-11, January 2020
2020年2月

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