今月の糖尿病ニュース

2019年9月の糖尿病ニュース

糖尿病をもつ若年成人の心血管代謝リスク

おおはしクリニック今月中旬ヨーロッパ糖尿病学会(EASD)会議がスペインバルセロナで開催されました。参加はしていませんがWeb上バーチャルミーティングが公開されているのでいくつか視聴してみました。REWIND、RISEなど6月のアメリカ糖尿病学会続報も発表されたようですが残念ながら23日時点で未公開でした。6月の当ニュースでも御紹介したCAROLINA試験関連はすべて公開され、論文も19日JAMA誌に掲載されました。少なくとも比較的軽症(病歴6年程度、心血管リスクの高くない)患者に投与する限り、グリメピリド(すべてのSU剤ではない)において添付文書上心血管リスクの警告は不要だろうと結論されました。

若者(小児~若年成人)の2型糖尿病についてはシンポジウム、一般口演セッション共開かれ、インスリンとメトホルミン以外適応のない小児2型糖尿病にGLP-1受容体作動薬を投与した試験など興味深い演題もありましたが、今回はDiabetes Care誌から関連論文(1)(2)を読んでみました。

米国においてSEARCH研究等により若年(主として10才代)の1型および2型糖尿病の発症率・有病率が増えているにも関わらず、18才から44才の比較的若い成人の糖尿病の研究論文がほとんどないことが背景にあります。そこで今回Saydahらは米国国民健康栄養調査NHANES2007~2016年分を解析し18~44才(younger以下Y)と45才以上(older以下O)の2群に分けさらに糖尿病合併有無により2群ずつ計4群に分けました。そして差分の差分析法(各年令群別に糖尿病合併有無による平均脂質、血圧値等の差分を計算し、その差分の比較により各年令群の特徴を示す方法)により18~44才糖尿病合併者の特徴を割り出しました。

Y群糖尿病合併者460名非合併者10438名、O群糖尿病合併者3034名非合併者9866名、 Y群糖尿病合併者の平均年令は36.4才、糖尿病歴7.7年、65%がかかりつけ医療機関ありでした。日本とは事情が違いますが29%が健康保険に加入していませんでした。

差分の差分析法によるY群糖尿病合併者の特徴は総コレステロール/HDLコレステロール(T/H)5.9以上、BMI>30、体重身長比WHtR0.5以上者の比率が有意にO群より高いことでした。
その他主なデータとしてY群糖尿病合併者の脂質治療薬服用者20.5%(O群55.5%)、脂質コントロール不良者(T/H5.9以上かつ薬非服用)27.5%(O群16.1%)、HbA1c9%以上25.5%(O群12.6%)、CKD合併率27.2%(O群35%)でした。血圧140/90以上14.0%(O群28.1%)、心血管疾患既往8.6%(O群26.5%)はO群が高い傾向でした。
不健康な食事(HEI2010指数59.7未満)は糖尿病合併者でY群85.5%、O群70.3%、非合併者でY群78.8%、O群67.9%でした。運動不足(週運動時間2時間半未満)は糖尿病合併者でY群74.5%、O群79.5%、非合併者でY群57.5%、O群67.8%でした。喫煙者は約Y群30%、O群20%(糖尿病合併有無で有意差なし)でした。
貧困率(Poverty-income ratio貧困収入比PIR1.33未満)は糖尿病合併者でY群35.9%、O群25.6%、非合併者でY群28.1%、O群16.2%でした。因みにY群糖尿病合併者でPIR3.5以上(経済的裕福者)は28.1%でした。

今回の研究の弱点は、糖尿病について2型であること(1型でないこと)が確認されていないことです。
今後の課題としてはY群とO群の差が病態生理(少なくとも未成年2型においては明らかにされている典型例において著明なインスリン抵抗性とβ細胞インスリン分泌能の急速な低下)から生じるものなのか、その他社会経済環境、医療保険、小児科から内科への移行問題が組み合わさったものなのかの解明です。
今回の研究結果から適切な介入をしないと長期に渡って高血糖、高血圧、肥満、炎症に暴露される結果、末期腎臓病、心疾患、脳卒中、うっ血性心不全を前世代より若い年令で発症することが予想されるので更なる研究が必須の分野です。

参考文献
  1. Saydah SHら: 米国における糖尿病をもつ若年成人の心血管代謝リスク輪郭. Diabetes Care 42: 1895-1902, October 2019
  2. Dabelea Dら: 糖尿病をもつ若年成人における心血管代謝リスク上昇:対処の必要. Diabetes Care 42: 1845-1846, October 2019
2019年9月

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