今月の糖尿病ニュース

2019年12月の糖尿病ニュース

グルカゴン

おおはしクリニック今月14~15日CVMW2019(日本心血管内分泌代謝学会ほか3学会合同による心血管代謝週間)が神戸で開催され、「グルカゴンファミリーの心病態生理における役割」という講演を聴きました。グルカゴンといえば従来インスリンと並ぶ2大血糖調節因子のひとつとして馴染みがあるのですが、近年循環器領域はじめ多方面で注目されているようです。臨床現場にSGLT2阻害剤とGLP-1受容体作動薬が登場脚光を浴びていますが、作用機序理解にもグルカゴンの知識は必須と思われ、難解ですがいくつか文献を読んでみました。以下要点を列挙します。

プログルカゴンのプロセシング(前駆体変化);腸管・脳ではPC(prohormone convertase)1/3によりGLP-1、GLP-2、オキシントモジュリンが、膵α細胞ではPC2によりグルカゴン生成
グルカゴン分泌制御;低血糖→ATP/ADP低下→→Ca2+イオン流入、低血糖→膵交感神経、炭水化物摂取→高血糖→GLP-1 GLP-2 GIP、高血糖→インスリン・ソマトスタチンからパラクリンシグナル、その他膵島内因子(ウロコルチン3 亜鉛 GABA Lグルタミン酸 γアミノ酪酸 アミリン エフリン、膵島外シグナル(グレリン ガストリン)
SGLT2阻害剤によるグルカゴン分泌促進は尿糖排出に伴う間接作用?(SugaTらはマウス膵α細胞のSGLT1の関与を2019molecular metabolism誌19巻に発表)
グルカゴン測定;グルカゴン以外にN端抗体はオキシントモジュリンを、側鎖抗体はグリセンチン、オキシントモジュリン、プログルカゴン1-61を、C端抗体はプログルカゴン1-61と反応する。従って両端サンドイッチELISAが必要かもしれない。
グルカゴン受容体シグナリング(グルカゴンと糖恒常性);肝細胞質cAMP→PKA 経路でグリコーゲン分解、糖新生するが、グリコーゲン備蓄、アミノ酸供給に依存。グルカゴン受容体阻害は空腹時血糖を下げるが肝脂肪、血圧、LDLを増加させる。
グルカゴン受容体作動薬はGLP-1と同時投与すると人ではGLP-1単独投与より食事摂取量が減る
グルカゴン受容体シグナリング(グルカゴンとアミノ酸代謝);肝内尿素サイクル関連酵素(NAG CPS-1 NAGS)活性上昇から肝内アミノ酸回転率を強力に刺激。タンパク質摂取によりグルカゴンはインスリンとともに分泌される(インスリンは筋に取り込み蛋白合成に用いる。インスリン分泌による低血糖防止効果もあると考えられる。炭水化物単独摂取ではグルカゴンは分泌されない)。マウスでアミノ酸静注下インスリン(IRA)またはグルカゴン受容体阻害剤(GRA)を投与するとGRA投与下のみ高アミノ酸血症が見られた。げっ歯類で肝グルカゴン受容体シグナリングを阻害するとα細胞増殖、高グルカゴン血症、高アミノ酸血症が見られる。高アミノ酸血症はα細胞過形成一因とも考えられる。これらの現象は肝・α細胞軸と名付けられている。この時α細胞にはアミノ酸輸送体Slc38a5(ヒト膵島移植マウスではSlc38a4)が増加している。2型糖尿病と非アルコール性脂肪肝患者を比較すると後者で高グルカゴン血症、高アミノ酸血症が多い。
グルカゴン抵抗性;十分なデータはないが肝糖産生に抵抗性なくアミノ酸代謝障害のあるタイプがあり脂肪肝に合併多い。糖新生と尿素生成を区別する分子シグナルは何か解明が必要。プロテインキナーゼCがグルカゴン受容体脱感作に介在している可能性。脂質も関与している可能性。指標は血中グルカゴンとアミノ酸濃度測定が考えられるが正確にはクランプ法が必要である。(以上(1)より)
尿素サイクルと糖新生はリンクしている。グルカゴンの本来の役目はアミノ酸調節かもしれない(2)。

おおはしクリニック
グルカゴンの心臓への作用は古くから知られ臨床的にも代表例としてβ遮断剤、カルシウム拮抗剤による徐脈治療への適用が挙げられます。外因性グルカゴン投与は概して心不全患者の予後を改善しないと考えられていますが、用量反応関係、長期投与効果などは今後の検討課題です(3)。
その他にもグルカゴン受容体シグナリング、GLP-1、オキシントモジュリンについて興味深い論文(4)(5)を見つけましたが内容は別の機会とします。

参考文献
  1. Janah Lら: Glucagon Receptor Signaling and Glucagon Resistanceグルカゴン受容体シグナリングとグルカゴン抵抗性. Int. J. Mol. Sci. 20(13): 3314, July 2019
  2. Dean ED: A Primary Role for Alpha Cells as Amino Acid Sensors アミノ酸センサーとしてのα細胞本来の役割. Diabetes. Published online October 25, 2019
  3. Petersen KMら:グルカゴンの血行動態効果:文献レビュー. J Clin Endocrinol Metab 103: 1804-1812, May 2018
  4. Kim Tら:グルカゴン受容体シグナリングはFXRとFGF21を介してエネルギー代謝を制御する. Diabetes 67: 1773-1782, September 2018
  5. Behary Pら:GLP-1、オキシントモジュリンとペプチドYYは前糖尿病または2型糖尿病をもつ肥満者において体重と血糖を改善する:ランダム化一重盲検プラセボ対照試験. Diabetes Care 42: 1446-1453, August 2019
2019年12月

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