今月の糖尿病ニュース

2020年1月の糖尿病ニュース

1型糖尿病とCGM / 脂質・蛋白質とインスリン量

新年あけましておめでとうございます。今月は1型糖尿病とCGM(持続血糖モニター)の特集がDiabetes Care誌に組まれました。海外においてCGM使用18歳以下1型患者は2011年5%未満でしたが2017年には31~44%と報告されています(1)。1型糖尿病と診断された直後からCGMを導入した結果も報告されました。平均9.7歳41名が診断後9日目に導入、3ヶ月後38名が継続平均TIR(血糖目標範囲内時間)70%でした(1)。

おおはしクリニックインスリン強化療法(MDI=頻回注射)、通常の自己血糖測定法(SMBG)施行中の人が持続皮下インスリン注入(CSII)、CGM、または両者(SAP)を勧められた場合どれを選択し(またはそのまま)結果がどうなるか4群間で比較検討されました(2)。研究の特徴は大学病院の患者であること、低血糖防止法、インスリン調節法、CSII・CGMなど機器説明からなる4日間のトレーニングプログラムを受けたのち患者が治療法を選択する非ランダム化法であることです。また3年間CGM装着率70%以上、94名中脱落者は3名、治療変更希望2名(SMBG→CGM 1名、MDI→CSII 1名)、死亡(乳がん)1名でした。非ランダム化試験のエビデンスレベルは落ちるとされますが、最近は実生活の行動(機器を選択する意志など)を反映する点でとくに医療機器の分野ではFDAなども重視しているそうです。結果インスリン投与法の如何に関わらずCGM群で有意にA1c低値(6.9~7.0 vs 7.7~8.0 前値は8.2~8.3)、TIR増加(69~72.3 vs 54.7~57.8 前値は48.7~51.8)が見られました。また低血糖(Time below range)減少はCGM群のみ見られました。CGM群ではインスリンボーラス注入回数が有意に多くなりました(6.9 vs 4.5)。外国の他研究からCSIIは28週当たり約30万円(8272-5623$)余分にかかるとされ年間50万円以上になる計算です(2)。また他研究より循環器系合併症のない成人糖尿病患者でA1c8%を7%に下げると3年間で820$の節約になると言われています(2)。CGMの一般費用、この研究でかかった費用について記載はありませんが医療経済面でも今後検討が行われる事でしょう。

おおはしクリニック1型糖尿病ではCGMを用いても難しいのが脂質、タンパク質に対するインスリン調節です。
このニュースでも2013年4月、2016年4月に取り上げたテーマです。1回目は脂質とタンパク質によるカロリー100kcalを1PFUと決め炭水化物10gに換算、CSIIスクエアボーラス法でPFU量により3~8時間で注入するというものでした。しかし個人差が大きく標準法とするには問題ありという結果でした。前回は献立をグリセミック指数(GI) 高低別に、脂質をオリーブオイルかバターに分けて検討、高GI食では脂質種類によって食後3時間血糖総和、ピークまでの時間に差があるという内容でした。
タンパク質はグルカゴン増加によるグリコーゲン分解、糖新生、ホルモン(グルカゴン、コルチゾール、成長ホルモン、IGF-1、グレリン)によるインスリン抵抗性を介して、脂質は遊離脂肪酸受容体、PPARを介するインスリン抵抗性、中性脂肪分解産物グリセロールからの糖新生を介して遅延かつ長時間の血糖上昇作用があります(3)。また脂肪には血糖調節ホルモン(グルカゴン、GLP-1、GIP、グレリン)に影響し、胃排出遅延作用もあります(3)。

これらを背景に今回脂質に関してインスリン必要量、投与方法が検討されました(4)。
以下結果です。
45gの糖質に4段階(0、20、40、60g)の脂質を混ぜICR(インスリンカーボ比)に基づきインスリンを投与(dual-wave 50/50% 2時間)すると、脂質量に比例して食後0~2時間の血糖総和は減少、2~5時間は増加した(同様の現象は蛋白質についてもPaterson MAらによって報告されている)。脂質の種類によるパターンの差はなかった。なお脂質0gでは低血糖が47%の人に起きたことよりICRは標準的な量の脂質を摂取することを前提に考えるべきである。
次に脂質20、40、60g各食にMPB法(今回詳細は省略)を用いて最適インスリン投与法を検討すると20gでは6%インスリン増量dual-waveで配分74/26%時間73分、40gでは同6% 63/37% 75分、60gでは同21% 49/51% 105分だった。

インスリン増量分が既報(40~65%)より少ないのは今回蛋白抜きで試験したためと考察しています。ところでこのテーマでMDIを用いた研究はあまりありません。超速効型インスリンなら30%食後3時間に追加、または速効インスリンの使用が提案されていますが一般化されるには至っていません。著者らは将来インスリンポンプにプログラムするなど使いやすいツールを作ることを目指しています。人工膵のへの応用ももちろんです(4)。

おおはしクリニック最近台湾を旅行する機会がありました。コース料理では必ず青菜の温野菜が出て薄味でヘルシーな感じでした。調べてみると台湾人は生野菜をあまり食べないものの温野菜はよく食べるようでした(5)。もうひとつ気付いたのはバイクの多さです。とくに夏はとても暑いので皆歩かないそうです。すると糖尿病の罹患・有病率は差し引きどうなるだろうと調べてみると患者数は2000年から2014年の間に2.6倍で約10人に1人の割合に、20才以下に限ると2008年から4割り増し(Radio Taiwan International Webサイト;中華民国糖尿病衛教学会調査、台湾糖尿病年鑑より)とのことでした。 飲食の西洋化が災いした(同Webサイト)そうですが、それでも2000年ごろは糖尿病が少なかったかもしれず野菜の摂り方は参考になるのではと思いました。
厚生労働省国民健康・栄養調査によると野菜の1日摂取量は2018年288.2gでこの10年横ばいと分析されています。一方台湾ではほとんどサラダは食べないにも関わらず2003年307.7g、2004年310.14gでした(5)。某メーカーが「野菜をとろうあと60g」というキャンペーンを始めたとのことですが展開が楽しみになりました。煮物・お浸しなどに比べ比較的手軽な炒め物ですが、それに適した台湾野菜も野菜不足解消に貢献するかもしれません。薄味米少量中華丼などどうでしょうか。沖縄は台湾に似たところもある(5)そうですが、チャンプルーもいいですね。

*お断り;最近Diabetes Care誌では「糖尿病患者」ではなく「糖尿病をもつ人」と表現されているようですがPerson with Diabetesの簡潔な日本語訳がないためこのニュースでは当面糖尿病患者と記します。

参考文献
  1. Hood KK, Riddle MCら:CGMを1型糖尿病患者に役立たせる. Diabetes Care 43: 19-21, January 2020
  2. Soupal Jら:成人1型糖尿病において血糖アウトカムはインスリン投与法よりCGMに影響される:COMISAIR研究3年の経過から. Diabetes Care 43: 37-43, January 2020
  3. Smart CEMら:脂肪と蛋白に対するインスリン量:まだこれから? Diabetes Care 43: 13-15, January 2020
  4. Bell KJら:1型糖尿病における食物中の脂肪量、種類、食後血糖とインスリン必要量:ランダム化被検者内試験. Diabetes Care 43: 59-66, January 2020
  5. 坂口文馨 タニグチマサヒト: 日本における「台湾野菜」の食べられ方を通して見えてくる日本の食文化. 兵庫教育大学修士論文2013年3月
2020年1月

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