今月の糖尿病ニュース

2019年4月の糖尿病ニュース

糖尿病性網膜症と個別化医療

おおはしクリニック糖尿病性網膜症は中途失明原因として緑内障に次ぎ2位、15.6%(日本眼科学会雑誌2014年)を占めます。糖尿病性網膜症の病期分類は日本糖尿病眼学会発行、糖尿病眼手帳をみると改変Davis分類(単純網膜症 増殖前網膜症 増殖網膜症)、福田分類(良性網膜症A1~5 悪性網膜症B1~5)に並んで、国際重症度分類も記載されています。
糖尿病性網膜症の所見を細かくスコア化したETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)分類に基づく調査の結果、増殖性網膜症への進行に有意に関与10所見のうち、特に重要なのがIRMA網膜内細小血管異常、網膜出血、毛細血管瘤、静脈の数珠状拡張でした。国際重症度分類はこの知見をもとに非増殖期を重点的に分けた分類であり国際的な基準として学術的に重要(高村佳弘 福井県医師会だより 654号から抜粋)です。

今回スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)、OCTアンギオグラフィー(OCTA)所見と7面カラー眼底写真によるETDRS分類を対比しました(1)。

既報より軽症非増殖性網膜症の表現型は以下の3種に分類されOCTで定量化できます。 神経変性:網膜神経繊維層RNFLおよび神経節細胞層+内側網状層GCL-IPLの菲薄化
網膜浮腫:網膜全層および各層の厚さの増加
虚血:OCTAによる血管密度減少

一方ETDRS分類により分けられた3群は
ETDRS10-20:網膜症なし~最小限変化のある非増殖性網膜症54名 平均HbA1c6.9%
ETDRS35:軽症非増殖性網膜症54名 平均HbA1c7.3%
ETDRS43-47:中等度非増殖性網膜症34名 平均HbA1c8.0%
であり各群1人1人のOCT所見を調べたところ
虚血所見のみETDRS分類3群間で有意な差が認められ、神経変性と網膜浮腫には各群間に差が認められませんでした。
同じ血糖コントロール状況でも網膜症の進行の速い人、遅い人がいることは日頃診療でよく経験する所ですが虚血性所見を持つ人は増殖性網膜症に進行しやすいことが示唆されOCTの有用性が示されました。また同じ重症度でも神経変性、網膜浮腫の程度は患者によりまちまちであることもわかりました。

おおはしクリニック1型糖尿病歴50年以上という集団において増殖性網膜症合併者は非増殖性網膜症合併者に比し神経障害、大血管障害を合併率が高く、その機序として血糖コントロールの優劣とは別にレニンアンギオテンシンアルドステロン系の活性化が提唱されています(2)。
網膜症研究の進歩と糖尿病合併症の医療個別化が今後も注目されます。



参考文献
  1. Marques IPら:初期糖尿病性網膜症の多面的画像化:患者一人一人違う病気の進行. Diabetes 68: 648-653, March 2019
  2. Lovshin JAら:網膜症とレニンアンギオテンシンアルドステロン系活性化:カナダ1型糖尿病長寿研究からの結果.Diabetes Care 42: 273-280, February 2019
2019年4月

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