今月の糖尿病ニュース

2019年8月の糖尿病ニュース

Diabetes Advocacy:糖尿病アドボカシーとStigma

おおはしクリニックアドボカシーとは政治、経済、社会などにおける決定に影響を与えることを目的とした個人・グループによる社会活動や啓蒙運動(ウイキペディア)のことです。ADA:アメリカ糖尿病協会(学会)は糖尿病に関するアドボカシーに大変力を入れていて、毎年1月Diabetes Care別冊として発行されるStandards of Medical Care in Diabetes:標準糖尿病医療2019 年版にも16章中1章丸ごと割りあてています。糖尿病を持つ人が車の運転、就職で差別を受けないように、などいくつかの声明からなり2019年版にはインスリン価格(なぜ高いか)の声明が追加されています。
以下にのべるStigmaを軽減するのにも無くてはならないものでしょう。

Stigmaとは汚名、恥辱と訳され糖尿病関連Stigmaとは糖尿病に対するネガティブな社会的判断のことです(1)。
Stigmaの評価に提唱されているDSAS-2 (2)は、①違う扱いをうける(Treated differently)関連6項目、②非難と批判(Blame and judgment)関連7項目、③自己汚名(Self-Stigma)関連6項目(自分は失敗した、罪の意識など)から成る質問表です。
糖尿病を持たない人はおろか医療関係者でさえ糖尿病を持つ人がStigmaをかかえていることを認識していません。ある調査では1型糖尿病で76%、2型糖尿病で52%の人がStigmaを持っているそうです。自己コントロールができない人、生活習慣の悪い人などという固定概念から職場で上役や同僚に糖尿病のことが知れると業務に支障が出るのではと悩むこと、友人に知れると関係を失わないか心配することなどはStigmaで上記①②に該当します(1)。したがって職場でインスリンが打てない、血糖測定ができないこともStigmaが 原因となり得ます(1)。働き盛りの人が糖尿病を放置する原因としてStigmaは重要であることを今月ある講演会でも聴きました。

おおはしクリニック今年6月に開催されたADA学術集会最優秀(outstanding)糖尿病教育者賞もVirginiaValentine先生の「人に与える最も大切なことは希望である、糖尿病と肥満におけるStigmaを克服する」とSigmaがテーマでした(講演はADAホームページ上無料公開されています)。自身糖尿病がありStigmaを感じたことから減量に励んだ話、両親とも糖尿病の家系であることからIt’s not your fault(自分を責めないで)と笑いと涙を交え語りかけ、間違いをしたとしたら祖母を選びそこなったことだけとジョーク、そして言葉遣いの大切さを強調されていました。
引用文献(3)から悪い例→良い例をいくつか提示します。
コンプライアンス、アドヒアランスが悪い→半分薬をのんだ、可能な限りインスリンを打った;他者の判断を交えず事実を述べる。
コントロール不良→A1c○○など;判断を含まない
Diabetic(normal) person→Person with(without) diabetes糖尿病のある(ない)人;病名を人の先に付けない 病名を先につけると先入観を生じる。
してはいけない、するべき→してみましたか?あなたのプランは?;指示すると相手は罪悪感、恥辱を感じる。
拒否した(refused)→断った(declined);人の権利を尊重する。
失明する、透析必要になる→糖尿病があっても元気な人が増えてきました、一緒にプランを造りましょう;脅しは効果が少ない 他に「何ができない」は避け「何ができる」に重点を置くこともポイントとして挙げられています。
なぜ言葉遣いが重要かはExpectancy theory(期待理論)などが科学的な説明として挙げられていますが糖尿病ではどうか?言葉遣いでStigmaがどの程度解決できるか? 言葉遣いで糖尿病の予後が変わるか?糖尿病のタイプ、重症度の違いにより言葉遣いの効果は異なるか? メディアが言葉遣いに気をつけるとどの程度効果あるか?などが今後の課題としてあげられています。

参考文献
  1. diabetesaustralia.com.au>Home>News & Resouces>News>:The Diabetes Stigma. 2014年9月22日
  2. Browne JLら: 2型糖尿病を取り巻くStigmaを測ること:DSAS-2(2型糖尿病Stigma Assessment Scale)の開発と検証. Diabetes Care 39: 2140-2148, December 2016
  3. Dickinson JKら: 糖尿病ケアと教育における言葉遣い. Diabetes Care 40: 1790-1799, December 2017
2019年8月

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